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宮城谷昌光 『太公望』 感想

〇雑感
著者の作品には、漫画『キングダム』にはまり、中華の歴史に興味を持って、何かいい読み物がないか調べていた時に偶然行き当たった。恥ずかしいことに、それまでは著者の名前は全く聞いたことがなくて、この時初めて中華の歴史小説の第一人者であるということを知った。

本作は、タイトルが示すとおり、封神演義で有名な太公望呂尚の人生を描いた歴史小説。特筆すべきは、太公望が周の武王(と文王)に仕えることになった経緯、そして著名な釣りをしていたところの出会いに至るまでの過程を、かなり空想度高めで描かれていることで、そしてなんといってその脚色がとても面白かったということである。正直に言うと、読み出す前はそんなに面白いことを期待していなくて、きっとお堅い歴史小説なんだろうな、くらいの気持ちで手を出したのだが、とんでもない。下巻がちょっと駆け足になりぎみで、太公望の物語というよりも歴史の解説という傾向を強く持ってしまったのだけは、不満と言えば不満だが、それ以外にこれといった不満点はない。あと2冊くらいは続いてもよかったのではないか、と思う。それくらいこの物語は面白く、また登場する人物が皆魅力的だった。殷の人狩りを必死で生き延びた、太公望と同じ羌族の仲間であるヒョウ・ゴ・エイ・ハク・ケイの5人、途中から一族の支えとなり最後まで太公望を見守り続けたウン、太公望が自ら鍛えあげた元奴隷のケン、元山賊でありながら太公望の霊威によって芯から生まれ変わったコ・カイ・ユウ・リョウ。それ以外にもキャラ立ちしていた人物がたくさんいただけに、物語の閉じ方がダイジェスト形式になっていたのは本当に残念だった。一族の行く末がどうなったのかをもっとちゃんと見せてほしかったし、彼らが新天地で幸せに暮らしている姿まで描き切ってほしかった。

私は漫画の封神演技でしか殷・周時代を知らず、特に人物像は漫画版のイメージが事前にあったので、太公望が真面目でストイックかつ天才的な人たらしだったり、紂王が実はただの暗君ではなかったということが示されたり(血に飢えた暴虐の王ということではなく、人狩りは呪術的な意味があったのではないかという解釈がなされており、説得力がある)、妲己もまた悦楽を求める愉悦の人ではなかったのではないか、などなど、史料に基づく客観的な分析が新鮮だった。漫画が好きな人には、ぜひ今作を読んで、漫画とのギャップを感じつつ、この作品における太公望の魅力も味わってほしい。

あとは故事や漢字の起源について勉強になることも多く、その文字が持つ意味についての説明はなるほどと思うこともしばしば。誓うと盟うは、言葉で約束することと血で約束するということで違いがあるとか、載には元々年という意味があるとか、知らないことが色々書いてあって普通に勉強になる。

まとめると、古代中華の文化や思想がどのようなものだったのを垣間見ることができ、あわせて良質かつ重厚なドラマも楽しめるというまぎれもない名作。説明口調になりすぎない程度に歴史背景の説明もされていて、そういった教養的な読み応えも抜群。太公望の完璧超人っぷりはいっそ潔いと言えるほどで痛快だったし、そんな太公望を慕い、心から忠節を尽くす一族の皆々を眺めているのは微笑ましかった。実際今作で一番よかったと思っているのは、一族の誰かが太公望にくっついてあちこちを旅して訪ねまわっている描写である。だからこそ、後半で移動の描写が端折られ気味になったのが残念で仕方なかった。

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