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モーテ ―水葬の少女― 感想





余談だが、私はあまり展開の先読みをせずに本を読む方である。よく言えば無心で読んでいて、悪く言えばあまり考えずに読んでいる。その場その場の展開をありのままに受け止めて、ある程度全体像が見えてから構造を考えるようにしている。できるだけまっさらな状態で本を読みたい、という気持ちも少なからずあるのだが、どちらかといえば、意識的にそう読むようにしなければ、予断ありきの感想になりがちだからである。そんなわけなので、この物語の展開には、すっかり騙されてしまった、ということを前述しておく(もちろん、ここまでが言い訳である)。

著者の過去作であるファタモルガーナの館は、主題の魅せ方、説得力の積み重ね方がとても見事な作品で、辛く重苦しく、救いようのない過程を読者に見せた上で、ハッピーエンドに辿り付いたからこそ、私に数千字の感想を書かせるほどの意欲を与えた。ミシェルの、そしてそれ以外の登場人物の生き方は、今もなお胸に残っている。

必然的に、今作モーテについても拭いきれぬ期待感を抱いたうえで臨んだのだが、実際のところ、今作の物語の立ち上がりは、いささか素直に見えた。確かに、モーテと呼ばれる先天的な自殺病が蔓延している世界、というのはセンシティブではある(同時期に発売されたクインテット・ファンタズムと、設定の関連性が見えるのは興味深い)が、この世界においてモーテは治療方法の解明されていない難病であり、且つ病気そのものが主題というわけでもないことから、謎に対する究明、というミステリ的な難題解決によるカタルシスが得られる、というわけでもない。このことから、読み始めは多少の物足りなさを覚えたことも事実。本格的にエンジンがかかってくるのは、導入部分が終わってからである。

序盤の大筋は、何らかの事情で孤児施設にやってきたサーシャが、先住者であるミステリアスな女の子・マノンとの交流を通し、施設全体に漂う謎めいた空気の本質を暴いていく……というような趣旨の展開になっている。この部分については、あまり述べるような事はない。だが、かつて人を殺したという噂が流れている、不吉で不気味なフォスター・ドゥドゥが、サーシャによって刺さされることで、この物語は一つの区切りを迎える。驚かされたのは、この物語はここまでが前置きであり、その記述には一切の嘘はないものの、あくまでも子供の視点からの真実が描かれていて、この世界の全体像については正確に示されていないということである。そして全てを統合した真実には、否応なく不幸と苦痛が付き纏う。サーシャにとっての物語が、決して幸福に満ち溢れたものではなかったように、ドゥドゥにとっての物語にも、また不幸がある。

底意地が悪いと思うのは、この作品は子供視点から眺めた物語を、そっくりそのまま書いている、ということだろう。このアプローチの仕方は、多少ずるいとは思うが、巧いと言わざるを得ない。一人称を使ったトリックとしては、見事なまでの恣意的誘導である。ドゥドゥの台詞は、彼に多少の精神不均衡の気があったにせよ、ありのままを描いており、嘘はないのに、サーシャの視点から通じて世界を見ると、何もかも悪いほうに悪いほうにと捉えられていく。そして読者もその見方に引きずられていく。あまりにも誘導が見事すぎて、作者が感じたことのある悪意を、嫌でも想像してしまう。これは悪い意味で、誰にでも書ける物語ではないだろう。

作者がどのような順序でこの物語をくみ上げたのかはわからないが、前から順番に作って行って、その都度ドゥドゥの視点を補完していったのだとすれば感服する(最初からドゥドゥの視点ありきで物語を作っているなら、理解できる)。もし前者のやり方をしているのであれば、作者はほかのキャラの視点においても、それぞれの物語をイメージしている可能性があり、その物語はまたこの物語と全く違う見え方をするのかもしれない。特にそう感じさせるのがジャンカとアミヤの物語。マノン(本物も偽物も)の物語も気になるところであるが、彼らの視点はもっともっと気になる。

物語上、ちょっとだけ引っかかったところは、またインターネット上で知り合って、フィレンツェでデートして、自殺未遂をするのか……というところだろう。ここは多少、著者の既作品と展開が被っている。致命的な問題というほどではないのだが、もうちょっと展開にバリエーションがほしかったな、という気はした。

相変わらず、苦難の果てにたどり着く純愛、相思相愛の形を描くのは抜群に上手である。ただ、(以下致命的なネタバレ)マノンは義兄からレイプされるうえ車に轢かれかけて死に損なうし(ヒロインを不幸にさせないと気がすまないのかと思う)、ドゥドゥは喉を刺されて声が出なくなってしまうし、全くの大団円とは言い切れず、本当にここまで物語的不幸を積まなければならないのだろうか、という疑問は残る。フィクションだと感じる展開は多分にあって、必然の結末だとはどうしても言い切れない部分がある。確かに、理不尽で不条理で誰もが救われるわけではない世界で、それでも彼らは幸せになった、という事実が、強い読後感を残しているということも否めないため、総合的に見ればこの構成でよいのかもしれないが……。個人的には、物語的不幸に頼らないで、説得力のある結末を導き出してほしいのだが、やはりそれはとても難しいことなのだろうか。
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漫画、ラノベ、ゲームなどのネタバレ感想記事を書いています。ネタがあるときはコラムみたいなものも書きます。あとアマゾンアソシエイトに参加してます。以下定型文。「このブログはAmazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。」

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