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その芸術は理解されない 感想

 同人サークル影法師のオリジナル小説『その芸術は理解されない』の感想です。同人で、オリジナル小説で、しかもエロなし全年齢向けと、ただでさえ購入層の薄そうなジャンルの中で、挑戦的なことをやっている作品。加えて単価は高いし(それでも採算度外視の作品らしいです)、お世辞にもジャケ買いされそうな絵とは言いにくいし(私は好ましいと思います)、かなりニッチで趣味爆発、これぞ同人と言える一品です。実際、あまり売れてなさそうな気配がありますが、読んでみれば想像よりもずっと面白かったですし、個人的にぜひ続編を読みたいので、感想を求める需要はあまりなさそうですが、少しでも多くの人に紹介しようと思い感想を書き上げてみました。作家としては大きなお世話だろうと自分でも思います、ええ。

 本題に入る前にあらかじめ前置きしておきますが、髪媒体の同人作品全般がそうであるように、今作もかなりコストパフォーマンスが悪いです。先ほど書いたようにボリュームに対して単価が高い。小説というのは同人で出すのにはかなりきついジャンルのようで、具体的に書くと総ページ数168頁で値段は1418円という悪い意味で破格の設定になっています。デザインは上下二段組の講談社ノベルスタイプ、といえばだいたいの文章量はわかってもらえるでしょうか。京極夏彦を例に出しますが、氏のノベルスが600~800頁くらいで同じくらいの値段帯ですので、単純比較すれば相当コストパフォーマンスは悪いということになります。この本1冊読むためのお金を出せば、4~5倍くらいのボリュームの作品が手に入るわけですから。普通に考えて割に合いませんが、その分私は一般市場ではあまり見ることができない内容を楽しむことができたと思っています。最近はキャラ描写メインのラノベが多いですから(別にそれが悪いってわけではありませんが)、今作みたいに明確なテーマ性を感じさせる作品は貴重です。

 長くなりましたが、つまりは読書の主目的が単に時間潰しだという人は避けるのが吉だということです。同人は基本的に趣味の産物であり、同人小説を読もうとするならそこは度外視しておきたいところ。じゃないとお互い不幸になってしまいますから。



 本題に入ります。今作の内容ですが、創作業をネタにした異能力バトルモノです。バトル描写や異能力の設定それ自体はさほど珍しいものではありませんが、設定のネーミングセンスが一風変わっています。架空の物質・幻材料<マテリアル>を用いて作り出される芸術<アート>。独自の個性を乗せたアートで任務をこなすことを生業にする創作家<クリエイター>、といった按配。主人公はそんな世界の中でもクリエイターとして最低ランクの能力を持つ人物であり、自らもその才能の限界を承知しながらもクリエイターとして生きていくことをやめられず、才能のなさを恨みながらも足掻き生きる、といったストーリー。この設定をどう捉えるかは読者次第ですが、なかなか興味深い設定だと思います。率直にいってあまりセンスがある名前とはいえないのですが、捉え方によっては見方が変わってきます。

 マテリアルを少ししか蓄えられないために小さな器<リトルボウル>と侮蔑され、キャパシティが少ないためにアートに個性を乗せることができず、加えて他人から眉をひそめられる凶相とコンプレックスを煽るかのような短身を持つ主人公。人物造詣も他人から好感を得られるようなそれではなく、多くから避けられ疎まれます。例外は一人の幼馴染ですが、彼女はあくまで主人公と親しくしているだけであり、主人公のアートの才能のなさを知っている彼女は、はっきりとクリエイターをやめてほしいと思っている。つまり、主人公はアートを続けるには孤立無援の状況にあるということです。所属しているギルドの仲間にも、わざわざ主人公を手助けしようとする人物はいません。それもそのはず、才能の無さを理由に蔑まれ続けてきた彼は、率先して他者と交流しようとしなかったし、解り合おうともしなかった。主人公の年齢を考えれば、自分から折れることも難しかったでしょう。作中ではまだ16歳らしいですから、如何に特別な能力を持ちきつい仕事をしていても、人生経験不足ばかりは如何せんともしがたいものがあります。境遇には同情できるところもありますから、読者としてはあのメンタリティもやむをえないものと感じられますが、客観的に見れば、あの攻撃的な性格はあまり褒められた態度ではないし、社会でうまくやっていくのは厳しいと言わざるを得ない。少なくとも、私は上司・先輩・同僚・後輩・部下のどれにも欲しくありません。まだまだ子供と言っても、同じ仕事を責任を持って任せられている身の上である以上、その言い訳も通じないわけで、作中で彼へ向けられる受難も自業自得である側面があります。主観で読んでいるとそこまで気になりませんが、他視点から見ればはっきり言ってガキそのものでしょう。

 そんな主人公の特に印象的なシーンがこれです。以下抜粋。

「確かに才能だよ。異常だよ俺は。自惚れかもしれないけどな、一瞬で幻材料をここまで蓄え直せる奴なんていない。色々調べたけどな、前例すらなかったよ」
「コジロウ」
「でもな。俺は言われ続けてきた。向いていない。止めておけ。無理だ。諦めろ。滑稽だ――ずっと、ずっと」
自然と、声が荒くなる。
「俺の夢を認めてくれる奴なんか誰もいやしなかった。お前だけは味方でいてくれた……でも、内心じゃ辞めたせたがっていることは知ってたんだよ」
手に力が篭る。リーフィが眉を寄せた。でも抑えられない。
「そんな中で、絶望的な現実と向き合って、意思を押し通して、嗤われようと諦めず、そうして、やっと見つけ出したんだ」
我慢出来ない。その単語ひとつで片付けられることだけは、どうしても。
「そうだよ、才能だよ!こいつは紛れもない才能だ!だけどな、奥深くに埋もれていた才能を探し当てたのは、掘り出したのは、見い出したのは――」

「俺の、努力だ!」



 それは、自身の能力の使い方に目覚めて、これまで庇護されてきた幼馴染を圧倒するとシーンです。主人公はようやく見つけた自分の能力を使い、今までずっと自分を守ってきてくれた幼馴染を出し抜く。そして、これは凄い才能だと幼馴染から安易に褒められた主人公は、ただ感情の赴くまま子供のように叫びます。自分の才能は、この才能は、自分が努力して見つけた、自分だけのものであることを。自分が諦めなかったから、この才能は発見できたのだと。

 これを読んで私は、もしかしたら作者は才能がないとか独創性がないとかそういった批評をされたことがあるのかもしれない、もしくは自身の内からそういった疑念が浮かび上がってきたことがあるのかもしれない、それとも誰かがそう評されているのを眺めていたことがあるのかもしれない、そんな風に思ってしまいました。もちろんこれはフィクションですし、そうであることは重々承知していますが、どうしても作者自身の叫びと結びつけたくなってしまいます。奔る運命 流れる世界を読んでしまった後だと、キャラクターの行動や台詞がこの作者の思想に直結しているとは思いませんが、しかしわざわざこいう作品を出してこられると、どうしてもこういった邪推は生まれてしまいます。私はどの作者もが人生の切り売りをしているとは思ってませんし、やっぱりこれはただ単にフィクションなのかもしれません。しかしどうしても、『ほかの分野だったら一流になれるのに』、そんな言葉をかけられた経験があったのかもしれないという想像が頭から離れない。

 自分のやりたいことを認められず、違うことをやるように勧められる。声をかけた人はその人なりの優しさを見せたのかもしれませんが、そう言われた人にとってはそれがいったいどれだけ屈辱的なことか。ただの仕事で、生計を維持するためだけにやっているだけだったのなら、見切りをつけて新しい何かを探してもよかったでしょう。でも主人公は創作家として生きたかったのです。誰に否定されたとしてもそれがやりたかったのです。才能がなかろうが、誰からも認めなかろうが、ただ自分の夢を叶えるために。

 この世界観がどうしようもなく無慈悲である点は、先天的に能力と才能の限界が定まっているところです。マテリアルを蓄える量は努力で増幅させることができないし、いくら体質を変えようとしても変えることはできません。もちろん努力で能力の質を改善することはできますが、最初に恵まれない人はそれまでなわけです。主人公はそれに抗いながらも、どうしようもない現実にぶち当たり、自身の限界点が低いということに挫折を余儀なくされます。それでも主人公は諦めませんでしたが、才能がないと判子を押されてからも抗い続けることがどれほど茨の道だったことか。

 アートの設定で面白いのが、費やすマテリアルの量と、マテリアルを扱う技術、そして想い入れで質が決まる、というところです。これはそのまま創作活動に当てはめて読み替えることができるのではないでしょうか。良い作品を創り上げるために必要なもの。そこに想い入れを含めたのは、作者なりの信念なのではないか、と想像しました。


 今作にどこまで作者の経験が込められているのかはわかりませんが、私は少なからぬ作者の苦い想いがこめられていると感じ、それを下敷きに書かれた作品なのではないか、と判断しました。だからこそ、今後の展開が気になるし(これ一本で完結しているとはいえ、残っている伏線もありますし)、同人として価値があるとも思います。

 まず売れ線じゃないし、設定も展開もキャラも地味目だし、どこかのラノベの賞に出して受かるとも思えないし、つまるところクリエイター側のエゴ丸出しの代物なわけですが、まさにそれこそ同人って思えるし、私からすれば作りたいものを作っているのだなあと好感が持てる作品でした。個人的には、製作者側が制作費すら回収できないなら、無理に小説媒体に拘らず、無音でも絵無でもいいからノベル形式にして発売してくれればいいのになあ、と思ったりします。WEB小説でもいいんですが、あれは上手いレイアウトで作ってくれないと読むのに疲れるんですよね。私だけかもしれませんが。そして何より製作者に一切還元されないというのが気になります。同人活動で儲けようって考えている人が界隈にどれだけいるかわかりませんが、せっかく楽しませてもらうならそれなりのリターンは出したいなあと思うので、可能な限り利益率の高いやり方で長生きしてほしいところです。
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