丸山くがね 『オーバーロード』 1~13巻 感想

〇前書き
WEB小説発のライトノベル「オーバーロード」の感想です。昨年末、猛烈に長編ラノベが読みたくなって手を出し、一気にハマってしまいました。活字媒体の本を読み返すことってあんまりないんですが、オーバーロードは読み終わってからも何となく読み返してしまい、都合2~3回程度は再読してしまいました。かなりダークでハードな世界の割に、基本やってることがギャグっていうギャップが面白い。


〇作品概要
ディストピア風味漂う近未来の世界で、かつて流行していたオンラインゲーム「ユグドラシル」に心の底からどっぷりハマり込んだ主人公「鈴木悟」こと「モモンガ」改め「アインズ」が、ゲームのサービス終了とともにゲームアバターの状態のままファンタジー世界に転移し、その圧倒的な戦力を背景にして異世界を侵略・征服していく、という流れのダークファンタジー小説となります。なろうで流行りの異世界転生ものは、コミュ障・オタク・孤独のいずれを備えた主人公に超能力やチート能力を付与して異世界に送り込む、というメソッドを採用していることが多いですが、今作は主人公とその仲間たち(といっても、同じ元人間はアインズだけで、アインズ以外は元NPCですが)がまとめて異世界に召喚されていて、多少毛色が違っています。

また、主人公が善・正義の立場を取ることが多いラノベ界隈にあっては珍しいことに、アインズは悪の側に属しています。勧善懲悪ではない、いわば勧悪懲善の物語であることが一番の特徴といえるでしょう。アインズはアバターデザインからして骸骨の容姿をしたアンデットキャラクターであり、その邪悪なデザインはラスボス感満載。小説の挿絵は素晴らしいですね。もちろんその中身はごくごく普通(……言うほど普通か?)の社会人なのですが、この様相を見て人間に準じた精神性を持っていると見抜ける人はおらず、まずは見た目で恐怖され、立ち居振る舞いから心底悪魔のような奴だと畏怖され、あげく意図や行動を深読みされては神様のごとく畏敬される、というのが作中の様式美となっております。

ちなみに、アインズはユグドラシル内でギルド「アインズ・ウール・ゴウン」のギルト長を務めていました。アインズ・ウール・ゴウンは異形種アバターのみで構成された社会人ギルドでしたが、長いサービスの間にメンバーは少しずつ引退していき、最後に残ったギルメンはわずか余名。サービス終了時に彼らの姿がなかったことから、実質的にはアインズ一人だけで運営されていたようなものだったのではないかと思われます。アインズはゲームを引退していったメンバーたちは悪くない、仕方ないことだと述懐しながらも、かなり強く引きずっており、異世界にやってきた時にもこの世界には自分以外にもギルドのメンバーがいるかも、じゃあギルド名を名乗っていれば自分がいるって気づいて来てくれるんじゃ?と考えてアインズを名乗るようになります。作中でも随所にみられるように、かなりギルドに愛着を抱いていたようであり、人のいいギルド長の役回りを自ら進んで担っていたようです。

ただ、そんなアインズですが、異世界に召喚されたことで精神からアンデッドになってしまっていて、人間に対する同情や共感が薄れており、良心が欠落してしまったため、平気でかなり無慈悲な行為をとります。積極的に示威を行うわけではなく、残虐行為に快感を覚える異常者とまではいきませんが、それでも自分の意にそぐわない人間は割とあっさりと殺すし、自分(より正確に言うと自分とその仲間たちが所属するナザリックという地下墓地)に利益があるのならそれによって他者が犠牲になることを厭わず、積極的に不幸に陥れていきます。アンチヒーローものというよりも、クライム小説に近いかもしれません。このナザリック至上主義の価値観を抵抗感なく受け入れられるかどうかが、一つの分水嶺になるかと思います。私はあまり作品の登場人物には感情移入しないほうなので、気にならなかったですが、良心的な人であれば読んでてつらくなるであろう残虐シーンがかなりありますので、注意が必要です。

実際のところ、アインズは一部理性的なところがある狂人です。読者からすれば、部分部分には共感できる人物造形なのが絶妙で、悪く言えば小市民な性格なのに、無条件で崇拝される宗教組織のトップになってしまった哀切を面白おかしく眺めつつ、アインズと一緒にもう二度と手に入らない過去の尊さに思いを馳せることで優しい気分にもなれるのですが、傍から見ればやっていることは大虐殺でしかない。何を考えているのかわからないところも含めて、恐怖の対象でしかないでしょう。

〇ざっくりとしたストーリー紹介と雑感
そんなわけで、以下各巻のストーリー説明と雑感です。13巻分もあるので端折り目です(それでも十分長いですが……)。

1巻。ユグドラシルのサービスが終了するその日、アインズは最後にやってきた仲間と短いやり取りを終えて、一人寂しくサービス終了となるその時を待ってたが、いざその時が訪れてもサーバーが落ちる気配がなく、ゲームからログアウトすることもできなくなってしまう。動揺するアインズは、本来意思を持たないはずのNPCたちとの会話が成立することなどから異常事態に陥っていることを認識し、やがて自分がログインしていたゲーム世界とは違う異世界にやってきたことに気づく……、という流れ。導入部分の設定だけをみると、ログアウト不可能なデスゲームのノリに近いですね。アインズ率いるナザリックは、この世界においては比類なき戦力を保持していて、異世界全ての戦力を結集しても勝てないんじゃないかと思われるほど原住民たちとの戦力差は歴然なので、今後の展開は圧倒的強者による弱いものいじめみたいになっていくわけですが、この時点のアインズにはそんなことはわかりようがなく、その小心的かつ猜疑的な性格から、慎重かつ丁寧に、異世界の実情を把握していきます。この辺の用心深過ぎる手探り感がじれったいと思う人もいるんじゃないかと思います。巻数も多いし、作品のノリが肌に合わないことも考えられるので、まずは感触だけでも確かめたいって人は、とりあえずアニメの1話を見てみることをオススメします。私はアニメから入りました。

2巻。異世界の情報収集を行うため、「モモン」という冒険者に扮してクエスト消化を行い、異世界住民にモモンさんマジぱねえとリスペクトを高めさせるべく無双していたら、余計な横やりを入れられてご立腹、敵対する相手を容赦なくぶっ殺す、という上品なファンタジーではまず見られないだろう暴力的な展開になっています。ここで登場する敵対組織はこの世界ではそれなりのレベルに属するものの、ナザリック勢には手も足も出ないまま蹂躙されます(1巻もそうですが)。今後この世界の住民がどのような運命をたどるのか、推して知るべし。

3巻。ここまでがアニメの1期となります。1~2巻はアインズ視点の物語でしたが、3巻の前半部分はアインズ以外の視点が描かれていて、ナザリック階層守護者(全10階層あるナザリックのフロア責任者のこと)のシャルティアが現地で情報収集していたところ、やんちゃのしすぎで暴走し、あげく洗脳されて敵対の身になってしまう、という(今のところ)最初で最後のナザリックがピンチに陥る展開(そして、言うほどピンチというほどでもない)。宝物庫に飾ってある仲間のアバターを見て、今はいないギルド仲間たちへの憧憬に浸るアインズの述懐シーンが共感を誘うのですが、よく考えたら一人でいなくなった仲間全員のアバターを手作りで作るってちょっと狂気入っている気がするんですよね……。物憂げなアインズを見て、自分たちの前からいなくならないでほしいと哀願するアルベドのシーンと合わせて、切なくいいシーンのはずなんですが、何か素直に感傷的にさせてくれない不穏さがあります。

4巻。ナザリック陣営が、現地のリザードマンに対して圧倒的な戦力で侵略し、一方的に征服する、というこれまでとは毛色の異なる展開になっています。9割がたリザードマン視点で物語が進行され、ナザリックサイドの描写はほとんどされない、というシリーズの中でも異色の一冊。リザードマンたちはナザリックに抗うべく懸命に奮闘するのですが、当然敵うはずもなく、あっけなく蹂躙され、哀れナザリックの支配下に。これまでのアインズの行動は十分暴力的でしたが、それでもまだ目の前の障害や降りかかる火の粉を振り払うくらいの行為に留まっていて、少しは正当化できるような理由がありました。しかし、ここからはその僅かな正当化できる理由すらなくなり、自分たちの利益になることであれば是非もなく蹂躙する、という邪悪さが加速度的に露呈していきます。ナザリックの自分本位すぎる思想に嫌悪を感じる方はむしろまともだと思いますので、そういう人はここらで読むのをやめたほうがいいでしょう。この先、その傾向は薄れていくどころか、どんどん増していきます。

5巻と6巻。上下巻なのでまとめて。ここまでがアニメの2期となります。アインズがやってきた異世界には本当にざっくり分けると「王国・帝国・法国・聖王国・その他」の勢力圏があって、今回は王国で暮らす人々と、そこで潜入調査をやっているナザリックのバトラー・セバスが主役。4巻もそうでしたが、アインズはほとんど出てこず、サブキャラクターの掘り下げがメインになっています。また、6巻では今はまだ秘められているアルベドの不穏な思想が仄めかされていたりもして、この物語の行く末が一筋縄ではいかなさそうなことが暗示されています。アルベドは、アインズ以外のギルメンのことには、心の底では一切従順していなくて、むしろ悪意を抱いている、ということだと思われますが、さて。

7巻。帝国で活動するワーカー(危険な仕事やら汚れ仕事やらを請け負う冒険者みたいなもの)をナザリックに誘いこみ、無断で入り込んだ罪で極刑に処する、といういよいよもってやりたい放題し始めたナザリックの暴虐さを見せつける展開になっています。個人的には「ここからが本当のオーバーロードだ……」という感じで、今まではその一端しか覗かせていなかったアインズの人でなしっぷりの神髄と、ナザリックの面々の人類に対する良心の欠落っぷりがいかんなく発揮され始めます。これまでも十分にその気がありましたが、特に7巻のエピソードのマッチポンプぶりはすさまじい。自ら自分たちに歯向かうようけしかけた勢力に対してブチ切れているアインズにはドン引きするしかない。「俺は嫌だったんだ」ってあんた……。ここの茶番感はもはや滑稽ですらあります。このアインズのポンコツっぷりと、そんなアインズの行動を見た者たちからの勘違いにより思い込みは、この先様式美化していきます。残酷な描写をしているのに、ノリがコメディテイストなので、感覚も麻痺していく。この感覚に慣らしていくことを意図してやっており、その先でやろうとしていることがあるのであれば面白いのですが、どうでしょう。アルベドの最終目標と、アインズではなく、アインズ・ウール・ゴウンの最後次第では、それなりにショッキングなことになり、メタ的なダメージも大きくなると思うのですが。ともあれ、ワーカーを送り込んだのは帝国の皇帝ジルクニフだったということにして、無理やり因縁を吹っ掛けたところでこの巻は終了。

8巻。シリーズ初の短編集。アインズと階層守護者を始めとするNPCが親交(むしろ信仰か)を深めていくお話。サブキャラクターの掘り下げメインのエピソードなので、あまり書くことがありません。アインズを妄信するNPCと、そんな彼らを慈愛するアインズの関係は、微笑ましいような、あまり笑えないような……。

9巻。これまでのペースからすると、アニメの3期はここまでやって終わり、ということになるのでしょうか。オーバーロードの山場となる巻です。4巻でやったリザードマンへの侵略の規模をより大きくしたお話。7巻の終わりから直接続いていて、ジルクニフがナザリックまで直接謝罪に来、帝国とナザリックは同盟を締結、アインズは帝国にナザリック建国に助力してもらう代わりに、王国を攻めることになる……という流れ。そんなわけで、今回の犠牲者は王国民たちになります。ジルクニフからのアインズへの過大評価が原因で、この先帝国は傾いていくわけですが、それはおいておいて、一番の見どころは4章ですね。ここがオーバーロードの中でもっとも酷い内容になっていると思います。タイトルは「大虐殺」。その名の通り、アインズが魔法一発で王国民7万人もの命を奪い、これは最高記録だろうと無邪気に大喜びしている様子が描かれます。作者がどこまで意識してやっているのかがわからないのですが、この派手な魔法は大ウケだったに違いない、と内心で考えているアインズには一切の人間性が感じられず、人によっては寒々しくなることでしょう。はっきりいってここまでいくとサイコパスなので、受け付けられない人もいるんじゃないかと思います。

10巻。オーバーロードは元WEB小説であり(そして現在もなろうで公開中)、9巻まではWEB版の設定・展開をリビルドした内容になっておりますが、この10巻からはWEB版とは全く異なる展開に進んでいきます。無事アインズ・ウール・ゴウン魔導国を建国したアインズは、絶対の支配者として振る舞い続けることへのプレッシャーに耐え兼ね、なんかやることないかなと思いあぐねた結果、冒険者組合を使ってこの世界の情報を収集することを思いつき、あれこれ行動した結果、流れで帝国を傘下に収めてしまう……という前回とは打って変わってコミカルな雰囲気になっています。要は「アインズ様、頑張る」、なお話です。なんかもうここまでくるともうギャグ小説ですね。思いどおりの成果を出せず、なんでこーなるの、みたいな感じでトホホになっているアインズは確かに微笑ましいのですが、しかしここまでやってきたことに一切良心の呵責を抱いていないということを思うと、空恐ろしくもあります。

11巻。ジルクリフが魔導国の属国になりたいと言ってきたけどどうしよう、とりあえず時間稼ぎに新天地の開拓でもしてみるか!という流れでアインズと階層守護者のシャルティア・アウラの3人でドワーフの生活圏へと冒険に行くお話です。前回から異世界を冒険している感じが続いていて、そろそろ物語が核心に向かって進んでいったのかな、という感じがします。思い違いで知識を披露して内心赤くなったアインズが、これを機会に自分は大したやつじゃないと気づいてもらおうと決意してみるも、当然のように上手くいかず、いつもどおりアインズへのリスペクトが高まってより神格化されていく、という様式美も完備しており、ファンサービスも十分。

12巻と13巻。上下巻なのでまとめて。今度の舞台は聖王国ということで、アインズが初となるアインズ教の信者を得るまでの流れを描いたお話となっております。ナザリックサイドの者たちはそのほとんどが人類をゴミクズ同然みたいに考えていますが、ネイアというアインズ様マンセーを行う外部の人間が生まれたことで、新たな平和的友好(洗脳)の可能性を示してくれました。勘違い・思い込み芸が極まりきると狂信者が生まれる、という超理論。果たしてネイアがナザリックの壮大なマッチポンプに気づく時は来るのか。これが将来の火種であったりすれば面白いのですが、なさそう。ネイアが順調に足を踏み外していくなか、デミウルゴスが冷静に狂信者の誕生を喜んでいたりするのがまた滑稽です。あとはストーリーで気になったのは、ここまでの騒動があったのに、一切動きを見せない法国の存在。人類の守護者を名乗っていたのでは……?次はエルフ編か法国編になるんだと思いますが、その時に説明されるんでしょうか。しばらく新刊は出なさそうな雰囲気なので、悶々としながら待たされることになりそう。

〇アマゾンへのリンク(巻数が多いので、アニメ1期分に該当する1~3巻だけ)
  
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