銃 火 感想

 中村文則著『銃』の感想です。ある雨の日に銃を拾った男の日常が少しずつ崩壊していき致命的な破滅へと至る話。暴力を体現した冷徹な殺人道具に取り憑かれ、その銃への狂おしいほどの愛と執着からついに抜け出せなかった男の物語となります。

 ストーリーはとてもシンプルで、淡白な過去形の独白が多いのが特徴的です。拾った銃のことだけを考えて生きる(たまにセックスのことも考えてますが)男の世間への無関心と私生活の無味乾燥ぶりを淡々と描写していきます。一見して他者とのコミュニケーション不全を起こしていそうな内面描写なのですが、随所の会話シーンから推定するにこの男はかなり砕けた調子で他者と接しており、それなりに人当たりのよいキャラとして人間関係を結び、それなりの地位を確立させて社会に溶け込んでしまっています。内面から想像されるイメージ像との乖離は男の異質な人間性を否応なく意識させ、そんな人間が社会に紛れ込んで平然と生活をしているという描写に作者の不信を感じじさせます。会話ができるからといって、その人間の内面がまともであるとは限らない、というように。

 主目的だった短編・火は、これまた中村文則らしく胸糞の悪い代物でした。30P程度の短編であり、さくっと読めるのですが、その分陰鬱なエピソードが凝縮されて詰め込まれており、読後感は最悪に近いものがあります。最後の一文が多少は救いになっている……かな?内容としては、幼い頃に家を燃やして両親を亡くした女が、先生と呼ばれる人物に自身の人生を告白しながらカウンセリング(と思われる)を受けている様子を描写していく話になっています。学校ではいじめをうけ、結婚相手からは浮気され、離婚してからは売春をしながら借金生活を送り、最後には産んだ子供をも売りに出すという極めて救いのない物語です。



 表題作については既読の作品であり、未収録の短編を読むために購入、数年ぶりに読み直しましたが、このタイミングで読み直してよかったと思います。当時、私が受けた衝撃はそのままそこにありました。私が銃を読んだときに感じた衝撃は、果たして私が同じように銃を拾ったとき、同じことをするのかしないのか、その答えが出なかった点にありますが、未だにその答えは出ませんでした。何年経っても成長していないことに呆れつつ、改めて自分の立ち位置を再認識することができたのは有意義だったと思います。

 少し気になるのは、ほかの人は今作を読み終わった時、最後のシーンをどう思うのかということです。自身と同じような感想を持っている人ばかりなのは恐ろしいし、理解を放棄されてしまうのもそれはそれで恐ろしいのですが、ほかの皆さんはどう思うのか。自身と照らし合わせたりしないのか、そもそも銃なんて拾わないで警察に通報するという価値観が普遍的なのか。この作品に共感するとしたら、いったいどんなところに共感するのか。考えても詮無いことですが、想像を禁じえません。


 最近中村文則の作品を読み始めたという人は、ぜひ今作も読んで現在と過去の作風の違いを感じてほしいと思います。近年刊行された著者の作品群とは比べ物にならないくらい強い虚無感に面食らうのか、やはりこういう作品を書く人だったのかという認識を得るのかはわかりませんが、著者の作品に少なからず魅力を感じている人なら一読の価値があるとオススメできます。
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