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ヴィンランド・サガ 14巻 感想





「違う!あんなもん勇気じゃねェ!!オレは!王の前でしくじった!嗤われて当然のバカで無能な男だ!なのに…………!なのに……オレには……。だまって嗤われる勇気がなかった……!!」


クヌート率いる王の軍団と農場の客人達の戦いは、当然のように王の軍団の圧勝に。群がる死体を目に、トルフィンは農場を去ろうとするが、島から去る直前になって、ふと思い留まる。自分は出来ることを全てやったのだろうか。この惨状に対して、できることはないのだろうか。その努力をしないで、自分の理想は叶えることが出来るのだろうか。

そんな逡巡があったかどうかはわからないが、トルフィンは行動する。クヌートと対話だけでもしてみようと、いま自分にできることをやろうとする。説得できるかどうかは関係ない。ただ、やる前から諦めるくらいなら、まずはできる限りのことだけはやってみようと、そう考えた。

使者として非武装のまま王への謁見を求めるトルフィンだったが、当然周囲の兵に阻まれる。なんとか謁見を果たそうとするトルフィンに、兵私達が出した条件は、百回の殴打に耐えるというもの。なすがままに殴られ続けるトルフィンは、一切手を出そうとせず、そしてそんな彼らに対して憎しみすら抱かない。そんなトルフィンを見て、呆然と佇むエイナル。

これが……そうなのか?「最初の手段」ってやつなのか……?
殴り返さず
ただ耐えて
それがお前のこれからの生き方なのか……?


騒ぎを聞きつけてやってきた蛇は、トルフィンの無謀な行動を知り、いさめようとするが、その言葉にトルフィンは静かに噛み付く。

「もういい。やめろ。農場は降参する。そう決まった。バカ野郎……。なんの相談もなしに……。話し合いで解決するならとっくにやってらァ。信じられねェくらいのお人好しだぜ。お前は……」
「………………。本当にそうか?本当に、真剣に、話し合いで解決する努力をしたのかよ。向こうが剣を抜いたから、アンタらは何も考えずに剣で応えただけだろうがよ」


百発の殴打に耐え、ボコボコに晴れ上がった顔で、それでも「オレに敵なんかいない」と断言するトルフィンの姿を見て、心が動かない人間がいるだろうか。そしてそれを愚かだと笑う人がいるだろうか。これは、トルフィンが暴力で解決する道を選ばなかったから尊い、というだけの話では決してないはずだ。

「オレは、クヌート。お前の力の届かない場所に、お前とは違うやり方で平和な国を作るよ。お前の作る世界では生きていけない人達のために。お前と、オレ自身のためにも」


農奴に落ちたトルフィンの出した結論は、戦いのない平和な世界を作ること。王となったクヌートの求める楽園は、そんな世界で戦い続ける者たちを救うこと。彼らはお互い相容れぬ理想を求めていて、しかし根本では同じ世界を望み求める。非暴力と暴力。これから先、彼らの道はたがえたままなのだろうが、ひたすら孤独だったクヌートにとって、トルフィンの存在は心底嬉しかったのだと思う。

「……余は今まで………。余とともに戦う者はそなたぐらいしかおらぬと思っていた。だが、今日。新たな仲間を得た。異なる道で同じ目標を目指す仲間を。よい気分だ」


クヌートと別れ、農場から去ったトルフィンは、新世界を目指して旅に出る。……と思われるが、その前にやるべきことが一つ、十数年ぶりの帰郷である。島から家出してから長い年月を経て、トルフィンはアイスランドに帰ってくる。そこでユルヴァと再会し、感動の対面……となるかと思いきや、島の人間には疑われ、ユルヴァには蹴っ飛ばされ、散々のトルフィン。その後ヘルガと再会することで疑いは晴れるものの、その前の1シーンがぐっときた。

「………行くよ。ちょっとグチを言いたかっただけだ」


何気ないシーンで、どうということのない有り触れた台詞だが、トルフィンがその「普通の」台詞を呟き、愚痴り、弱音を吐いたという事実が、とても嬉しく感じられた。
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