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ゴールデンタイム 7巻 感想

 現在テレビアニメが絶賛放送中の『ゴールデンタイム』の感想です。著者は竹宮ゆゆこ。

 アニメはようやく3巻前半くらいまで消化されたところですが、この感想ではまだ未放送の内容についてに全力でネタバレしています。これは既読者向けの感想ですので、原作未読の方はご注意ください。
(あと、この内容はかなりの憶測が混じっており、今後補填される情報次第では同じ文章を違う風に読むことになるかもしれませんので、現時点ではあまり鵜呑みにしないでいただけると幸いです。展開当てを目的としているわけではありませんので、その点もご理解ください)

振り返ればそこになにがあるのか、私にはわかっていた。
愛があるのだ。
見つけ出して、大切に温め、壊れないように包み込み、何度か見失いかけながらも、二人でどうにか育ててきた愛。私は愛を置き去りにして歩き出した。
これが、この愛のために私ができる最後のことだった。


 これは本巻の序文の抜粋ですが、いきなり飛ばしています。唐突すぎて面食らいました。振り返れば愛があるって急に言われても、脈絡がなさすぎて困惑します。狂人の手記とまでは言いませんが、この文章だけを読んでも、何を主張したいのかはっきりしません。なんとなく重要な文章であることは推測できますが、なぜこの人物はいきなり愛を振り切って歩き出そうとしているのか、なぜ冒頭にこんな文章が用意されているのか、そもそも主体となっている「私」は誰なのか、さっぱりわからない。いったい、この文章は何なのか?それは、この巻を読み終わることでようやく見えてきます。

 夏休みの帰省が終わり、東京に戻ってきた万里は、香子との再会を心から喜びます。しかし、その再会を「幸せ」と呼ぶ万里の心は、他方では過去の幻影に囚われ続けており、今の自分が消え去ってしまうのではないか、という恐怖から抜け出せずにいます。万里は香子との幸せな未来を望んでいるように思わせておいて、その実では今の関係の不変を望んでいる。なんだかんだといいながら、過去の自分について不安を拭いきれない万里は、平穏と安定――現状の停滞を求めていて、心の底では変化を受け入れることを拒んでいます。だから万里は今のままが続けばいいと願いますが、しかし香子はそれでいいとは決して思いません。今の関係が続くことが一番いいだなんて、彼女は考えません。このままでいい、このままがいい、このままでいるべき、という万里の生き方には迎合しなかった。だって、今の万里は幸せじゃないから。本当は逃げたがっているから。万里は最後まで本当のところを言わなかったけれど、心の中に少なからぬ不安と恐怖を抱いていることを知ってしまっていたから。つまるところ、今回のお話はそういうことなのではないかと思います。

 もちろん、万里が抱く恐怖は正当なものであり、納得できるものでもあります。ただ、今の自分が丸ごと消えてしまうという恐怖感を他人が実感するのは難しく、万里自身も心のどこかではわかるはずがない、と思っていたのではないかと。そしてそんな万里が掲げた「今が幸せだから今が続けばいい」という建前は、香子には通用しませんでした。全てが嘘ではないにせよ、それが全てがではないということも見透かされてしまいます。

 番外編で垣間見えた香子の心は、本編ではほとんどクローズされているため、彼女の心はとても見えにくくなっていますが、それでも幾つかのヒントは散りばめられているように思います。本編は万里視点で進められるため、万里が気付かなかったことは描写されませんが、それゆえに明言されぬまま、万里側(≒読者側)と香子側で所有する情報に齟齬が生じることがあります。万里が自分からは言わなかったけれど、香子が自分で気付いてしまったこと。その一つが、万里が服用していた頓服薬のことです。

「でも今ゴミ出すんでしょ?ああほら、これだ。こんなのだめよ、アルミは不燃だよ。燃えるゴミにしちゃったら……なにこれ……?」


 万里の部屋のゴミ袋からなにかを見つけた香子は、それをポケットにしまいこみ、その後俯いてスマホをいじって何かをしていました。これらの行動から推測するに、このとき香子は、万里が自分に黙って頓服薬を、精神安定剤を服用していたことに気付いてしまったのだと思います。万里は香子に自分の弱さについて相談しませんでした。香子が心配して声をかけてもその事実を伏せ続けました。しかし香子はそのことに自力で気付いてしまった。そして万里は香子が気付いたことに気付いていない。なぜなら、香子は香子でそのことを伏せたからです。そう踏まえたうえで続きを読むと、ここから先の香子と万里のやり取りは、少し見え方が変わってきます。

 香子はランニングに行こうとする万里をしきりに心配します。万里は不眠解消のためにランニングをしていました。万里は香子に夜眠れないことしか伝えていませんが、香子は既に万里が心の病が原因であることを見抜いている。だからこのとき香子は、精神が不安定な万里がどこかに行ってしまわないか心配しているのだと思います。もしそう捉えるのが正しいのだとすれば、その後の香子は恐らく本気で怒っています。茶化すのはやめてくれと。頼むから自分の前から消えてくれるなと。そして同時に、自分の辛さを隠し、自分に教えてくれない万里に対して憤ってもいたのだと思います。

「万里こそ!」
「そうやってなにも言ってくれなくて!そのまま時間が経っちゃって!間に合わなくなっちゃってもいいの!?私はそんなのいや!絶対にいや!」


 香子は、万里に訴えかけます。貴方の弱さをみせてほしいと。その辛さを一緒に分け合いたいのだ、と。しかし、そんな香子に対し、万里は最後までその言葉の全てを受け入れることが出来ません。前回、ぽろっと「つらい」とこぼせたことが奇跡であったように、どうしても自分の弱さを伝えることが出来ない。いくら香子が万里のことを全部知ってると訴えかけてきても、過去の自分のことまでは知らないのだと、心の中ではそう思ってしまう。香子がそのことを知らないのは、万里がそれを言わないから――言えなかったから、だというのに。

 万里が香子に自身の不安について告白した場面は、なんとなく、凄くいいシーンに見えます。万里は自分の恐怖を告白し、香子はその弱さを受け入れた。きっと香子もほっとしたでしょう。よかった、万里は自分に気持ちを打ち明けてくれた、まだなんとかなる、だからきっと私たちは大丈夫だ……と。しかしながら、実際のところはどうでしょう。これって本当にいい場面なんでしょうか。香子は万里の精神不安の原因を勘違いしたままですし、万里は万里でどうして今恐怖を感じているのか、その本当の原因までは伝えることができませんでした。自分にどんなことが起きて、自分がどうなろうとしているのか、全てを打ち明けたわけではありません。そして、香子が本当に求めていたのは、そこから先の告白だったのだと思います。

 私は香子でも、ましてや作者でもありませんから、その全てはわからない。だから推測でしかありませんが、この時香子は、ようやく自分に「万里の全て」を告白してもらえる、と思ったのではないでしょうか。薬のことも、帰省していた時のことも、今までどうして苦しんでいたのかも含めて、全部。この告白が嘘やその場しのぎだとは考えなかったに違いません。万里の言うことは信じていたでしょう。でも、同じくらいのレベルで、伏せられているものもあると――ほかにもなにかがあると、気付いていたのではないでしょうか。気付いたうえで、無理に万里から答えを引き出そうとせず、様子を見た。みんなで集まって、万里が仲間に対して悩みを打ち明けることが出来れば、最後には自分にもその弱さを打ち明けてくれるはず、と期待して。

 しかし、その願いは叶いませんでした。香子がせっかく仲間で集まる場をセッティングしたにも関わらず、万里は逃げ出してしまいます。唐突に記憶の混乱が起きてしまったという理由があって、発作のタイミングが最悪といっていいほど悪かっただけなのだとしても、万里はまた逃げてしまったのです。そんな万里のことを知って、香子はいったいどう思ったのでしょうか。香子は、最後まで自分が頼られなかったことについて、役に立たなかったことについて、いったいどう思ったのでしょう。

「で……そっちは、どうなった?」
「どうもこうもだよ。万里が加賀さんに言うなっていうから、なにも言ってない。加賀さんがお肉持って来て、あたしは『万里は逃げちゃった』ってだけ言ったの」
「……香子、なんて?」
「加賀さんは、そうなのって。逃げちゃったの、って。それだけ」


 この後万里は千波に自分の告白を録画してもらい、自分の記録を残したうえで、香子のところへ向かいます。香子に指輪を渡すために、将来の約束をするために。やがていなくなるかもしれない、自分を見つけてもらうために。その結果は、本編を読んだ方ならご存知のとおりです。万里にとっての一世一代の勝負は、香子からの拒絶という形で幕を閉じます。今こうやって書いてる分にはそれなりに落ち着いていますが、読んでる最中はまさか断られるものとは思っていませんでした(逆に言えば、断られるとは思っていなかったから、一旦情報を整理したくなったのですが)。

 万里のことを愛していて、体を捧げることも厭わなかった香子が、なぜこんなにも急に態度を変えてしまった(ように見える)のか。明確な描写はありませんが、もしかしたらリンダとなにかを話したのかもしれないし、自分でなにか感づいたのかもしれないし、思い込みで勘違いしているのかもしれないし、ひょっとしたら万里の叫びを立ち聞きしてしまったのかもしれません。あとは……たとえば本巻では、香子がエッフェル塔(自主制作)のオブジェを持ち出して、万里に迫るシーンがあります。いったいなんでエッフェル塔なのか、私もすっかり忘れていましたが、これはタイミングよくアニメを見たおかげで思い出すことができました。付き合いはじめの頃に、初エッチはパリで!ってやりとりがあったから、なんですね、これは。香子はそのことを覚えていて、約束を前倒しする必要性を感じていて、そして多分焦っていたのに(単純に欲望からなのかもしれませんが)、恐らく万里はそのことに気付いていません。なんでエッフェル塔が出てきたのか、思い出した素振りがありません。だから、万里と未来の約束はできない、という言葉の裏には「だって万里は私とした約束のことを覚えてないじゃん」という非難が含まれているのかもしれません。真実はわかりません。

 そんなわけなので、正直なところ、どれが正解でも構いませんし、全部外れていても構いません。今のところ、どの可能性もありうるから、です。ただ、とりあえず私は「香子が心変わりをした」、とは受け取っていません。この拒絶の言葉は、全てが嘘ではないにせよ、幾らか嘘が混じっている……もしくは全てを言っていないと思っています。どういった理由で香子が万里の告白を断ったのだとしても、この言葉は万里を見限ったことを意味するものではないだろう、と。いや、もしかしたら少しくらいは万里の態度に嫌気がさしたのかもしれないですが、それでも100%見放したわけではないと考えています。


「……だから、待ってほしかった。心はずっと、イエスと叫びたかった。叫んだら世界は変わるって思った。そうする自分を自分で許せるまで、多田くんを好きになってもそれが『嫌』で『正しくない』なんて思わずにすむ、信用できないなんて思わずにすむ。そうなるときまで、待っていてほしかった。でも……シナリオどおりにはいかないね。多田くんは待てないって言った。もう追いかけてはくれないって言った。じゃあこのまま私たちは離れていくんだ、って思ったとき、……シナリオがなによ!って。嫌でもなんでも、間違ってても結構!正しくなくても結構!私には、失えないものがあるんだもん!心の自分が、そう叫んだの。だから、私は、多田くんを、」


 これは2巻からの引用ですが、改めて読み直してみると、関連性が伺えます。香子は独特の美意識を持っていて、何より逃げ(られ)ることが許せない、好きな人には逃げて欲しくない(≒逃げられたくない)、という性格をしています。柳澤も逃げてばっかりだったし、好きな人が逃げると追いかけたくなるというか、先回りして待ち伏せしたくなるというか……。ま、まあ、とにかく逃げるという行動に対してとても敏感です。また、香子はシナリオに沿って生きることを一度否定しています。シナリオに従うのなんてまっぴらごめんだ、失えないもののためなら理想のシナリオなんか曲げてやる、と。香子は、一度自分で否定したものを拾い上げて肯定しようとしているのでしょうか。やっぱり正しいシナリオに従うのが正解だったと思っているのでしょうのか。心の叫びに耳を貸したことが失敗だと思っているのでしょうか。そんなことはないでしょう。だったら、香子の「最初からこういうシナリオだった」という発言は、あくまで建前と取るべきなのではないか、とそう思っています(香子はこの時のことを忘れていて、シナリオに拘った結果また失敗をしてしまう、という展開は、ちょっと面白味に欠けますし……現実感はありますけど)。



 香子が万里から一度離れようと思ったのはなぜなのか。それは、「万里と一緒に幸せになるため」なのではないかと思います。愛しい人のために何かをしようと思ったのか、単にこのまま傍にいるだけでは駄目だと思ったのか、そこまではわかりません。ただ、このままの万里とは、将来の約束はできない、という気持ちだったのでは、と想像しています。なぜなら、万里は今のままだと香子に本当のことを打ち明けてくれないからです。そしていざ辛くなると逃げてしまうからです。香子はきっと失望したのでしょう。いつまでも現実と向き合えない万里に、そしていざという時になんとかできなかった自分に。

 だから最後の拒絶は、あくまでも今の私では今の万里とは将来の約束はできない、という意味なのではないかと。万里と将来の約束はできないと言ったのは、香子自身が万里を大丈夫にするという約束を果たせていないから。最後の言葉は、額面どおり受け取ってしまうと、もう万里とは別れて全て終わりにする、という風に感じられますが、注意したいのはこれらの言葉に主語が欠けていて、具体的にどういうことを言っているのかまでは断定できないというところです。潮時とは何が潮時なのか明言されてませんし(恋人関係をやめることなのかそれ以外なのか)、大学は気が済んだと言っていますが、万里との関係に飽きたと明言したわけではなく、万里のために消えるとは言ってますが、今後二度と会わないとは明言していません。もちろん、希望に満ちた前向きな解釈なので、全部当たっている保証はありませんが……。

 最初の告白は香子のものでほぼ間違いないでしょう(最初はかと思わせておいたリンダのものだった、というミスリードかと思いましたが)。あれは万里を振ったあとの彼女の心境だと思われます。振り返れば愛があるとわかっていた。では、香子はいったい何に向かって歩き出したのか?ただ愛が邪魔になって、いらなくなったから置き去りにしただけ?いやいや、そんなことはないでしょう。私は香子が「大丈夫、絶対になんとかする」といった言葉は、心底本気なのだと確信しています。1巻の頃の香子――柳澤に片思いをし、執着し、半ばストーカーと化していた時のことを思えば、彼女の目的を達成するための執念が凄まじいことはよくわかります。香子は人一倍目的意識が強い女性です。より強く言えば、やろうと思ったことは、なんとしてでもやりとげようとする、ちょっと怖くなるくらいの強い意志の持ち主です。柳澤相手には空回っていましたが、それでも香子は柳澤に嫌われようが、避けられようが、拒絶されようが、無視されようが、自分に黙って違う大学に行かれようが――柳澤を追い続けました。それは別に、柳澤が逃げていたから、ってだけではなくて、彼女自身の人生に対する執着――これまでの自分が間違っていたと認めたくない気持ちもあったのではと思いますが、それにしたって好き相手が自分に黙っていなくなったのを、大学受験してまで追いかける、っていう根性は並大抵のものではありません。

 これまで積み上げられてきた香子像からすると、香子は万里が逃げたくらいで、万里のことを嫌いになったり、万里のことを諦めたりするとは思えません。果たしてそんなことで凹むのでしょうか。意思の違い、考え方の違い、その程度のことで、万里のことを諦めたりするのでしょうか。むしろ、力づくでも幸せを掴もうとする方が、香子らしいです。

 そう考えると、サブタイトルのI'll Be Back……これは香子の決意と捉えた方が自然です。これには勿論過去万里を指す意味もあったのでしょうが、そちらはミスリードであり、本当は香子がまた万里の元へと戻ってくる、という意思表示なのでしょう。あとは、一人で歩き出した香子が、いったい何をしようとしているのか。それに尽きると思います。



====================



 最後に、リンダについての描写を抜粋します。柳澤に距離をとろうとするリンダに対する万里の所感です。

ちゃんと理解されたい、正しく自分を知ってほしい、とにかくそういう方向には、リンダの気持ちは向かなかったのだ。一体どうしてなのだろう。


 さらっと書かれていいますが、密度の濃かった本巻でも重要な一文なのではないかと。未だにリンダはなにかしらを隠し持っていて、一切それは読者に開示されていません。彼女はいったいどんなものを抱えているのでしょうか……。
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