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三秋縋 『三日間の幸福』 感想

〇雑感
かなりよかった。いい歳をして幻想を捨てられない、未練がましい愚者に向けられた物語。安易なハッピーエンドになってほしくないなあ、無駄に説教臭いラストにはなってほしくないなあ、と思いながら読んでいたが、そうはならなかったのでほっと一安心。作者がオースターを好きそうなのは、文体からもよくわかる。貧困に喘ぐ学生が古本屋を売りにいくエピソードには、ムーン・パレスへのオマージュを感じさせた。もっとも、ムーン・パレスとは違って、こちらでは底意地の悪い店主は登場しなかったが。

概要。自分の寿命や健康、人生の残り時間を売ることで、お金をもらえるとしたら、あなたはどうするか。果たして、自分の人生にはどれくらいの値打ちがあるのか。自分の人生に、思った以上に価値がないとわかった場合、あなたはその後の人生をどのように生きるのか。そんな極めてプリミティブな物語。

大学生の主人公は、子供のとき、自分に他人とは違うとてつもない才能と輝かしい未来があり、いずれ何か凄いことを成し遂げる傑物になると理想の未来を思い描いていたが、20歳になってもそんな片鱗はちっとも見えず、友もなく、恋人もなく、これといった誇れるものもなく、将来に希望など持てない生活を送っている。

そんな主人公が、生活に困窮してコレクションの本やCDを手放そうとしたところ、中古ショップの店員から自分の人生をお金にして売り払える店の存在を教えられる。今の自分の人生を、お金で売るとなった時、いったいいくらになるのか。確かに今の自分の人生はあまり豊かではないし、この後もぱっとしない人生を送るのだろう。それでも、自分の人生には1年につき1000万、いや500万くらいの値はつくのではないか。そんな淡い期待を抱いて買値を訪ねた主人公には、しかしあまりにも残酷すぎる現実が告げられる。1年で1000万どころの話ではなかった。彼の人生には、30万の価値しかなかった。しかも、それは1年ではなく、残り30年全ての人生をかけて、やっと30万。つまり、1年あたり1万円。

この人生の価値は、これからの人生でどれだけに幸せになれるか、どれだけ人を幸せにできるか、などの基準で決められるという。あまりにも公平で、公正な基準に己の人生を全否定され、自分の無価値さを改めて理解した主人公は、残り3か月の寿命を残して寿命を売り払うことを決意する。

30万円を手に自宅に帰ってきた主人公は、これから3か月をどのように送るかを考え始めるが、そこに彼が自暴自棄になって暴れないか監視するため、透明で他者には観測できない女の子がやってくる。規則だからと言われるまま押し切られてしまい、主人公は全く気乗りしないまま、彼女と奇妙な共同生活を送ることになる。私はてっきり、彼女は未来からやってきた女の子か何かで、主人公の子供とか、主人公が好きになった女の子の子供とか、そういう路線を想像していたのだが、そういう安易な因果に頼らなかったのは好印象だった。

主人公は残りの人生が3か月になったことを踏まえて、死ぬまでにやりたいことを列挙し、一つ一つ遂行していこうとするが、この展開がとても過酷で、グサグサと胸に刺さった。終盤までは徹底的に主人公の甘い考えや都合のいい幻想を切り捨てる流れになっており、かつて自分に好意を寄せた同級生の女の子、かつて楽しく馬鹿話をしていた同級生の男の子、かつて将来結婚する約束をした女の子、それら全ての縁と関係性が跡形もなくぶち壊れていく。この虚無へとなだれ込んでいく絶望感と壮快感は最高で、都合のいい時にだけ他人に縋ろうとする人間だということは案外簡単に見透かされる、という痛烈な批判が耳に痛くも心地いい。

ラスト、主人公が色々と吹っ切れて、監視役の女の子のために何かをしてあげたいと願い、あげく彼女のために幸福に過ごせるはずの残り時間すら手放してしまうという展開は、少し理想を見過ぎているというか、救いがありすぎたような気もするが、彼女も主人公と残りの時間を生きるために自分の時間を捧げる、という展開が王道ながらも本当に素晴らしかったので、文句はない。最後の三日間が一切描かれなかったところも含めて、最高によい読後感だった。売買は3回までできると書いてあったから、大金を稼いで自分たちの時間を買い戻す展開になるのだろうと思っていた分、こういう締め方に持っていくのはいい意味で予想外でもあった。

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