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白鳥士郎 『りゅうおうのおしごと!』 感想(2) 4~8巻まで

〇前書き
『りゅうおうのおしごと!』の感想の続きです。ランス10をやったり、ランス10をやったり、ランス10をやったりしていたため、すっかり投稿が遅くなりました。このエントリから続いていますので、最初から読みたい方はそちらからどうぞ。


〇4巻の感想
八一に執着する将棋狂いの天才「祭神雷」が登場する話。3巻でも多少触れられてましたが、将棋星人と普通の人の対比を描いたエピソードでもあります。将棋が強いとはどういうことか、才能があるということはどういうことなのか、一定の見解が示されていて、5巻の竜王戦を意識して描かれているのではないかと思われます。この巻単独で読んでも面白いですが、どちらかといえば今後の布石という意味合いが強めですね。

ストーリーはあいと天衣、そして桂香が女流棋士になるための足掛かりとなるマイナビオープン戦を描いています。3巻が重く苦しい内容だったこともあってか、キャラ同士の掛け合いが多めですが、締めるところはきっちりシリアスにまとめており、メリハリが効いている印象。特に3巻から引き続き女流棋士への挑戦を続けている桂香絡みの描写は、作者の作家人生における実感が感じられて、短い文章であっても読みごたえがあります。作者に物書きとしてのアマチュア時代があったかどうかはわかりませんが、プロとアマの関係を売れっ子作家と売れない作家に置き換えてみて、作者のキャリアを踏まえて考えてみると、なかなか感じ入るものがあります。


〇5巻の感想

少しでも前に進んでいる保証が欲しかった。
答えに向かっている実感が欲しかった。
誰かに『正しい』と言ってほしかった。


3巻もとてもよかったのですが、この5巻もまた素晴らしい。もう一度読んでみてよかった、と心から思えました。

この作品が書いているもののは決して物珍しいテーマというわけじゃありません。むしろ、書き古された陳腐なものですらあります。夢と現実とのギャップ、挑戦と挫折の繰り返し、期待と失望のせめぎあい。それらは現実にありふれていて、全く珍しくない。作者がこの作品を通じて読者に提示したものは「人は誰かに支えられて生きている」というごくごくあり触れた境地であり、誰にでも語ることができて、それこそいくらでも書かれてきたものです。しかし、だからこそ、この作品には普遍性があり、誰にでも通じる面白さを保有しているのだと思います。「心が折れなければ負けじゃない」。熱意や情熱とは体現するものであり、まさにこの作品こそがその結晶なのだと信じられる内容でした。

閑話休題。5巻はこれまでの集大成ともいえる内容であり、八一の竜王位防衛戦を描いたお話です。ここで終わりにしようと思っていた、というのも頷けます。八一に挑むのは将棋界の生きる伝説である羽生さんをモチーフにした名人で、彼との勝負に敗れ続け追い詰められていく八一の姿を描きます。これまで、あいや天衣、銀子たち同門の棋士に対して、優しく親しみを持って接してきた八一が、彼女らにきつくあたる姿を見るのは読者としてもつらいものがあり、これまでの積み重ねを否定されたと考えてもがき苦しむ八一と同じような気持ちを味わうことでしょう。

勝負師は常に一人。誰かに頼ろうとするその気持ちが『弱さ』に繋がる。

――捨てるんだ。強くなるために。


後がなくなった八一は自らを追い込み、他者との関係性を否定して、孤独の中に沈んでいきます。振り返ってみれば、ここまでこの作品はどちらかといえば個人志向よりでした。勝負に負けた後の感情をどうやって処理するのか、勝ち続けるためにはどのように生きるべきなのか。より具体的に言えば、負けたことを糧に勝つための研鑽を積み重ねられるか、勝つことで負けて傷つく他者がいることから目を背けず勝ち続けられるか。それらは個人の資質によるものが多く、できない人にはできないし、できる人にはできてしまう。自分でなんとかするしかない問題だと言われれば、まあそのとおりです。ですから、他者との関係を断って自らを追い込んでいくという流れは、ある意味で必然的であります。ただ、それが正しい在り方なのか、と問われれば、どうでしょう。孤独に酔いしれる描写は、読んでいて気持ちいいかもしれませんが、社会性を捨てて先鋭化していく生き方を、作者は肯定しようとしているのか。もしそうなら、祭神雷の存在はなんだったのか。彼女のような生き方が肯定されるべきだといいたいのか。そんなことは、ないでしょう。

このあとの桂香のト書き描写は圧巻です。まさに作者の魂がこもっています。

今、私には自信があった。
自分の方が強いとか、絶対に勝てるとか、そんな自信じゃない。
私の方が将棋を愛しているという自信が。
――今は言える!私の方が将棋を好きだって!!
一度、将棋を捨てた私だからこそ。
自分が将棋に愛されていないことを知っているからこそ。
片想いの恋だと知っているからこそ、わかる。
この恋は本物だと。


自分のどん底を這いまわる八一を救ったのは、同じくどん底で苦しんだ桂香の存在であり、傷つけられても八一の傍を離れなかったあいの存在でした。天衣もまた、言葉ではなく行動をもって八一を支えようとします。八一は、彼らの姿に触発され、心を動かされ、こんなにも色んな人に支えられていたのか、ということを自覚します。

俺はただ……目を閉じていただけなんだ。


名人との勝負の内容については、語るほどの知識もないので割愛しますが、その中で八一が抱く独白はとても印象的です。

負けることは怖くない。
悔しいけど……すごく悔しいけど、怖くはない。
自分が否定されるのは耐えられる。
だけど。
自分を支えてくれる人のことは否定されたくない。
俺のことを、こんなにダメな俺のことを信じてくれる人の気持ちは裏切りたくない。
だったら、自分が頑張るしかない。
自分の力を、才能を信じることはできなくても。
最後の最後まで勝つことを諦めず、俺のことを信じてくれている人達のことを信じて戦い抜く。


ちょっと書きすぎな気もしますが、この文章にだいたいのことが込められていると思います。そんなのは綺麗ごとで、都合のいい理想論だと切り捨ててしまう人もいるでしょう。が、私はむしろそういう、ともすれば青臭い描写を真っ向から描いた心境に強く関心を抱きました。きっとそれは、作者の実感によるものなんだろうと思うからです。桂香が作者の分身なら、八一は理想像のようなものだと考えます。その理想像と言える八一が、人との関わりを肯定している。あまり人と人とのつながりを重視していなかったであろう作者が、そう思えるようになったこと自体が素晴らしいことだと思います。もしも八一個人の努力で全てなんとかなってしまっていたら、この作品は凡作とは言わないまでも、佳作どまりだったでしょう。

「報われない努力はない……か」
綺麗ごとかもしれない。報われない努力だって、いくらでもある。どれだけ粘っても負ける将棋は負ける。逆転できるほうが圧倒的に少ない。
けど――戦わなければ何も得られないのだ。戦い続けなければ。


この物語は、既に一度諦めてしまっている者からすれば残酷な物語なのかもしれません、ですが、今まさに迷い、惑い、失敗し、後悔し、それでもなお足掻き続けている人たちにとってはかけがえのない一冊になるのではないでしょうか。苦しくても、辛くても、報われることがなかったとしても、挑戦し続ける人からすれば、これ以上ないほどに力強いエールになるはずです。


〇6巻の感想

「じゃあどうして勝てないのッ!!」
「どうして私は八一みたいに勝てないの!?ずっと一緒だったのに!ずっと同じことをしてきたはずなのに!なのにどうして八一みたいになれないのッ!?」
「ねえどうして!?八一ならわかるでしょ!?どうしてなの!?」


5巻で八一の話が一段落して、物語としては一通り書くべきことを書いたのではないかと思われたため、この先何をどうするつもりなのか、またのうりんのように引き延ばしが行われてしまうのじゃないかと不安半分でしたが、きちんと構想はあるようなので安心しました。

6巻は、銀子というヒロインが、自分の才能のなさを呪い、自分とは遠くかけ離れた天才の存在に苦しみ続けている一端を覗かせてくれます。作中でいうところの地球人と宇宙人、秀才と天才の話を書いていくのは、作者にとって茨の道でしかないと思います。というのも、自分が天才だと確信ながら物書きをしている人なんてまずいないと思うからです。「心が折れなければ負けじゃない」とするのなら、「心が折れてしまえば負け」なわけですが、負けが決まっていても、勝てないとわかっていても、人生は終わらないし、生きている限り勝負は続きます。自身の能力や才能に見切りをつけてしまった人にとって、勝負の続く人生は絶望でしかなく、絶望から遠ざかるためには勝負から逃げるしかありませんが、銀子はその夢を果たすために、心が折れていても戦い続けることを選ぶ。それはとてつもなく過酷な生き方であり、想像するだけで辛いものがあります。この作品はどちらかといえばあいの存在にウェイトを置いていると思いますが、この一冊で一気に銀子への比重が高まったように思います。彼女の苦しみが、最後には報われてほしいと思いますが、難しいでしょうね……。

あとは個人的にはちゃんと書いてくれてよかったと思ったのが将棋ソフトのことです。最低限電王戦とAIについては触れてくれないと、将棋を描いたとは到底言い切れないと思うので。ちょっと受け売りの知識が多いのが気になりましたが、これもまた今後の布石になってくれるといいですね。汎用AIが完成し、それが普及するのがいつの時代になるかはわかりませんが、AIの与える知的労働への影響というのが、今後の論点となるのは間違いないですし。


〇7巻の感想

腐っていく自分への苦しみが、罪悪感があった。
しかしいつしかそんな気持ちは磨り減り……いつのまにか気持ちは切れていた。歳を重なれば衰えるのは当然だと、弱くなる自分を受け入れてしまっていた。
気持ちが切れてしまってからは、以前のような苦しみに悩まされることはなかった。
それが精神的に成熟することだと思っていた。
後ろに下がり、弟子の成長を見守ることが……。


人によっては3巻よりも5巻よりも身に染みる内容なんじゃないかと思います。7巻で描かれているものは、老いによる劣化と、勝負ごとのままならなさ。八一の師匠である清滝が、失っていた将棋への情熱を取り戻していくお話になります。ラノベの読者層って、今はどれくらいが学生なんでしょうか?私は現在加齢によるパフォーマンスの低下を実感している真っ最中であり、徐々に自分の内面が腐っていくことを自覚しているところでしたので、身につまされるところが多かったですが、学生の方が読んでもあまりピンとこないような気もします。


〇8巻の感想
シリーズ初の短編集です。7巻からわずか2か月後の新刊ということで、やたらと刊行ペースが速く、アニメと合わせて刊行するために頑張って間に合わせたんだろうなーという大人の事情が伺えます。のうりんのようなテンポのよいコメディテイストのショートストーリーを合間にはさみつつ、それとは別にこれまでちょい役として登場していた二人の女流棋士の戦いを本筋として描いています。あとがきにもあるとおり、これまで重い話が続いていた分、ガス抜きの意味が強い一冊になっています。

なお、作者は内容が重いことを気にしているようですが、支援してくれている人、応援してくれている人を意識して書くということは、読者の心情を忖度しながら、読まれたいと思われるものを書く、という作者のこれまでの姿勢に逆戻りしてしまう側面もあり、少々不安です。読者を無視して作者が描きたいものを描けばいいというわけではないし、かといって読者を意識しすぎて読者に求められているものを提供するのもまた違う。自分が書いた物語で喜んでもらいたいと思うこと自体は、間違っていないと思いますが、読者に喜んでもらうために物語を書くというのは、ちょっと違うんじゃないと思うのですが、どうでしょう。匙加減は非常に難しいと思いますが、ぜひ見極めて書き続けていただきたいところ。あとはあとがきの報告を読んだことで、自己肯定に溢れた5巻の内容はそういうことだったんだな、と納得しました。


〇設定に対する感想
最後に「将棋」を題材にしていることについてですが、ここまでの感想でも同じようなことを書いているとおり、この作品は将棋という分野について描き切れていないと思います。私は全く将棋を指さないので、基本ルールと駒の効きくらいしかわかりませんし、やるとしたら棒銀くらいしかできないのですが、そんな門外漢の人間だからこそ、なおさらにそう思います。のうりんもそうでしたが、きちんと取材をして、調べてから書いているのは間違いないでしょうし、その点については疑いようもない。きちんと資料調査をしない作家も多いなか、その姿勢はとても素晴らしいことだと思います。ただ、この作品を読んで将棋のことがきちんと理解できるか、将棋をやりたいと思えるか、将棋の魅力について余すことなく描けているかと言えば、そこまでは思いません。

というのも、この作品には最初から将棋のできるキャラばかりが出てきていて、一から将棋のルールを理解していき、基本戦術や応用を学びつつ、最終的に自らのものとして会得する、といったような積み上げのプロセスを踏んで成長していった人物がいないからです。将棋を研究しているシーンはあっても、じゃあ具体的にどのような研究をしているのか、といったことまではあんまり描かれない。しっかりと棋士の方の話を聞いて、その経験や知識を裏付けに物語を構築しているんだろうとは思います。だから将棋の世界のことは書けていると思いますが、でも将棋戦の描写における一手の凄さ、というところまではあまり伝わってこなかった。

厳しいことを言うと、この作品のテーマは将棋じゃなくても成立します。ストーリーはとてもよく書けていると確信していますが、設定を生かし切れているかというと、どうでしょう。文章媒体は、漫画媒体とは違っていくらでも言葉で説明できるという優位性があるはずで、せっかく専門書とは違いかみ砕いたゆるい文章で説明できるいい機会なのだから、思う存分将棋の一手一手について説明してほしかった。ラノベである以上、構造的に仕方ないのかもしれませんが、将棋の描写よりもキャラ描写がメインになってしまっています。その道の第一人者というわけではない以上、ある程度想像に頼って書くしかない部分があるとは思いますし、専門的な掘り下げを求めるのは酷なのかもしれませんが、そのことが残念といえば残念です。まあ、いちゃもんに近いですね。


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Author:SAIN455
漫画、ラノベ、ゲームなどのネタバレ感想記事を書いています。ネタがあるときはコラムみたいなものも書きます。あとアマゾンアソシエイトに参加してます。以下定型文。「このブログはAmazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。」

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