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WHITE ALBUM2 感想

 Leafから発売中の18禁ビジュアルノベル WHITE ALBUM2 introductory chapter及びclosing chapterの感想です。メインライターは丸戸史明(with 企画屋)。代表作に『ショコラ』『パルフェ』といったメイドカフェを舞台にした作品や、学生寮での青春を描いた『この青空に約束を―』等があります。これらはどちらかといえばキャラ先行型のシナリオであり、いわゆるキャラゲーを描くのが得意なイメージの強いライターです。



 以下、作品本編のネタバレを多量に含みますので、未プレイの方は十分注意してください。主観的な表現に満ち溢れた文章であり、客観的な評価を知りたい人はこのままブラウザを閉じるか、素直に戻るボタンをクリック。

(なお、引用文には多数省略があり、原文そのままではないことが多々あります。予めご了承ください)





 まずタイトルがナンバリング作品になっていることから説明します。今作は1998年にLeafから発売されたWHITE ALBUMという作品の続編になります。WHITE ALBUMは大学生の主人公と駆け出しアイドルである彼女とのすれ違いから人間関係が泥沼化していく恋愛物語です。主人公が彼女持ちの状態からシナリオがスタートするという、男と女が相思相愛の関係に至るまでを描く作品がスタンダードであるエロゲの中ではなかなか珍しい設定を持つ作品。彼女持ちの状態から他のヒロインに浮気していくことが全体コンセプトのため、いわゆる修羅場属性を備えており、攻略キャラも6人とそこそこ多め。回りくどく暗喩表現に溢れた文章も印象的で、直截的に描かれない婉曲な心情描写は一見の価値があります。あとは1998年当時の作品としては珍しくボーカルソングが3曲収録されています。作中にも深く絡んでくる曲ということもあり、どれも印象に残る曲でした。今聞けばさすがにチープ感があることは否めませんが、メロディーは十分キャッチーで耳に残る。システムは恋愛シミュレーションがベース。基本的にイベントがランダム発生になっているため、全イベントをコンプするにはなかなか骨が折れる。というか既読率表示があるわけでもないので、全文読むのは相当難しいのではないかと思います。何週も楽しんでもらうための手段だったのかもしれませんが、純粋に物語だけを楽しむタイプにはあまり向いていなかったかなと感じた記憶があります。あとイベントがランダムに発生するせいで、シナリオの配列がいまいち。矛盾を感じるほど酷くはないものの整合性は微妙。ただWHITE ALBUMは2010年にPS3に移植されており、そちらでは改善されている可能性もあります。あくまで私がプレイしたのはPC版なので、PS3版のシステム・シナリオがどうなっているかはわかりません。

 で、肝心のWHITE ALBUM2ですが、こちらは1から数年後の世界が舞台となっています。といっても、1と2のつながりはそれほどまでに強くはなく、メインテーマの『WHITE ALBUM』が物語の始まりになっていたり、他の曲が懐メロとして残っていたり、1のヒロイン彼女達が現在も第一線で活躍しているというような話が間接的に流れてるくらいで、直接的なストーリーのつながりはほとんどありません。前作のキャラが登場して物語の主軸に関わってくるということは一切無し。緒方英二くらいは出てくるかと思いましたが、彼も名前が出てくるだけで実際の登場はなし。なので、結論からすれば、前作はプレイしていなくても全然OKです。共通点といえば、歌・アイドル・浮気・三角関係といった作品コンセプトを引き継いでいるくらいです。コンセプトにしても、どちらかといえば淡々とした(と記憶している)恋愛関係を描いた前作と比べれば、2では徹頭徹尾、情愛に溢れる泥沼関係を描いているので、同じテーマを書いているとは言えない。今作のメインヒロインも学園のアイドルという設定ですが、同じアイドルでも芸能人と一般人という距離感を描いた前作とは大きく異なる。ということで、どれもかろうじてコンセプトが被ってるだけの別物だと感じました。メインライターが違いますし、当たり前だといえば当たり前ですが。もちろん前作をやっていれば、多少は思い入れも変わってくるでしょうし、前作の歌は今作でも中核に関わってくるので、曲くらいは聴いておいても損はないと思います。シナリオテーマの比較等もできますし、やっておいて損ということはない。システムも一新されており、恋愛シミュレーションから純粋なADVタイプに変わりました。エロゲで一番ポピュラーな紙芝居タイプというやつですね。プレイヤーがやることといえば、ひたすらクリックしてテキストを読んでいき、時々選択肢を選ぶくらい。個人的にはこのスタイルの方が純粋に物語を楽しめていいんですが、前作のようにプレイヤーが努力して、かつ運がないと女の子と会えない、っていう前作のスタイルが好きな人もいるかもしれません。





 前置きが終わったところで、早速シナリオ毎の感想をまとめていきます。

  introductory chapter。主人公の春希と、クラスメイトのかずさと、同級生の雪菜が、歌の練習を通して交流を重ねていき、やがて恋愛関係へと発展していく、という全てのはじまりの話。元々春希は軽音楽同好会のギター補欠だったが、新しく入ってきた女ボーカルのせいで、バンドメンバー間の仲が険悪になってしまい、同好会が分裂してしまう。春希はこの機会を生かし、なんとか学校祭に出場するためメンバー集めに奔走するが、遅々としてメンバーは揃わない。春希が諦めかけていたとき、屋上から歌声が聞こえてくる。屋上で歌を歌っていたのは、学園のアイドルである雪菜だった。雪菜が一人で何時間もカラオケで歌ってるカラオケ女王だということが発覚し、春希は彼女を同好会のメンバーに誘う。そしていつもギターの練習中に聞いていたピアノの引き手が、クラスの問題児であるかずさだということがわかり、春希は彼女のこともメンバーに誘おうとするが――、と序盤のあらすじや、それぞれの立ち居地はこんな感じ。王道といえば王道、ありきたりっちゃありきたりですかね。序章は、これから先たくさん積み重ねていくための1段目を築いている段階という感じで、もちろん物語上なくてはならない出来事なんですが、プレイ中はそこまで深く感情移入しなかった。このシナリオが生きてくるのは、どちらかというともうちょっと後からで、具体的には終章をクリアした後くらいからです。というのも、序章の立ち位置は『作品全体にとっての戻りたい過去』、だと思うからです。序章を発売日にプレイして、終章を発売日にプレイしていれば、作中時間の経過と同じくらいリアルでも待たされた分、もっと思い入れも違ったのかもしれないと思うと、私も一緒に待たされるべきだったなあと非常に後悔しました。

 話を戻します。シナリオが進むにつれ、春希は雪菜とかずさとの二人と仲を深めていく。学校祭での発表が終わった後、春希に告白したのは雪菜でした。春希はこれにすぐOKしてしまう。ここから彼らの関係は崩れていきます。きっとかずさが告白していたのなら、春希はかずさを受け入れただろうと思えるところが悲しいところです。しかし現実には春希はその告白を受け入れ、かずさにも二人が恋人関係になったことを告げる。普通ならここでかずさは物語からフェードアウトしていくところなのですが、ここでこの雪菜というヒロインが面白いのは、自分と春希が付き合い始めても、かずさもそばにいてほしいと願ったところです。3人が2人と1人になってしまったのに、雪菜は3人の関係に拘り続ける。これがこの物語における最大のポイントであり歪みであるといえます。ここで雪菜がエゴを丸出しにして、自分と春希の2人だけでいようとしたのなら、物語の結末はかなり変わったのではないかと思いますが、雪菜がそうしなかったことにも理由はあります。それが本当の気持ちなのかどうかはとにかく、雪菜側にもそうする理由がありました。この段階で、春希とかずさには親との不和を抱えているという共通点がありますが、雪菜にはかつて友人関係において不和を抱えたという過去があります。これはまあよくある話だなあくらいのエピソードなのですが、しかし当事者である雪菜にとっては簡単に流せる話ではない。この事件が原因で、彼女は親しい人から仲間はずれにされることを非常に恐れています。だから彼女は3人での関係に拘ろうとした(ということになっている)。そりゃあ雪菜にとっては万々歳でしょう。ずっとみんな一緒という自分の望みは叶うし、好きな人はできたし、いいことづくめですから。しかし他の人の幸せが、雪菜にとっての幸せであるかといえば、そうだとは限らない。むしろ、雪菜の幸せは他人の不幸を招きます。誰かというと、もちろんかずさです。2人の恋人関係を傍らで眺めているうちに、次第にかずさはこの関係に耐えられなくなっていく。いや、きっと最初から、3人で旅行に行く前から、ずっと耐えられていなかったのだと思います。この関係にかずさがどれほどの苦痛とストレスを感じていたのかは想像に難くありません。そんなかずさに降って沸いたウィーンへの留学話。かずさは母親にピアノの腕を認められず、日本でずっと一人暮らしをしていましたが、かずさの母は学校祭の演奏をみて、一緒にウィーンへ行かないかとかずさを誘う。ウィーンで、ピアノの腕を磨かないかと。かずさは、春希たちに何も相談せず、それに応えてしまいます。

 そして3人の関係が崩壊する運命の日。いや、ずっと成り立っていなかったことが発覚する日だといったほうがいい。雪菜と春希が付き合い始めてからかずさとは距離が開き続けていた。しばらく会って話す機会がなくなっていた3人。その日春希は雪菜の誕生日パーティーに行く約束をしていたが、時間を余した春希は、かずさの家に寄り、彼女をパーティーに連れ出そうとする。全ては3人でいようとする雪菜のためだと頭の中で言い訳しながら、かずさと話し合おうとする。しかしかずさは家におらず、そこにいたのは海外にいるはずの母親。ここで春希は、母親からかずさがウィーンに留学することを聞いてしまいます。自分達に秘密にしたまま、かずさが全て一人で決めてしまったことを知った春希は、雪菜に嘘を吐き、ウィーンから帰ってきたかずさを迎えに行く。ここで切ないのは、春希は雪菜の家に家族もいると思っているのに、実際には雪菜の家族は旅行にいっており、雪菜は春希と二人でのサプライズパーティーのつもりで待っていたというところです。悲しいくらいにかみ合っていない2人の姿は実に悲哀を誘います。

 かずさを迎えに行った春希は、なんで自分に黙って行ってしまうんだとかずさを弾劾する。「いやいや何言ってるのこいつ……」と思っているところで、ついにかずさの感情が決壊してしまう。先に手の届かないところにいったのはお前だろと泣きながら春希を責め立てるかずさ。泣き叫ぶかずさを見て呆然と立ち尽くす春希。自分が誠実だと思っていた行為が、ずっとかずさを傷つけていたこと。かずさを想っていたはずが、自分の思い込みに過ぎなかったこと。ここでようやく春希はかずさの気持ちに気づきます。自分とかずさがずっと両思いだったということに。「おいおい本気かよこいつ……」と呆れること必至の場面。まあ、わかっててやってたのだとしたら、本気で最低だったわけですが、気付かず無自覚であったことも同じくらい罪深い。さて、ここで二人の気持ちが曝け出されたことで、二人が両思いになるかといえば、もちろんそんなわけはない。そんなに物事は都合よくできていない。春希は既に、悲しいくらい雪菜との関係を積み上げてしまいました。そのことに気づいたかずさは絶望し、春希を突き放し、拒絶する。なぜそんなに慣れたキスをするのかと。二人の間に生じた絶望的なまでの距離。走り去るかずさと、呆然と立ち尽くす春希。ここまでの流れは演出も重なり合って最高でした。After Allのピアノは切なく、POWDER SNOWのピアノアレンジが美しい。

 別れを予感させつつ物語は進みます。かずさが雪菜にも留学することを告げた後、春希たちはかずさと連絡が取れなくなっていた。卒業式にも姿を見せないかずさ。このまま三人はバラバラになってしまうかと思いきや、かずさは雪菜だけには手紙を残していました。かずさがつい先ほどまでここにいたと知り、内容を確かめる時間も惜しんで雪菜を残し一人追いかける春希。春希はかずさを求め、夜まで街中を走りまわる。それでもかずさはどこにも見つからなかった。自宅で失意に沈む春希に、かずさから電話がかかってくる。お前が好きだと想いを伝える春希に対し、もうお前とは会わないと告げ春希を拒絶するかずさ。これが最後のあいさつだと。しかし、諦めの悪い春希はそれくらいではくじけない。かずさがすぐそばにいることに気づき、電話から聞こえた音を頼りにかずさの元へと走る。再び顔を合わせる二人。電話なら言えることもあると言い訳して、春希が大好きだと告白するかずさに、春希は自分の家に来いと誘います。互いの肉体を求め、ただ繋がり合うためだけに。雪菜を裏切りながら、雪菜に嫉妬しながらセックスする二人。もう、ぺったぺたの泥沼展開です。BGMの『綺麗で儚いもの』が、よりいっそうこのシーンの儚さを強調していました。所詮、二人の関係はこの場限りの繋がりに過ぎないということを。かずさはどのみちウィーンへ行ってしまうということを。

 ここで大きな山場が終わり、あとは穏やかな展開になるかと思いきや、この作品はここでは終わらない。凄まじいのはここからです。翌日、春希の家にやってきた雪菜は、かずさが今日ウィーンへと出発することを伝えます。別に見送りには行かなくていいという春希に、かずさを一緒に送ろうと雪菜は誘う。私達は親友なのだからと。もういい、それよりも話があるという春希に、迎えに行かないなら話は聞かないと言い張る雪菜。まだ私たちは終わりじゃない、全然終わっていないと主張する雪菜に、結局春希は折れ、同行することを決める。

 空港へ向かう道中、春希は全てを告白します。雪菜を裏切っていたこと。ずっとかずさのことが気になっていて、それを自分でも理解しながら雪菜と付き合ったこと。付き合った後もかずっとずさのことが気になっていたこと。かずさを忘れるために雪菜との関係を深めようとしたこと。全てがかずさを主体にした行動だったこと。自分の最低の行い。それら全部。しかし、雪菜は春希の罪を認めようとしません。雪菜は言います。全て、予想の範囲内だと。全てわかってて、それでも3人でいたかったから、恋人になろうとしたんだと。逆に春希へと自分の想いを告白する雪菜。かずさほどに春希のことが好きじゃなかった、かずさほどに真剣じゃなかったんだ、と。いったい雪菜はどこまで本気だったのでしょう。春希を傷つけないように気遣っての発言であること、また自分と春希のこれからの関係をこれ以上悪化させないように計算した発言であることは間違いないと思うのですが、少なくともこの場面で告白したことは、雪菜の中では本当のことだったんじゃないかなと思います。途中から春希を本気で求めてしまったことまで含め、全部。

 空港についた二人はかずさを探します。自分はかずさを見つけてしまうという予感に駆られながらも、空港を探す春希。そして再会してしまう二人。かずさの名を叫びながら走る春希。雪菜の前で二人は抱きしめあい、キスし合う。まるで雪菜に見せ付けるかのように。どうしてこうなるんだろう、どうしてこうなっちゃうんだろうと、一人述懐しながらそれを眺め泣く雪菜。3人の関係が崩壊してしまったことを示しつつ、序章の物語は幕を閉じます。雪菜を傷つけていると知りながら、キスし合う二人の姿は見ているだけでぞくぞくしました。最後のシーンは、かずさと雪菜、どちらの心情を想像してもたまらないものがあります。

 これはあとでわかる事実なのですが、かずさは学園祭が終わったあと、ピアノを聴いている途中で眠ってしまった春希に、キスをしています。実は、先に行動してしまったのは、雪菜ではなくかずさの方です。このとき、雪菜は友達関係のままでよいと思っていました。この3人の関係がずっと続けばいい。少なくとも、友達にそう公言できるくらいには、そう思っていた。しかし、雪菜はキスするかずさの姿を見てしまいました。雪菜が行動した大きな理由がこれです。2人の距離が縮まっていけば、いずれ3人は2人と1人になってしまう。3人じゃなくなるのが嫌だったのか、1人になってしまうのが嫌だったのか、1人を取られたくなかったのか、それともそれら全部か。いずれにせよ、焦燥が雪菜を告白へと駆り立ててしまった。もしもかずさがキスしていなければ、もしかしたら雪菜は一歩を踏み出さないままで、かずさと春希が付き合う未来だってありえたのかも――などというのは想像するだけ栓の無いことですが、この先の展開を思うと、想像せざるを得ません。





 いざこうやって書き終わってみるとただ痛い主観の混じったネタバレでしかないような気がしますが、とりあえず序章までの感想はこんな感じ。プレイ時間はだいたい6~7時間程度です。私はボイスを全て聞かずに文章優先で進めていくことが多いタイプなので、じっくりボイスも聞きながらプレイする人なら恐らく8~10時間程度かかると思います。ストーリー以外の点で、序章をやって気になったところは、目に見えてCGのクオリティにばらつきがあるところですね。特に立ち絵。素人目にみても、ちょっとこの絵は体のバランスが変なんじゃ……と感じるものがちらほらありました。

 あとは蛇足ですが、あえてclosing chapterを先にやって、春希と雪菜の間に何があったのか、妄想しながらプレイするってのもプレイスタイルとしてかなりアリなんじゃ、なんて思いましたが、残念ながらそのような奇特な人はあまりいないでしょう。もしそういう人がいれば感想を聞いてみたいなあと思います。










  closing chapter。かずさと別れてから3年後が舞台です。当然ながら、春希達は大学生3年生になっています。春希と雪菜の仲は冷えきっており、二人は同じ大学に通いながらも、距離をおいて学生生活を営んでいる。……といっても、一方的に距離をあけてるのは春希だけであり、雪菜としては春希を助けてあげたい、癒してあげたい気持ちでいっぱいだったのでしょうが、春希は雪菜のそんな優しさを正面から受け取り切れず、転部までして雪菜から距離を置いている。物語的にも「ここからが本当のWHITE ALBUM2だ……」とでも言わんばかりの痛々しいストーリーが待ち受けており、まさしくここからが本編といえるような、思わず胃が重たくなる展開が目白押しとなっています。

 一本道だった序章とは異なり、終章のシナリオは4つに分かれています。クリスマスの夜、雪菜に拒絶されて傷心した春希が、外部に癒しを求めるところからシナリオが分岐していく。未だ彼女がいる状況で違う女に癒しを求めるその姿はまさにダメ男であり、序章では少なからずいいヤツだった春希の株が大暴落していく展開となっています。予め書いておくと、終章のシナリオは、春希が雪菜を裏切り、傷つけていく話ばかりです。誠実さってなんだろうとか考えましたね。





 小春シナリオ。明るく真面目でおせっかいなアルバイト先の後輩と浮気する話。実は、終章の中でも一番救いのないシナリオなのかなあと思います。もちろんシナリオの良し悪しやキャラが好きかどうかは別として。結局春希と小春の関係はそれぞれに空いた隙間を埋めようとして始まった依存関係で、小春は友人との不和から、春希は雪菜からの拒絶から、それぞれ逃避してるだけなのではないかと。逃避から始まる恋愛関係が全て悪いと言い切れるほど達観してませんし、大体逃避っていうなら他のシナリオだってそうなんですが、実感としてはあまりいいものに感じられない。当人達はそんな風に思っていないのでしょうけど、それぞれがそれぞれの欠けたものを穴埋めする形で、傷を舐めあっているだけではないでしょうか。最後に小春の友人関係が修復される示唆めいた描写がなければかなり救われないシナリオだったと思います。

 小春は春希と似た人物像を持ったキャラとして描かれています。他人のためなら率直にものを言い、他者から嫌われることを厭わない代わりに、自分のことは全て溜め込んでしまい、自分で解決しようとするタイプ。なので、彼女のことを助けるためには自分から踏み込まなければなりません。しかし、このシナリオの春希は、雪菜に凹まされたことで、相手に踏み込んでいく活力がない無気力状態のため、小春は助けてもらえず一人傷つき苦しむことになります。で、その傷を作っている原因に癒しを求め、傷を舐めてもらう、と。これを悪循環と言わずなんと言おう。

 具体的にシナリオの流れを書きます。小春は友人の好きな人を寝取ったとして、校内で孤立していきますが、春希の前では常に気丈に振る舞い、自分でなんとかできるからと春希からの助けを拒否する。傷心の春希はこれ幸いとその言葉を特に何も考えず額面どおりに受け取り、小春に踏み込もうとせず生温い恋愛関係に満足してしまう。実際、辛いときに辛いって言ってくれる人を助けるのってそんなに難しくありません。もちろん全力で相手を助けないといけないのですが、なんでもないと言っている相手にウザがられながらも踏み込んでいき、相手に嫌われる覚悟をしながら(表面上)望まれても頼まれてもいないような人を助けるよりはずっと楽です。相手を傷つけるのって、色々なことに自覚的な人であればあるほど、避けたいことだと思います。時には他者を傷つける勇気も必要なのですが、言うは易し。それを実践するのはとても難しい。男女間であればなおさら。こんな時はいざとなればいくらでも自分への言い訳が成り立つわけで、はっきりいえば自分の責任外だと言い張ることだって可能です。無理して行動する必要はない。だって、直接自分に頼られているわけではないから。でも、私はこれって本当に話を聞いているうちには入らないんじゃないかなと思ってます。人間関係に嘘はつきものだし、相手の言うことを全部馬鹿正直に受け取り、相手の強がりから目を背けて何もせずにいることは、極めて保守的な態度だと思うからです。だから、理想的なことを言うなら、春希には小春の心情を尊重するなんて逃げではなく、踏み込んでいって助けてあげてほしかった。

 他のシナリオでも言えることではありますが、誰もが相手の気持ちを慮ってばかりで深く踏み込まず、相手から嫌われる覚悟を持って叱咤激励してくれる大人が1人もいないっていうのが今作の一つの悲劇だといえます。こういう人って煙たがられますし、現実にいれば好かれることはあまりないと思います。でも本当に他人のことを思って行動をしているのって、いったいどっちなんでしょう。程良い距離感を持った関係といえば聞こえがいいのですが、本質的なところではただ誰もが理解し合っていないだけってことなんじゃないかとさえ思います。寒々しい距離感が、妙に現実的な生々しさを感じさせてくれました。





 千春シナリオ。傷ついた春希を優しく包んで癒してくれる同級生と浮気する話(たぶん)。伏線の張り方が非常に上手なシナリオです。今作の中でも一番トリッキーなシナリオであり、シナリオ単位でみれば一、二を争うくらいよくできたシナリオだと思います。全体を見ないならこの話が一番好き。キャラとしてみても終章の新キャラの中では一番好きです。体が一つになっても、心が一つになっても、そこにあり続けるどうしようもない距離感。他にそう感じた人がいるかどうかわかりませんが、どことなく天使のいない12月を彷彿とさせる展開でした。

 シナリオについて書きます。春希は転部した先で千晶と知り合いました。千晶はあまり熱心に勉強をしないタイプの人間であり、春希は持ち前の世話焼き根性で千晶の面倒を見ようとする。初めは女を感じさせない同級生として親しくしていましたが、雪菜に拒絶されたとき、春希は彼女に女としての癒しを求めてしまう。そして始まる肉欲に塗れた同棲生活。ひたすらセックスばかり繰り返し、二人は体のつながりを深めていきますが、しかし一向に千晶の心の内は見えてきません。何故彼女は春希を癒そうとしてくれたのか?そこに気付くことがこのシナリオのキーとなっています。

 彼女が演技している女だと気づけたのは、かずさに成りきって春希を叱咤した場面です。

「あんまり、お前の近くにいる奴に騙されてるんじゃない。そいつは…最低の女だ」


 これは千春シナリオの一周目終盤付近で、割と前後の脈絡を無視して急に出てくる台詞です。最低の女といわれても、何のことを言ってるのやら、少しぽかんとなりました。いったいこれはなんだろうと引っかかりつつも、すぐには気付くことができなかった。もやもやしたまま話を進め、1周目が終わるくらいになってようやく一つのことに思い当たります。もしかして彼女は、何かしらの演技をしていたのではないか、ということに。わざわざ列挙していくのは格好悪いので自重しますが、思えば彼女が演劇をやっていたヒントはたくさんあり、私はそれをスルーしまくっていました。きっとカンのいい人は途中で気付いたんだろうなあ。実に絶妙な加減の伏線だと思います。

 1周目では、この後次第に春希が精神的に回復していき、千晶は最終的に春希のもとを離れていきます。その後千晶とは連絡が取れなくなり、雪菜と春希の関係が少しずつ修復されている様子が示唆されつつ、話が終わってしまう。千晶の本当の姿は見えてこないままに。

 もちろん、千晶シナリオはここで終わりではありません。もう一度千晶よりの選択肢を選びながら終章をやり直していくことで、今度は1周目では見られなかったシーンが開放され、千晶の行動理由が少しずつわかるようになっていきます。ここからが千晶シナリオの本番であり、プレイヤーは一周目の答え合わせをすることになります。やり直していくことで徐々に見えてくる千晶の心理。実際、彼女の裏で蠢いている感情は、傷心の春希からすれば相当にひどいものでした。千春の目的は、かずさと雪菜と春希の過去を自分の中に吸収して、演劇の脚本を仕上げること。そのために千晶は春希と寝て雪菜との思い出を聞き出した。自分の演劇を完成させるために、春希の求める女性像を演じ続けた。最初の方のシーンで、マンションから去る彼女が意味深に仄めかしていた態度ですら演技だったのかと気付いたときにはぞくぞくしました。
 
 悪女みたいな立ち位置になりがちな千春ですが、だからといって彼女が好きになれないのかといえばそんなこともなく、先に書いたとおり、メインヒロインを除いた中では一番好きなヒロインだったりします。なぜかというと、彼女は他の二人の成り行きのような関係とは違って、明確な目的意識を持って春希に近づいてきた女だからです。ある意味与え与えられる関係。性格的には理解し難い面がありますし、彼女の行動は打算と計算から生まれたものでしょうが、しかし彼女の愛情は本物であり、相当に深いものだと思います。

 このシナリオのポイントである演劇についてですが、難しいことはさておいて、千晶の気持ちと雪菜の気持ちが混ざり合った雪音の告白は本当に素晴らしかったです。

「わたし、和希くんのこと、本当に、本当に愛してる!これだけは真実だって、約束する…」


 舞台上の演技でありながらも、いや演技だからこそ可能だった一世一代の告白。人生が演技そのものの千晶の本心なんてそう簡単に読み取れるものではないでしょうが、これだけは千晶の奥底から溢れ出た純粋な想いなのだと確信できます。作品通してみてもトップ3に入るほど印象深いシーン。そしてこのシーンは千晶シナリオだけではなく、今作の終盤においても重要な意味を持って絡んでくるというのが素晴らしい。想いの量に限度なんてないということ。その想いが誰にも負けないと誰もが主張するのなら何を基準にして彼女たちを選べばいいのか。そのどちらかを選ぶことに正解があるのかどうか。後々、この場面を思い返すことになります。

 ある意味、このヒロインは3年前からずっと春希にぞっこんだったのであり、そういう意味では届かない恋を歌うヒロインとしてもふさわしかったのだなあと思います。クリア後に改めて序章をやり直してみると、千晶の描写が追加されているので、ぜひこれも読んでほしいと思います。3年も片思いしていたヒロインだってことが見て取れる、これまた印象的なシーン。

 あとは痕のオマージュが懐古プレイヤーとしてはなかなか嬉しい演出でした。不意打ち気味だったため思わずニヤリとしました。ためいきはいつ何時聞いても名曲ですねえ。





 麻理シナリオ。有能な職場の上司と浮気する話。大人の女との恋愛ストーリー……と思わせておいて、非常に拙い、おままごとのような恋愛を描いた話。たぶんライターの丸戸史郎が好きな人間像なんでしょうね、仕事ができて私生活はダメダメなヤツって。春希もそうだし、かずさもそうだし、雪菜もそうだし、千晶もそうだし。

 こういってしまうとなんですが、あまり感想が浮かばなかったシナリオです。別に麻理が嫌いだからではなく、このシナリオでやってることが幼すぎてコメントできないからです。ここでの春希は終始『なんで僕のことをわかってくれないんだ!僕のことをわかってよ!』という甘ちゃん極まりないものであり、うん、正直子供以外の何者でもなかった。なぜ誰もグーでぶん殴ってやらないのか不思議で仕方ありません。最後に雪菜を傷つけて麻理を追っかける展開は子供じみた衝動としか言いようがない。年上相手だから甘えてしまう心理もわかりますけども、求められて嬉しがってる麻里さんマジダメ女でしたけども。あれ、それじゃあ結果オーライか。ともあれ、好きな女を追っかけて海外へ飛んでいっちゃう展開は青臭くて仕方ありませんでしたが、こういうのも嫌いじゃあありません。

 一点気になったのは、麻里さんの過去の男性遍歴が全くわからなかったこと。明らかに何かしらのトラウマを持ってる様子だったのですが、思い違いでしょうか(私が読み飛ばしているだけだったらすみません)。










 ここまでがサブヒロイン3人の感想です。上記の3ルートは、雪菜との関係が失敗に終わってしまい、凹んだ春希が立ち直るまでの話です。早い話が過去を思い出にしてしまうためのルートといえます。私は、これも健全なあり方の一つなのかなと思っています。過去は過去で、現在は現在で、未来は未来。生きていくにあたり、ある程度そういった割り切りは必要だと考えています。『知らないことが幸せなこともある』し、『相手を好きなだけじゃ、どうしようもないこともある』。全部が全部、背負って生きていかなきゃいけないってものこともないでしょうし、適当に捨てていくことも必要だと思います。

 しかし、これらのサブシナリオがその未練を全て断ち切れているかというとそんなこともないわけで、だからサブシナリオを終えた後の読後感はあまりすっきりしないものが多い。思えばサブシナリオでは春希の過去の問題が全て解決したわけではありません。解決したといっても、それは半分の部分だけ。そう、雪菜のことはともかく、かずさのことは全然吹っ切れていない。最終章を読めば一目瞭然ですが、この段階の春希は、未だにかずさのことを想い続けています。終章のサブヒロインと結ばれて、雪菜との関係を清算したのは多いものの、かずさへの未練を振り切ったわけではない。先に書いてしまいますが、終章での春希は、雪菜と深く結ばれながらも、結局雪菜を裏切ってかずさを選びます(雪菜ノーマルもハッピーも、結局かずさのことを考えたから、ああいう結末になったのだと思います)。ということは、サブシナリオを終えた後、かずさと関わり合う未来が訪れた場合は、当たり前のようにかずさを選ぶ可能性が高いわけです。

 終章のEDテーマ、『優しい嘘』と『愛する心』はどちらも雪菜の心情を歌った歌詞です。終章のメインはあくまで雪菜なのだと主張しています。ですから、この終章では雪菜と結ばれることがすなわち唯一のハッピーエンドであり、その他は言っちゃなんだが横道にすぎないのではないかと。誤解を恐れずにいえば、最初の三人を選んでしまった結末はどれもバッドエンドなのではないかと思います。だって、かずさとのことは一切解決していないのだから。もしも春希が大学卒業後、小春シナリオにしろ千晶シナリオにしろ麻理シナリオにしろ、いずれウィーンに行くことになってしまうのなら、必ずかずさと向き合う日がくるんじゃないでしょうか。いずれにせよ、かずさとの再会は避けられないのではないでしょうか。そのときに、春希がかずさとサブヒロインの誰かを天秤にかけて、かずさ以外を選ぶとは思えないのです。いや、まったく可能性がないとは言えませんが、心の奥底から確信することはできない。描かれていない未来のことをどうこういうのもあれですが、もしも終章の未来が最終章に全て繋がるのなら、どちらにしろ今後の破局は避けられないと思うのです。





 ということで、雪菜シナリオです。ようやくやってきた大本命。このシナリオでは、春希が自ら雪菜に一歩踏み込んでいくことで、離れていた二人の距離が近づいていきます。さすがにメインヒロインだけあって雪菜関連の描写は軒並み濃い。心に突き刺さり思わず胃が痛くなりそうなシーン満載。

 シナリオの流れですが、上記のヒロイン3人の感想では共通パートの展開については端折っていたので、ここで雪菜から拒絶されるまでの展開について、雪菜シナリオに関わってくる中核部分だけに焦点を搾って書いておきます。

 全てのきっかけは、かずさが有名な国際ピアノコンクールで賞を取り、日本でも知名度が上がってしまったことです。春希と雪菜は、かずさの話題を通して離れていた距離を再び近づけようとします。他のシナリオでは、メールだけで距離を近づけようとする二人がほほえましくも痛々しかったが、電話がかかってくるだけで泣いてしまう雪菜を見ていると、やっぱりあの選択は間違っていたのだなあと痛感しました。

 少しずつ距離を近づけようとする二人ですが、しかし一度こじれてしまった二人の関係がすぐに回復することもなく、また少しずつ距離は離れていく。ある日、新聞社でアルバイトをしている春希は、かずさと同級生である過去を生かしてかずさの特集記事を書く仕事を与えられてしまいます。貴重な経験を得るチャンスを与えられたことに喜ぶ反面、またかずさのことを記憶から掘り起こさなければならないことに苦悩する春希。それでも周囲の信頼を裏切ってはいけないと決心し、記事を書くことを決めるが、書き上げた記事は『つまらん』とバッサリ切り捨てられてしまう。この記事が全くかずさに迫っていないことを指摘され、ぼろくそにこき下ろされてしまう。意識的に本当のかずさのことを書くことを避けていた春希は、もう一度過去と向きあうことを求められます。

 かずさの記事をどうするかで悩む春希に、雪菜が大学の合コンから戻ってこないことを知らされる。大丈夫と自分に言い聞かせながらも、雪菜の無事を確かめずにはいられない春希は夜の街を奔走する。持ち前の人脈を駆使して合コンメンバー全員の所在を確かめた春希は、雪菜が誰とも一緒にいないことを知り、誰かとどこかへ抜け出したことを知って安堵します。実はここで出てくる誰か――長瀬というキャラは千晶のことであり、千晶と雪菜の会話シーンは千晶シナリオの中でも重要なシーンの一つなんですが、本筋には関係ないので省きます。ようやく雪菜を見つけた春希。雪菜に自宅へ戻るよう諭すも、雪菜は一向に頷こうとしない。そんな雪菜の態度に『怒ろう』としたところで、先に諦めてしまった雪菜の方が崩壊してしまう。なんで、こんなにわがままを言っているのに、怒ってくれないのかと……。ほんの一瞬のタイミングで、致命的なまでにすれ違ってしまう二人。ここからの展開は圧巻です。『氷の刃』をBGMにひたすら春希への恨み言を述べる雪菜。「早く、ふってよ」「わたしを、楽にしてよ」と春希に泣きつきながらも、数秒後に全てを撤回し、今のは忘れてと泣き崩れる雪菜。何もかもが後悔を誘い、ぐさぐさと心に突き刺さりました。雪菜は実際のところかなり計算深い女で、かなり狙ってああいうことをやってると思いますが、そこを差し引いても心に残るシーンでした。雪菜の魅力の全てが凝縮されたシーンだと思います。その翌日、届かない恋をBGMに、春希はかずさとの過去に向き合い、罪悪感と満足感に浸りながら、記事を書き上げます。今度は客観的な美辞麗句で飾られたものではなく、限りなく主観的な表現を加えた下世話なものを。

 それから二人は、またメールで距離を近づけていく。直接会ってしまえば傷つけ合うばかりなのに、メールで間接的に繋がっているだけなら傷つけあわずに済む。どちらが二人にとっての最善なのかは明白なのに、あえて遠回りな手段を選んだ二人は、しかしまた少しずつ関係を深めていきます。そしてクリスマス、二人は再び会う約束をする。春希が書いた記事が載っている雑誌を渡すという名目で。

 クリスマス。まるで昔の恋人だった時のようなデートをする二人。ところどころで雪菜の態度に引っかかりつつも、基本的には幸せそうな二人。ディナーを終えて夜の公園を歩く二人に、雪が降る。雪は好き?と問いかける雪菜に、そういうのはもうやめやよう、これまでのことはリセットしよう、かずさとのことはもう忘れたからと言う春希。それでも、雪菜の態度ははっきりしない。

 そんな雪菜にもどかしさを感じつつも、それでも二人は少しずつ距離を近づけ、再び触れ合い、抱きしめ合う。そしてホテルへと向かう二人。ついに迎えようとした初夜。ようやく二人は繋がり合う――のかと思いきや、物語はそう単純に転がっていってはくれません。

 シャワーを浴びている春希を待つ間、ベッドの上においてあるかずさの記事を見つけ、一人読み直す雪菜。ぼろくそに書かれた記事を読んで笑いながら、雪菜は何故こんなところに記事があったのかを考えてしまう。その理由に気付いた雪菜は、再び感情が決壊してしまいます。

 雪菜は既に、春希が書いた記事を読んでいました。それも1回2回ではなく、何度も何度も繰り返し。春希の中で確かに残っていたかずさへの未練。雪菜は泣きながらに訴えます。春希が3年前と全く変わらないことを、かずさのことを忘れてなんかいないことを。春希の中のかずさに、背中に押してもらっていたことを。雪菜はかずさへの気持ちを捨てていないにも関わらず、忘れたと主張する春希を許せなかった。ずっと我慢して溜めこんでいた感情を吐き出す雪菜に、何も言い返せない春希は、自失状態のままホテルを後にします。序章のときと同じように、どうしてこうなるんだろう、どうしてこうなっちゃうんだろうと、悔恨に苛まれる雪菜を一人残したまま。

「大丈夫…」
「わたしは、ずっと春希くんが好きだった」
「彼も、わたしを愛してくれるって言った。わたしを…求めてくれた」
「だからわたしたちの前に、障害なんか何もない。…当たり前のことを、当たり前にするだけだよ」
「不安なんか、かけらもない。後悔なんか、するわけない。だって、昔のことなんか全部忘れたんだから」
「……ごめん、かずさ」
「わたし、今日、あなたから春希くんを奪う」
「もう誰にも、渡さないよ」


 雪菜の心情を踏まえてみれば、この独白が全く別の意味を持って聞こえてきます。雪菜の決意を示していると思わせるシーンが、雪菜が自己暗示をかけているシーンに。すなわち、春希がかずさを忘れていないとわかっていながらも、そういうことにしてしまう都合のいい自己暗示を。

 雪菜に拒絶され、嘘つきと罵られ、ボロボロに傷ついた春希は、精神的なショックを受け、自分の殻にこもってしまいます。本来ならここで上記3人のルートに分岐していくのですが、雪菜とのつながりを優先していた場合のみ、春希は他の女に逃げません。そのかわり春希は人との繋がりの中で癒されていきます。麻里に、千晶に、小春に、少しずつ助けられていく。麻里には、かずさのことが好きだったことを。そして勇気を。千晶には、雪菜には振られたけれど、それでも雪菜が好きだということを。そして答えを。小春には、クリスマスの夜、雪菜との間にあったこと全てを。そして正しい道を。春希は、周囲の人達の力を借りながらも、社会復帰するため一人で立ち直っていきます。そして大晦日。ようやく精神的に立ち直り、吹っ切れた春希は、雪菜に電話をかけ、やっぱり雪菜が大好きだと告白します。

 ここで話は一段落し、シナリオは次の段階へ進んでいきます。ギターを使い、また生まれてしまった雪菜との距離を埋めようとする春希。感情を爆発させて逆切れする面倒くさい女丸出しの雪菜に萌えつつ、シナリオは序章のテーマに回帰し、すっかり忘れられていた歌とギターが引っ張り出されます。

 ここから先、キーになってくるのが柳原朋というキャラクターです。後半部分はこいつが契機になって物語が動き出します。序章のときに少し書きましたが、彼女はかつて軽音楽同好会に入ってきて同好会をめちゃめちゃにした女ボーカルです。彼女の子供じみた好意と自分本位な行動が物語を動かしていく。客観的にみてると少しイライラするキャラですが、しかしわかりやすい我欲で行動するキャラが少ない今作においては貴重な人物ですし、一人くらいこういうキャラがいてもいいでしょう。朋の行動理由は、わかってみれば本当に微笑ましいものでした。

 雪菜に聞かせるギターを練習している姿を中学生かと揶揄されつつ、相手のことを想っているフリをして結局待っているだけで雪菜に踏み込んでいかない姿を非難されつつ、それでも二人はまた距離を近づける。着かず離れずの関係を保ったままで。しかし、こんな停滞した関係がいつまでも肯定されるわけもなく、物語は否応なく動きます。朋が行動したことで、雪菜の隠していた秘密が明らかになっていく。

 強引にラジオ放送に出演させられ、バレンタインのコンサートへ出ることを決められてしまう雪菜。ここでついに、雪菜が歌にトラウマを抱き、歌えなくなっていたことがわかります。学園祭の『届かない恋』が原因で。春希を好きでい続けるかわりに、歌を嫌いになったんだと告白する雪菜。歌をきっかけに始まった思い出が、美しいものばかりではなかったから。雪菜にとっての綺麗で儚いものは、卒業式と空港での別れをどうしても思い出させてしまうから。

 春希の部屋で、クリスマスのときのように、二人きりになった雪菜と春希。似たような状況の中で、しかし一人届かない恋を弾く春希。わたしは歌わない、コンサートになんか出ないという雪菜。そんなことよりもっと大切なことがある、今日は絶対に拒んだりしない、もう大丈夫だからと言い聞かせるように呟く雪菜を、今度は春希がやんわりと諭します。

「大丈夫って、相手を気づかうための言葉だろ。どうして自分に言い聞かせる必要があるんだ?」
「本当に相手を求めてるんならさ…自分が大丈夫かなんて、そんなこと考えもしないだろ?」


 ことここにいたっては、春希は雪菜の嘘を見抜いています。雪菜はただ強がっているだけだということを。そして雪菜にとって歌とはなんなのかということを、歌を歌っている雪菜の姿が好きだということを、あの頃の、笑っていて、幸せそうな雪菜が好きだということを、余すことなくギターを通して伝えます。

 もうここから先のことを書くのは無粋でしかないと思うので略しますが、つまり二人は歌を通して関係を再生し、ついに過去の呪縛を乗り越えて結ばれます。二人はただひたすらに求め合い、最低でも一週間に一度は会うことを誓い合う。俺たちはもう大丈夫、これからはもう雪菜を離さないと約束する春希。ようやく、ようやくという言葉がこれほどまでにふさわしい物語もないでしょう。近づいては遠ざかり、遠ざかっては近づき、散々遠回りをし、時には足を踏み外しかけ、相手を傷つけ、相手に傷つけられ、それでもどうしようもないほどに求め合った二人。プレイヤーが散々切望した結末に、ようやくたどり着きました。やっと三年前の誕生日に戻ってきました。『これが、俺たちの終章』という言葉に、一も二もなく頷けます。

 このシナリオは、春希が雪菜への後ろ暗さを吹っ切って雪菜に想いを告白し、また雪菜が過去の痛みを乗り切って再び歌い始めるまでの話。『優しい嘘』で雪菜の恨み言を聞き、『愛する心』で雪菜の歓喜の声を聞く。数え切れないほどの苦難を乗り越え、まさにようやく訪れたハッピーエンド。これから先、決して揺らぐことなんてないと思える、春希と雪菜の幸福な結末。これ以上ないくらい最高のエンディング。ここから始まる幸福な二人の、二人だけの季節が始まる。

  ……そうとしか思えないエンディングなのですが。事実、物語もそう締められているのですが。これから先はきっと優しい世界が待っている――そう誰もが思うはずの場面なのですが。雪菜と春希は、ようやく手に入れた幸せを胸に二人で生きていくのだろうと、そう思う場面に違いないはずなのですが。

 思えば、ここまでかずさは想像以上に物語の表舞台に登場してきませんでした。出てくるのは想像上のかずさばかりで、実際のかずさはたった一度、春希とかずさがニアミスした場面があるだけで、それ以外には全く出てきません。にも関わらず、かずさの影響は非常に大きく、これほどまでに終章全体に存在感を与えています。最初私は、この終章でコンサートにきているかずさと春希が再会する話を描くのだろうと思っていました。雪菜とかずさの二人の関係に板ばさみになって苦悩する春希の姿を描くのであろうと。この終章の話の中でかずさはどんな風に絡んでくるんだろうと。かずさが出てこない、かずさが話題に上がるだけのシナリオでこんなに重苦しいのに、これで実際にかずさが登場してしまったら、いったいどんなことになってしまうんだろう――雪菜シナリオをクリアし終えた時、私はそんな風に思っていました。










 しかし、このWHITE ALBUM2という物語は、そんなに生ぬるくありませんでした。この作品は、そんな優しいだけの世界を認めてくれません。

  coda。終結部。結末。最終章。雪菜シナリオから2年後を描いた、文字通りの最終シナリオ。予想してなかったまさかの第三章。今作の真骨頂はここからです。このシナリオの展開がよすぎて優秀な終章ヒロイン3人のシナリオも霞んでしまう。エロゲの構造的欠陥ともいえるこの一点が、今作最大の欠点でありネックであるといえます。

 最終シナリオは、雪菜と結ばれた状態を継続して始まります。当然、この最終章は雪菜シナリオの後日談というわけではなく、作品全体を締めくくるグランドフィナーレとなっています。実は、当然あるだろうと思っていたかずさシナリオが、終章には存在しません。残酷なことに、かずさと結ばれるエンディングはこの最終章の中でしか語られない。春希が大学生の間にかずさとの関係が回復する未来は存在しません。まるでそれが二人にふさわしい罰であるかのように、二人の物語は雪菜と春希の恋人関係にある状態から始まります。そして逆に、幸せの最絶頂を歩む雪菜にとってはまたしても試練が経ち塞がることになります。ずっと目を背けていた、かずさという過去のしがらみが。





 以下、自分で読み返してみても、特に主観的で読みづらい文章だと思いますが、ご容赦を。意味わかんねーと思ったら笑ってやってください。

 まずは共通部分から。大学を卒業して社会人になった春希は、出張に向かった先のウィーンで、偶然かずさと再会します。5年ぶりに再会した春希とかずさ。最終章はここから始まっていきます。かずさとの久方ぶりの触れ合いはたったの数日で終わり、すぐに二人は離れ離れになるが、一度燃え上がった炎は簡単には消えない。雪菜へのあの誓いはいったいなんだったのかと思わされるくらい、いとも簡単に、あっさりとかずさへの執着を蘇らせていく春希。かずさへの想いに揺れる春希に追い討ちをかけるように、今度はかずさが日本へ来日してコンサートを開くことが決定し、会社からはかずさに密着取材をするよう仕事が下ります。雪菜との想いに葛藤する春希は、仕事だと割り切ることも、かずさと一緒に入れて嬉しいことも否定できず、流されるまま仕事を引き受けてしまう。仕事だと割り切り、雪菜にも正直に言ってしまえばよかったのに、そんな建前すら言えず、秘密を抱えたままの春希は、雪菜を裏切りながらかずさとの親交を温めていきます。5年経っても、またこれから先何年経とうとも、春希の中のかずさが思い出になることはない。かずさが永遠に春希の中で生き続けることを強烈に意識させらます。

 そして訪れるかずさの公演日。かずさから必ず見に来るよう言われていた春希は、膨れ上がっていくかずさへの想いを恐れ、かずさとの約束を破って雪菜の元へ向かってしまいます。かずさとのことがあったから、かずさとのことを振り切りたくなったから、雪菜を求める春希。そんなんだったら最初からかずさに希望なんて抱かせてやるなよとぶん殴ってやりたくなりますが、突き放すこともできず、情欲に任せるまま溺れることもできず、ままならない感情、これこそが今作の描こうとしているところなのだと思います。独占欲むき出しの雪菜も、かずさと過ごしていたことを塗りつぶすために雪菜を抱く春希も、お互いに言いたいことを抱えたままにただ求め合う。やっぱり、誠実さってなんだろうなあとか考えました。

 日本での初公演が、表面上を取り繕われただけのボロボロな結果に終わったかずさは、皆の前から姿を消してしまいます。春希は、そんなかずさを探して旧かずさ家を訪れ、再度かずさと向き合います。なんでコンサートに来なかったんだと泣きじゃくるかずさの姿はまさに子供そのものであり、これを見るだけでかずさの精神的な脆さを感じ取れる。

 最終章のシナリオは、このあたりから四つの展開に分岐していきます。便宜上、それぞれ雪菜シナリオは雪菜ノーマルと雪菜ハッピー、かずさシナリオもかずさノーマルとかずさハッピーに分けて感想を書いていきます。





 雪菜シナリオ。雪菜ノーマルは、共通パート後、春希からの愛を求めるかずさに対し、雪菜だけを愛していると拒絶し、そのまま終わってしまうEDです。いかにも毒にも薬にもならない普通の話であり、言っちゃなんだが一番平凡な内容でした。かずさがいなくなり3人じゃなくなった2人。かずさは追加公演もせずに日本から去り、家族公認で愛し合う関係になった2人は、順風満帆な人生を歩んでいく。しかし、春希はかずさのことを想ったまま雪菜を愛しており、二人の関係は何も解決していないことがよくわかります。雪菜はそのことに感づきつつも、決して追求しようとしない。かずさとの未練を引きずったままの、全くすっきりとしないEDです。だからか、あまり印象にも残りませんでした(終わったあと、雪菜ノーマルってどんな話だっけ?と思い出すことができず、プレイしなおしてしまった)。それでもまあ、雪菜からすれば悪くない結末でしょう。少なくとも、愛する人がずっとそばにいて、自分のことを見ていてくれるのですから。



 雪菜ハッピーは、過程はさておいても、恐らくこれ以上ないくらい雪菜にとって幸福な結末です。これが、今作を通して一番雰囲気がよくて、たぶん、一番ウケのよいEDでしょう。ただし、かずさから言わせれば、3人の平均を取ったからこそ生まれたEDだということを忘れてはいけません。望みの全てではなく、どこかを妥協した結末。この時この瞬間、我慢しているかずさがいるから成り立っている結末。どこかで間違いなく一人哀しんでいるかずさのことを思ってしまえば、心から感動することはできませんでした(だからといってかずさシナリオに感動したわけでもありませんが……)。

 シナリオは、かずさのコンサートから逃げ出してきた春希と雪菜の取る行動によって分岐していきます。このシナリオでは、二人はセックスに逃げず、話し合うことを選択します。春希は雪菜に、ずっと前からかずさと会っていたこと、そしてかずさをずっと側に置いて生活していたことを告白する。雪菜はそんな春希に対し、かずさをおいて逃げてきたことを叱咤して東京に送り返す。優しく受け入れるという安易な選択肢に逃げようとせず、傷つく道を選ぶ。ここがノーマルと大きく異なるところです。

 東京に戻った春希は、窓ガラスを割って手にケガを負ったかずさの面倒を見ることを決めます。これまでと同じようで、けれどどこか違う、半同棲生活を過ごす春希とかずさ。しかしそのまどろみのような生活は、かずさの母が白血病であることが発覚してから、簡単に崩れていってしまう。5年前のあの日から、ずっとかずさの支えになっていた、母の存在。自身の半分を失うことを知ったかずさは、ショックで春希の側を離れて、自分の殻にこもってしまいます。
 
 もう自分ではかずさを助けられないと悟った春希は、雪菜に助力を求める。ここから先はもう春希とヒロインの話ではなく、雪菜とかずさの過去を清算するための展開となっています。ホテルに引きこもるかずさに、雪菜は自身の感情をぶつけて心を開かせていく。以下、長文引用です。

「そうだね…確かに、違うかもしれないね」
「もし自分のお母さんが重い病気だって知ったら…お父さんと、孝宏と…みんなで大泣きするだろうな」
「泣きながら夜通し話し合って、けど何も決められなくて、なのにお母さんの病室に行くと、みんな笑うんだ。真っ赤な目をして、けれど、必死に笑うんだと思う」
「病気のこと、とっくにバレてるのに、誰もがそんなことわかってるのに、それでもかずさの言う『家族』を演じるんだと思う」
「そしてもし、もしもその日がきてしまったら…きっと、かずさと同じように、世界の終わりが来たみたいな気持ちになると思う」


 これははったりやその場しのぎではなく、雪菜という女性にそういう現実が訪れた時はきっとそうするのであろうという現実的な推測です。でも、実際に雪菜にそんな日が訪れることはないし、またかずさのように一人きりで思い悩むこともない。雪菜は誰かに守られ、支えられ、助けられる。彼女がたった一人になって、世界の終わりが来たみたいな気持ちになって、孤独に嘆き悲しみ暮れる日は来ない。だからこれはあくまで仮定に過ぎず、かずさを説得するための方便だと言えます。

「悲しくて、悲しくて、いつまで泣いても涙が溢れて、だからもう、何も考えたくなくて」
「でもね、良くも悪くも、そこで終わりじゃないんだよ?」
「看取ってくれたお医者さんにちゃんとお礼を言って、葬儀屋さんと打ち合わせして、式場を押さえて、親戚みんなにお通夜とお葬式の日取りを連絡して」
「本当に辛いんだよ?何もしたくないんだよ?それでもわたしは、わたしたちは、人と触れ合わないわけにはいかない」
「けれどそれは、嫌なことばかりじゃない」
「そうやって人と話しているうちに、世界が壊れてしまいそうな悲しみが少しずつ癒えていくから」
「人と繋がっているうちに、ゆっくりと、世界が修復されていくから」


 臆面なく心の底からこう言えることが雪菜の強さであり魅力でもあります。いくら過酷な現実に傷ついても、疲弊しても、人との関わりを通じて立ち上がれる強さ。かずさにはなく、雪菜が自分の人生を通じて培ったもの。しかしその強さは時に自分を傷つける諸刃の剣になることもある。このシーンは、後々かずさシナリオにおける重要な布石になります。そのことについては後ほど触れるとして、彼女たちの感情のぶつかり合いはビンタ合戦を経て最高潮に。

 もしも序章において、かずさがなりふり構わなくなっていたとして。雪菜の気持ちを無視して、自分の感情を優先していたとして。その結果、春希とかずさが結ばれていたとして。それでその後何もかもが上手くいったのかと言われれば、そんなこともないんじゃないのと思うのですが、起こりえなかった未来のことは置いておいて。雪菜がかずさのため三人のためと謳いながらも、結局のところ自分のために行動しているのでは、ということが伺えるシーンです。雪菜は単純にかずさのために行動するのではなく、かずさを助けることで救われる春希がいることを前提に行動している。かずさのことを思っている気持ちがこれっぽっちもないとは言いませんが、雪菜と春希の未来のための行動であることは間違いないかと思います。昔だったらまだ少しは違っただろうに、もうあの時の三人とは違うんだということをわからせてくれる。もちろん、雪菜のその心理を否定するわけではありません。

「でも、でも…わたし、かずさに対して無関心じゃいられない。…好きと、ものすごく近いところにいるんだよ!」
「あきらめないよ、わたし…あきらめないから」


 互いの感情がぶつかりあう中で、雪菜も少しずつその本音を打ち明かしていく。雪菜のかずさへの感情は、あくまでも好きとは違うということ。彼女があきらめないのは、かずさとの関係でしょうか?まず先立つのは、春希との関係なんじゃないでしょうか。そして、今の雪菜にとっての三人とは、春希があってこそなのでは?果たして雪菜は、かずさあっての三人なのだと言えるのでしょうか。

「人の心は移ろうものなんだって…会って、想いを重ねない限り、色褪せてしまうものなんだって、思い知った」
「でも現実には、あたしの望みは何一つ叶わない。わかってたことだけど、永遠に知りたくなかった…っ」


 かずさはどこまでも子供で夢見がちです。彼女には現実を見つめる勇気が、現実を受け入れる能力が、全くといっていいほどに無い。かずさの空想の中での春希は、最終的にはなんだかんだで自分を最優先する存在だったでしょう。その春希像はけして間違っていないと思いますが、現実の春希の在り方は、かずさの理想像とは別物でした。きっとかずさは何もかも捨てて自分の下へ来て欲しかったのでしょう。より露骨に言えば、雪菜のことを捨ててでも。理想と現実の不一致を受け入れることすらかずさにとっては難しいことであり、現実が思い通りにいかないだけで彼女は自分の殻に閉じこもってしまいます。

「いなくなったなら呼び戻せばいい!世界が壊れたなら、もう一度作ればいいんだよ!」
「作り直せば、いいよ。あなたには、それができる。…神様から、そういう力を授かってる」


 これは雪菜にとって当たり前の価値観であり、だから雪菜はかずさにとって残酷な存在となります。一度作り上げたものが絶対ではないこと。唯一ではないこと。一度壊れたものでも、また作り直せるということ。今が絶対だと思って生きてる人にはとても厳しい生き方です。雪菜は諭すように続けます。かずさはこれまでも自分のピアノで世界を作り上げてきており、だからきっとまた同じことが出来るはずだということを。

 ここの雪菜はとても前向きで、誰にとっても良いことを言っています。言っているのですが、なにかこう…腑に落ちないというか。どうしても綺麗事を言っている感があるというか。自分の世界を自分の力で築き上げるということ、一度壊れてしまった自分の世界をまた新たに作り直すということ。それがどれだけのエネルギーを伴う行為なのか、今のかずさがそれを行うことがどれほど大変なのか、雪菜は自覚しているのかどうなのか。

 かずさは決して三人でいる世界がベストだと認めたわけではなく、雪菜に説得されたことで心から納得したわけでもないと思います。ただ、これほどにたくさんの想いを告白してしまったことで、かずさの中でもそれなりに気持ちの整理がついてしまったのでしょう。そして最後に「仲間はずれにされたくない」という気持ちを引きずり出されたことで、かずさの敗北は決まったのだと思います。また春希と雪菜の二人の関係に入り込んでしまう、ということが。

 二人の戦いに決着がついた後、雪菜は春希にかずさがピアノを弾くと決断したことを報告します。かずさが現実と向き合う覚悟を決め、これまで拘ってきた価値観と決別することで、この世界は再び穏やかさを取り戻していく。蟠りを打ち明け、表面上は昔と似たような関係に戻った3人は、時間を惜しんでアルバムの収録作業を行います。まるであの頃のように、しかし確実に異なる関係で。

 春希と雪菜とかずさ、二人と一人のそれぞれは、時々三人になって生きる未来を選びました。かずさにとってはかつて愛した存在が決して手に入らない関係ですが、春希と雪菜にとってはかずさの呪縛を振り切り二人で歩める唯一の未来です。それだけに、最後に雪菜から叩きつけられる春希への怨嗟は圧巻の一言。

「酷いよ、酷いよ…っ!わたし、ずっとギリギリだったんだよ!今にも折れてしまいそうだったんだよ!」
「あなたに甘えたかった!護ってもらいたかった!でも、そうしたらみんな壊れてしまいそうだった」
「手に届くものを掴んだら、大切なものを手放してしまいそうだった。だから、だから…すごく我慢したんだよ!」
「私が一番頑張ったんだよ!とっても辛い思いをしたんだよ!だからいいよね?幸せになってもいいよねぇっ!?」


 これらの台詞は、雪菜にとっての勝利宣言だと思います。これから先、春希が自分のことを見続けてくれると確信したからこそ溢れ出る言葉であり、雪菜と春希の関係が不安定なときには決して出てこない言葉ではないかと。こういうズルくてキタナいところを含め、雪菜って面倒くさいし重たいけど、可愛いやつよなあだと思えるかどうかが、このシナリオの全てでしょう。

 これは推測ですが、今作の設定は、ストーリー展開が異なったとしても、根本的な設定は共有されていると思われます。もしそうだとすれば、どのルートでもかずさはいつか親を亡くすことになり、最低でも春希達と和解しなければ一人きりになってしまうことになります。母を失い、日本にも帰れず、一人孤独に耐えて生活しなければならなくなる。だったらなんとかしてかずさを助けないと、かずさは不幸になってしまう。どうにかしてかずさを一人じゃないようにしなければならない。たとえばこの雪菜ハッピーのように。

 しかしだからといって、春希と雪菜がくっついて、かずさも日本に残るこのEDがかずさにとってハッピーエンドと言えるのかというと、そんなこともないと思います。雪菜と和解できたといっても、結局かずさはただ耐えているに過ぎません。春希が言うとおり、かずさにとっての3人は、雪菜にとっての3人とは意味が違いすぎます。だからかずさのことを主体にして考えると、このEDが完全なハッピーエンドだとは言えません。次善なのは間違いないですが、最善だとは言い切れないし、この先本当にかずさは幸せでいられるのかと問われれば、疑問が残ります。

 このEDを否定してばかりのようですが、このEDになってよかったと思えるところもあります。それは雪菜が春希と親の和解を目指そうとした点です。かずさシナリオでも他のヒロインとのシナリオでも、こういう結末は見られませんでした。たとえかずさのことがどうであれ、雪菜は春希の世界を広げようとしてくれる。そこがかずさとの一つの大きな差異なのかなと思います。また、もう一点悪くないと思えるところは、かずさがもう一つの帰るべき場所である母親の側にいられるということです。それがかずさの望みの全てなのかと言われれば、まずそんなことはないんですけど。





 最後に、かずさシナリオの感想。かずさシナリオはこれまでの流れを否定するような展開になっています。何せこのシナリオ、ノーマルとハッピー、どちらも圧倒的までに閉鎖的です。これまでに培われてきた人間関係、友情、愛情、それら全てを否定していくかのような物語になっています。クールでミステリアスな性格と見せかけておいて、実際は執念深くて嫉妬深く、嫌われようと振舞って本当に嫌われると悲しがり、すぐに剥がれ落ちるメッキを張り続けて虚勢を張る寂しがりやのヒロイン。雪菜とは違った意味でまた面倒くさい女と結ばれるためだけに、春希が色々なものを捨てていきます。

 かずさノーマルは春希とかずさがただひらすらセックスしてるだけです。社会との繋がりを重視していた雪菜シナリオとは真逆の展開を行きます。これが正しいとは到底思えないけれど、しかしこれがライターの言いたいことなんでしょうか。誰からも祝福されないかずさと春希の恋愛関係は、あらゆるものから迫害されていく。かずさと結ばれるということはこういうことだと、暗に言われている気分。私には彼らが自暴自棄になっているように見えて仕方ありあませんでしたが、全てを捨てたこの関係にどこかで喝采を挙げたくなる感情を持っていることも拭いきれず、微かに爽快感を覚えたことも否定しきれません。

 このエンドは雪菜ノーマルと同じ場面、失踪したかずさを追いかけた春希が、その場の情動に任せかずさを受け入れてしまうところから分岐していきます。そこからはただ肉欲に溺れる二人の関係が描かれる。かずさが日本からいなくなるまでの関係と言い聞かせながら互いを求め合う二人。しかし次第に春希はかずさに依存し、かずさは春希に依存し、さながら共依存のような状況に陥ってしまう。春希とかずさは、見ているこっちが虚しくなるくらい泥沼な関係を構築していく。

「顔が好みだったからだよ!一目惚れだよ」


 どういった性格が好きとか、どこかで助けてもらったからとか、そんなロマンティックな綺麗事ではなく、現実的で生々しいただそれだけの理由。この作品全てを通してみても断トツに素朴だと思うシーンです。実際のところ、現実の恋愛の大半の始まりがそうですよね。顔だってその人を表すパーツの一つなはずなのに、その割には顔が好きだと表立って公言することを避けられている。エロゲだと特にその傾向が強いと思います。努力で変えられない部分だから、そこだけを肯定されるのは納得いかないってことなのかもしれませんが、たまにこうやってなんのてらいもなく言われると小気味良い。

 シナリオ展開上で問題になってくるのは、春希が予想よりも弱くて強くなかったこと。雪菜との婚約が表沙汰にされることを契機にして物語は破局へと歩んでいく。春希はかずさとの関係を押し隠し、雪菜に嘘を吐き、雪菜を裏切ながら日常生活を送っていくことに、徐々に疲弊し壊れていってしまいます。春希にもっと雪菜を騙し通すくらいの図太さがあったならまた違った展開になったでしょう。しかし現実には春希は自身の仕事すらままならなくなり、職場に行くことにすら苦痛を感じ始め、ついには仮病を使ってまで仕事をサボり始める。やがて春希は全てから目を背け、かずさを連れて三人で旅行に行った思い出の場所へと向かいます。誰も自分達のことを知らない、誰も自分達のことを気にしない場所へ行く。そんな稚拙な動機で、現実から逃げ出してしまう。ずっとかずさと二人だけの世界を生きていく。そんな夢のようなことを半ば本気で考えながら。

「結婚しよう、俺たち。これからは、ずっと一緒にいるんだ」


 これから先、一人で生きていくために必要で、かけがえのない縁。かずさが思う「一緒」と春希が思う「一緒」には大きな隔たりがあります。春希をただの思い出として生きる決意をしているかずさと、現実的な判断をせずに夢だけを見てかずさと生きたいと願う春希の間には。

 ぐだぐだでぐずぐずの、どうしようもない関係に幕を引いたのはかずさでした。児戯のような永遠の愛を約束をし合った二人は、しかしその翌日にかずさが春希の元から去っていくことで崩壊していきます。数秒だって持たないはったりで春希を遠ざけようとするかずさに対し、子供のようにだだをこねるだけの春希。結局、このシナリオの春希は最後まで行動できていません。かずさが春希の幸せを思って身を引いただけです。いつも通りでいられなくなった春希のことを慮って。これから先、春希が普通の人生を歩んでいくことと、その場限りの幸せを天秤にかけて、前者が傾いただけです。最後の別れですら、自分の幸せではなく、愛する人の幸せを優先して、自分から手を離した。でも、かずさが強い女なわけがない。私の印象では、この作品の中でもっとも弱いのはかずさです。それも断トツで。心の中では弱音ばかりなのに、好きな人の前では必死で気丈なふりをして、平気なふりをして嘘をつく女。それがかずさです。かずさの願望は、ずっと春希と二人きりの世界に閉じこもっていることでしたが、それはこのシナリオでは叶いませんでした。かずさに与えられたのは、一時的な思い出だけです。

「わたしの強がりを、適当に流すな。額面通りに受け取るな。…泣きそうになるじゃないかよ」


 かずさを失ったことでかろうじて保っていた精神のバランスを壊し、自律神経を病んでしまった春希は、雪菜の力を借りながら少しずつ社会復帰していきます。ノーマルエンドの最後、雪菜が春希を抱きしめているシーンは、内心では勝ち誇ってるんだろうなあと感じさせられ、人には自分ではどうしようもできない感情があることを否応なく意識させられました。雪菜は、春希の心が離れていきそうになったら、何を使ってでも自分の側に繋ぎとめようとする。効果的に情に訴え、時には自分の肉体だって使う。そしてその気持ちを打ち明けたりはしない。かずさの心情は読者からすればお見通しなんですが、雪菜は時々隠そうとする。これも二人の違いだと思います。

 中途半端にかずさの存在を求めた春希に訪れた結末。プレイしている最中も、最後までこのような無責任が許されるとは思っていませんでしたが、かといってこんな終結になるとも思ってませんでした。どこかで責任を取らなければならないし、けじめをつける必要はあると思っていましたが、ここまでひどい展開になることを望んでいたわけではありませんでした。

 EDテーマの『心はいつもあなたのそばに』は、見事なまでにかずさの心情を歌っていて、聞いてるだけで切なくなります。体は近くになくても心は近くにそばにあるから大丈夫。『平気なふりをして隠している私の弱さ 打ち明けてあなたをなくすのなら 平気なままそばにいるわ』。たとえ今はそこになくても、過去が励みになれば生きられる人だっている。どうしようもないくらい切ない強がりだと思います。

「…想いの差なんかじゃない。気持ちの強さだけなら、負けない。負け惜しみだけど、これだけは譲れない」


 ここにきて千晶シナリオの台詞が思い返されます。二人の想いの量に差なんてあるのかどうか。差が無いのなら、どこで結論を出せばいいのか。いったい、正解なんてものはあるのかどうか。

 このシナリオではかずさが身を引いて物語が終わりますが、ただ忘れちゃいけないのは、春希もかずさも、かずさの母が白血病で先が長くないことを知らないということです。かずさの前提は、春希と別れた後、母親と二人で生きていくこと。だから、かずさハッピーでは、そこを踏まえたうえで物語が描かれていきます。二人しかいない大切な人のうち、一人を失ってしまうとわかった時、かずさはどうするのか。雪菜シナリオでは三人目に甘んじたかずさ。彼女が主体になったとき、物語はこんなにも姿を変えます。





 続いてかずさハッピー。この作品の集大成といえるシナリオ。かずさ派とか雪菜派とか関係なく、このシナリオと雪菜ハッピーとで好むシナリオが分かれそうな感じ。このシナリオは、かずさのために社会的な筋を通し、これまで培い積み上げてきたもの全てを捨ててかずさと結ばれる、という展開になっています。現実から目を背け、自分に嘘を吐き続けたノーマルエンドとは異なり、更に過酷な道を行く。あれでもう十分に重かったのに、二人が幸せになるためにはあれでは足りないと言わんばかりに。

 春希はたった一つの大切なものを手に入れるために、これまでの全てを――これまで育ってきた日本という環境すら捨てます。そこまですることで春希とかずさは結ばれることが許され、ようやくかずさは春希を手に入れることができます。が、当然それは彼ら以外誰も幸せにならない選択でもあります。ようやく掴み取ることができたはずの幸せな季節を否定するということ。このシナリオはそこから目をそらしません。

 かずさシナリオは、ノーマルを読んでいたときも含め、全てを捨てることで掴み取れるものもあるってことなのかなあ、ということを意識しながらやっていましたが、まさかここまでやるとは正直思ってませんでした。人情味溢れるキャラクター効果的に動かして読者にダメージを与えるって手法は、なかなかに斬新で、効果的だったと思います。普通人情味溢れる心優しいキャラは世界を優しく満たしてくれるものですが、逆に罪悪感を募らせ、しがらみを増すものに仕上げてくるとは。アットホームな世界観が、ここにきて逆の意味で心に響きます。読者に対する悪意としか思えないようなひでえシナリオです。春希が自ら居心地のよい世界を捨てたとき、ああ、春希はようやく罰を受けたのか……と呆然としてしまいました。なんだか自分も一緒に罰を受けた気がしました。ようやく訪れた破局であり、当然の末路といえるのに、何もすっきりとしない。全てを捨てて逃げるなんてことは許されないのだと、思い知らされた気がします。

 序盤のプロットは雪菜ノーマルと同じです。手に怪我を負ったかずさを助けるため、春希はかずさとの関係を半ば強引に継続していく。物語が変化していくのは、かずさノーマルと同じように、雪菜との婚約話が取り沙汰されてから。そう、このシナリオでは、春希は雪菜との婚約をなかったことにするため、これから先かずさと二人で生きていくためだけに、会社の同僚たち、周囲の友人たちと、雪菜の家族たち、そして何よりも雪菜本人に対して、釈明し、謝罪し、筋を通していくことになる。数え切れない人たちとの思い出、無数の繋がりを台無しにして。

 そして何よりかずさノーマルと大きく異なるのが、かずさと春希の関係に肉体関係を伴わないところ。実はこれが、このシナリオでグサっときた部分だったりします。多少不意打ち気味に。かずさに嘘の愛すら与えられず、雪菜との板ばさみで苦しむ春希が、プラトニックだから許せなんて馬鹿にしていると糾弾されたときは私も息が止まるくらい苦しかった。勝手にノーマルと比較して、これだったらまだ許されるのじゃないかと勝手に勘違いをしてしまっていたから。でもそれは雪菜にとってはもっと辛い話なのだと、肉体も心も繋がって、それでも二人の絆に敵わなかった雪菜の存在はいったいどうなるんだと弾劾されたとき、言葉がありませんでした。

 シナリオについて書いていきます。かずさに雪菜との婚約がバレてしまったその翌日、かずさは春希の側を去り、母親が白血病だという事実を知ってしまいます。そして雪菜ハッピーの時と同様に、自分の殻に閉じこもってしまう。

 雪菜ハッピーの時は雪菜にすがり、かずさの説得をお願いした春希ですが、しかし今回の春希には自分を助けてくれる雪菜がいません。そんな春希は、かつての思い出の場所を一人彷徨い歩きます。かつて通っていた大学では何でも自分のことをわかっていそうだった同期生との思い出を。かつて働いていた飲食店ではいつも不機嫌に元気付けてくれた後輩との思い出を。今も働いている会社ではかつて幾度も助けてくれた上司との思い出を。どこで生きていくか、誰と生きていくか、全て決心する勇気をもらうために。既に一度選んだ選択肢をもう一度選び直すために。春希は一人迷った末に決断を下し、一人閉じこもるかずさに会いに行きます。以下、長文引用。

「俺、さ…そんな最低なお前が好きだ。…世界で、一番好きだ」
「お前が幸せに生きてくれないと嫌なんだ」
「お前が幸せになるために…いや、お前が生きていくために、俺が必要だって言うのなら…」
「俺は、お前の側にいる。…たとえ、全てを捨てることになっても」


 かずさのことを散々駄目出ししておきながら、最後にはそんなダメなやつは俺がなんとかするしかないと言う春希。思えば春希のかずさへの想いは、3年前に雪菜から記事のことで責められた時から何も変わっていません。駄目で弱くてどうしようもないやつだなんていいながら、優しいまなざしで見守り最後には手を差し伸べる。あの頃から何も変わっていません。

 かずさが春希を繋ぎとめたバレンタインから2日後。雪菜と二人、有明で誕生日パーティをやり直す春希。不自然に生まれる空白を埋めようとせず、穏やかな一日を過ごす二人。でもそれは、必死に我慢を重ねた結果生まれた奇跡的な時間だっただけで……。春希の良心に訴えかけるように、穏やかに二人の思い出を、歴史を語る雪菜。雪菜の想いを察した春希は、回りくどいことは避けて一方的に別れを告げ、自身の身辺整理を進めていく。まずはこれまで生活してきたマンションから。学生時代の旧友と一緒に海外へ駆け落ち、なんて三流ラブロマンスみたいな話ですが、この物語がありきたりの話と違うのは、春希が日本を捨てて海外へ行くことになったからといって、全てを無責任に放り投げる展開にしなかったことです。きっちり春希にけじめをつけさせる。社会に根を下ろして生きることを否定させない。こんなかけがえの無い素晴らしいものを自分の意思で捨てて、かずさを掴み取るのだということから目を背けない。春希にとっての、大切なものとの決別が始まっていきます。

 アルバイト時代から世話になってきた会社へのけじめ。無断で辞めるのではなく辞表を提出したうえでの退社。春希にはどんな選択だって取れたし、それこそかずさノーマルのように全て投げ出したってよかったのに、それを選ばない。なんで辞める前に相談しなかったと上司から責められ、同僚からも奇異の目で見られ。何も得することなんてないのに。

 学生時代から長年連れ添ってきた友人達へのけじめ。ただ雪菜の味方だけをしてくれるならまだ楽だっただろうに、なぜか友人達は春希の弁護をしてくれる。春希を罵るのはただ雪菜のことを想っている朋だけ。ただのちょっとしたすれ違いなんだろと。また元通りになるんだろと。長く培ってきた友情を信じて、春希の味方をしてくれる友人たち。春希だってそんな未来を望んでいた。また何事もなかったように、ずっと一緒だったみんなへと戻ることを。しかし、春希はその未練の全てを叩き捨て、かずさと自分の間にあったことの全てを告白します。

 友人達から溢れてくる怨嗟の言葉。なぜ雪菜じゃなくてかずさなのか。その一点だけに答えを求めて、友人達は春希を罵る。体の相性がよかったのか、そんなに気持ちよかったのかとかずさのことまで侮辱され、かずさと寝てなんかいないと訴える春希。あいつはそんな女なんかじゃないと。必死でかずさを擁護する春希に、しかし向けられる視線はとても乾いている。

「……なにそれ、最低」
「寝てもいないのに、何もしていないのに、取り返しがつかなくなった訳でも、重いもの背負った訳でもないのに…」
「ただ、彼女を愛してるからって理由だけで、雪菜を、切り捨てるの…?」
「じゃあ、雪菜はなんだったの?心と身体の両方の繋がりを合わせても、彼女との心の絆に敵わないって言われたんだよ?」
「雪菜はなんだったの?そんなのが免罪符になるとでも思ってるの?春希…あんたどれだけ雪菜を見下してんのよ?」
「これだけ周囲をボロボロに壊して、自分たちはプラトニックですって…」
「最低の純愛だね。吐き気がする」
「いいよ、もう…二人しかいない世界で、仲良くおままごとやってりゃいいじゃん」
「どれだけ周囲を不幸にしてもさ…純粋な二人にはお互いのことしか見えないからいいよね」
「かずさはさ…ずっと色々あって、こんなに有名になっても一人ぼっちで…だから俺が…俺しか」
「雪菜は色々ないからいいんだ?一人ぼっちじゃないから捨ててもいいんだ?」
「そんなこと言ってないだろぉ!」
「言ってるよ春希…雪菜は自分がいなくても一人じゃないから、可哀想じゃないから捨ててもいいって、言ってるよ…」


 予想していた反応とは違う反応を返され、思っていたのとは違う破局に苦しむ春希。それでも、春希はかずさを選ぶため、全てを切り捨てていきます。かずさとの幸せのために、二度と出会えないかもしれない親友の存在すら捨てていく。かずさを手に入れるためだけに、それほどの犠牲を払わなければならない。今までの居心地がいい世界なんて許されない。

 もう十分に傷ついたと思える春希に、さらに追い討ちをかけるような電話がかかってきます。友人達との決別を経て疲弊しきった春希には、失ったものを嘆く時間も与えられない。筋を通そうとするなら避けられない、雪菜との家族へのけじめ。雪菜との、婚約について。これは家と家の話です、本来なら。でも春希を護ってくれる人はいない。春希に家族と呼べる人はいない。自分を助けてくれるような人はもういない。だから春希は自分でなんとかするしかない。

 雪菜不在の小木曽家で雪菜の両親との話が始まる。雪菜との婚約について。一度、明確に将来のことを申し込んだこと。結婚を前提にした約束をしたこと。確かな愛情があったこと。それら全部が嘘ではなく、誠に存在していたこと。そのことを肯定したうえで、春希はプロボーズを撤回する。雪菜とは結婚できなくなったと。他に好きな女性ができたから、もう付き合うことはできないと。積み重ねてきた信頼を裏切っていく。雪菜への愛を裏切った結果。愛する女についていき、ウィーンへ行くことも告げる。ズルをせずに全てを伝える。そして去り際、全ての話を聞いていた弟に殴られ、完全な破局を迎えます。

「三人でいいよ」
「ううん、三人がいいんだよ。だから、何も終わってないんだよ、わたしたち…」
「そうだよ…だって、それこそが、わたしが昔から望んでいたことだもの」
「春希くんと、かずさと、わたしの三人に戻ろう?あの学園祭の…祭りの前の日に、戻ろうよぉ?」


 殴られてケガをした春希を追いかけてきた雪菜は公園で春希の手当てをします。これまでのことをまるでなかったかのようにして。雪菜はすぐに嘘とわかる言葉で取り繕ってでも春希とかずさの関係にぶら下がろうとしますが、しかしそんな都合のいい選択が認められるわけもなく、春希は淡々とかずさと一緒にウィーンへ行くことを告げます。そのことにショックを受けながらも、それについていくと主張する雪菜。これからもずっと一緒にいると、足手まといにならないようにするからと。春希とかずさに譲歩してまで一緒にいようとする雪菜を突き放し、決定的な別れを告げて、春希は雪菜の元を去っていきます。この別れの言葉が、作品全体における三人の関係を総括しています。

違う、違うんだ、雪菜…
かずさだって、まだ雪菜のことが好きだ。ずっと、好きなままでいたんだ。
でも…違うんだ。雪菜の『三人』と、かずさの『三人』は違うんだ。
雪菜の求める『三人』には、周りに広い世界がある。
自分たちを取り囲む暖かさや、優しさや…時には厳しさにみんなで触れながら、大きく広く、正しく生きていく、そんな生き方だ。
でもかずさは、違うんだ…
5年間、どれだけ世界を広げようとしても駄目だった。曜子さんと、そして思い出の中にしか居場所を見つけられなかった。
ピアノはかずさを広い世界に知らしめた。けれどピアノは、広い世界をかずさに与えられなかった。…かずさが、拒絶したから。
雪菜が樹木なら、かずさは浮き草だ。地面に根を張って強く生きていくことはできないんだ。
地面と、世界と隔絶したところで、水から少しずつ栄養をもらって生きていくしかないんだ。
「俺だけ、なんだ。あいつに必要なの、俺だけ、なんだよ」
好きか嫌いかじゃない。
今まで広い世界と触れあって生きてきたけれど、別に、世界(おや)と触れあわずに生きていられる俺だけが、浮き草の水(かずさのせかい)になれるって…ただそれだけ。


 これまで自分が作ってきたものを清算し、あとはかずさの追加公演を終えてウィーンへ旅立つだけ、という状況の中、春希は自分の仕出かしたことを後悔しながら、今まで踏みにじってきたもののためにも、必ず幸せになることを決意する。実際春希はよくやった方だと思います。その行動の可否はともかく、けじめだけは貫き通した。ただの自己陶酔だとしても、ただの自己満足に過ぎなかったにしても、無言で逃げることだけはしなかった。そこだけは認めてあげていいと思います。ただし、この物語はここでは終わりません。もっと先が用意されています。

 追加公演の前日、雪菜とかずさは春希のいない場所で再会します。雪菜ハッピーでは足繁くかずさの元に通った雪菜ですが、このシナリオではその逆を行き、かずさが雪菜の元を訪れる展開になっている。基本的に、雪菜ハッピーとかずさハッピーは対偶関係にあり、それぞれのシナリオは平行線上に位置していることが伺えます。

「三人でね…三人でいればいいの。これからも、ずっと」
「だから、謝ってもらうことなんかない。だって、みんな一緒に幸せになるんだから…」
「…無理だよ、雪菜。それこそ、ただの夢だ」
「どうして…?昔はできてたのに、なんで…」
「何言ってんだよ…昔から、全然できてなんかいなかったよ」
「三人でいることに耐えられなかったんだよ、あたし。だから、逃げ出したんじゃないか」
「全部、あたしの独占欲がいけないんだ…」
「三人でいることがどれだけ楽しくても、気がついたら雪菜を妬んでるんだ。憎んでるんだよ、あたし」
「雪菜のことをどれだけ好きになっても、雪菜と一緒にいる…春希と愛しあってる雪菜は、絶対に許せないんだよ…」


 愛する人を奪ってごめんと謝罪するかずさに、どこか夢見心地で答える雪菜。ここで改めて、序章における三人の関係について言及します。あの関係がどれだけ歪だったか。かずさが心から望んでいたものではなく、春希の類まれなる鈍感さと、雪菜の願望によって成り立っていたものだということについて。

 本当なら話はこのまま平行線で決裂してしまうはずでしたが、雪菜は壊れたふりをして同じ話を繰り返そうとします。私はここでの雪菜が理性を持ってやっていると確信しています。会社から大きな仕事を任されなくなったという話は本当でしょうが、しかしこれはかずさを折るための行動なのだと思ってます。

 雪菜を裏切ることで、春希が苦しみ、かずさ自身も苦しむことを認めたうえで、それでも春希を諦めないと告げるかずさ。平行線だし、話しても忘れちゃうし、何も解決しないし、話しても無駄だから帰ったら?と提案するのは他でもない雪菜です。それでもかずさは雪菜に告白を続けます。たとえ自己満足なのだとしても。

「あたしの憧れだった強い雪菜が、あたしのせいで、その強さを失ってしまうなら…」
「あたし、代償を払う。…ピアノ、あげるよ」
「…そんなの、何の意味もない」
「ああ、そうだな。単なるあたしの自己満足だ」
「家事なんか何もできないけど、そもそも、人の役に立つこと何もしないけど」
「あたしが雪菜にしたことに比べれば、全然足りないのはわかってるけどさ…」
「でもあたしにはピアノしかないから。他には何も持ってない駄目な女だから…」
「だから…ピアノを捨てるくらいしかないんだ。ごめんね、雪菜」


 雪菜とかずさの大きく異なるところです。誰かのために取る行動の理由が違いすぎます。かずさは相応の覚悟を決めて雪菜に会いに来ました。ただ償うためだけに、一番大切なものを差し出そうとする。簡単に己の大切なものを手放そうとする。雪菜ハッピーのときの雪菜は違います。あの時の雪菜は、自分のためとはいえ、かずさを説得するために動いていました。端から諦めているかずさとは全然違います。ここがかずさの決定的なまでの脆弱さだと思います。繰り返し相手を説得しようと思わない根気のなさ。自分が傷つくことで相手の溜飲を下げさせようとしかできない幼すぎる発想力。それが誠意だと思ってしまう人生経験のなさが虚しい。

 薄っぺらなりに意を決し、ガラスで自分の指を切り刻もうとしたかずさを、しかし雪菜は止めてしまいます。雪菜に自分なりの精一杯を見せることもできず、むしろ助けられてしまったかずさは、失意のまま雪菜と別れ、追加公演当日を迎える。これが雪菜と春希の最後の対話シーンです。春希は本番直前になって雪菜が行方不明になってしまったことを知らされます。やっと幸せになれる、これで順風満帆な道を歩んでいける、全てに清算をつけたと思われた二人に、最後の試練が立ち塞がります。

 かずさのコンサートを放り投げて春希は夜の街を走り回る。まるで序章の終盤、かずさを求めて走り回っていた時のように、無心になって。それでも雪菜は見つからない。そこで春希は、雪菜の家族を尋ね捜索願を出させるという反則じみた手段を取ります。春希は相手の良心を利用するずるいやり方だとわかっていながら雪菜にメールする。そんな想いを知ってか否か、雪菜はそんな春希たちに心折れ、家族に無事を知らせます。

 雪菜からの足取りを掴んだ春希は、ようやく雪菜と再会する。それは、二人の関係が終わりを迎えた場所でした。目の前の春希を眺め、うわ言のように意味深なことを呟く雪菜。「逃げた意味、無かったなあ」「ほんと、台無し」「いっつも裏目に出ちゃう」「わざと考えなかったんだよね」。雪菜が一体何を言っているのか、春希が気づくこともなく、話は進んでいきます。

「五年だよ…?」
「三年間、ずっとあなたとすれ違って、二年間、ずっとあなたと触れあってきたんだよ?」
「嬉しいことも、悲しいもこと、ずっとあなたと二人で積み上げてきたんだよ?」
「もう、心も体も絡まっちゃって、今さら剥がせないよ」
「無理やり引き剥がしたら、それはもう、小木曽雪菜じゃないよぅ」
「あなたは…無理矢理引き剥がしても、それは、北原春希って言えるの…?」
「自分を、保てるの?」
「わたし、そんなにあなたに影響を与えられてなかった?そんなに…あなたと絡み合うことはできなかったの!?」


 これくらいの恨み言は黙って受け止めないといけないでしょうし、事実春希は黙り込んでしまいますが、しかし雪菜はそんな黙り込む春希を見て、泣き止んでしまいます。

「わたし、あなたに言ったよね?日本を捨てるって、二人についていくって。それが、できるって…」
「でも、嘘だった、それ。わたしは、小木曽家の子供であることをやめられない。日本人でいることもやめられない」


 雪菜はあくまで生まれ育ったところに根付いているということ。浮き草のようなかずさとは違うということ。その現実が、自分の自身の行動によって突きつけられます。雪菜ハッピーで自分が言ったことを証明するように、自らにつけられた傷が、他者の存在によって治癒されていく。それが雪菜にとっての現実であり、限界でもありました。

「わたし、最後の最後で壊れ切れなかった…あなただけに、こだわりきれなかった…」
「こんなにも悲しいのに、こんなにも心が引き裂かれてるのに…」
「でも、考えちゃったんだ…お父さんもお母さんも孝宏も、心配してるだろうなって」
「依緒や武也くんや朋、探してるんだろうなって。会社の人たち、連絡取れなくて困ってるんだろうなって」
「そういうこと、考えちゃったんだ…」
「もう何もかもどうでもいいやって、投げ出すことができなかったんだ……」


 このシーンが雪菜ハッピーのかずさと雪菜の対話への答えとなっています。雪菜はシナリオを越えて、かずさの説得に使った材料を実践しています。

 このシナリオでは、三人の平均を取りませんでした。平均を取らなかったから、三人全員が幸せな未来はあり得ない。平均って何なのかといえば、幸せの平均です。これは雪菜ハッピーの話ですが、かずさとは違って、家族がいて、春希もいて、幸せを独り占めしている状態なのにも関わらず、そのことをかずさに指摘されても、一切言い訳しないでただ泣いている雪菜はずるいんです。あれは確かに残酷な台詞ですし、雪菜を傷つけるために用意された言葉ですが、このときの雪菜は傷ついてるから泣いてるわけではないと思います。反論の余地がないからです。全てが雪菜が悪いってわけじゃありません。特に環境については、かずさは自分が努力してこなかったから一人なわけで、こればかりは完全なる八つ当たりです。しかし、そこから更にかずさも側にいるよう求めるのは、雪菜のわがままです。序章の感想でも書きましたが、雪菜は既に十分幸せなのに、さらに幸せになるためにかずさの不幸を強いています。

 家庭環境の違いは本人にはどうしようもありませんが、かずさと雪菜の大きな違いはここということになります。とても残酷なことに。具体的にいえば、雪菜を守ろうとする世界の住人こそが、雪菜とかずさの二人を分かつものです。『みんな』にとっての中心の雪菜と、『みんな』の中に加えてもらう立場のかずさ。何も持っていないが故に春希しかいないかずさと、満たされているが故に全てを捨てられない雪菜。極端なことを言ってしまえば、雪菜には春希がいなくても誰かがいるし、かずさには春希がいなくなったら何も無くなってしまう。雪菜には春希がいなくてもきっと大丈夫。ですので、依緒の指摘はとても確信を突いていると言えます。これは雪菜にとって理不尽極まりない事実でしょう。だって、この構図が出来上がったのは雪菜が悪いからではなく、むしろ雪菜が努力したからこそ、この世界を手に入れることができたわけです。雪菜が普段から人の繋がりを大事にしてきたからこそ、この宝物を手に入れることができたわけです。その理不尽に気付いたからこそ、雪菜は一度全てを投げ出したくなったのだと思います。自分を優しく包み、優しく守ってくれる世界を。これまで培ってきたもの全てが自分を縛り煩わしく感じさせるなんて、絶望でしかなかったでしょう。

 かずさにとっては唯一無二なのに、雪菜にとっては大事だけど、唯一じゃないということ。つまり――あなたがいなければ死んでしまう、側にいてくれなきゃ死ぬ。これくらいの強引さをもてるかどうかというただ一点の違い。それが正しい考えだと思ってるわけじゃないです、念のため。でもきっと、雪菜の頭にはそういう選択肢はなかったのだろうなあと思うわけです。なりふり構わぬ覚悟までは持つことができない。雪菜はかずさのように、ヤケになりきることができません。

「なんなの、なんなんだろう、わたし…」
「駄目だった。あなたに捨てられても、世界と自分を切り離せなかった」
「だから、かずさに勝てなかった。春希くんのために、平気で全てを捨てられるかずさを超えられなかった」
「やっぱり、かずさより本気じゃなかったんだ…あなたのこと、そんなでもなかったんだよ…っ」


 それは果たして勝利と言えるのでしょうか。相手のために捨てられることが、想いの強さに繋がるのでしょうか。春希は否定したくて、否定の言葉を思い浮かべては、心にしまいこんでいきます。社会的な生き方として間違っているのはかずさの方です。どう贔屓目に見ても雪菜の生き方の方が健全だし、受け入れられやすい。でもそんな慰めが、雪菜にとって何の救いになるというのか。

 二人の距離が絶対的なものとなり、やがて対話の時間も終わります。何度も酷い真似をしてごめんと、かずさとのコンサートを邪魔したことを謝る雪菜。きっとこれが雪菜にとって最後の悪あがきだったのだと思いますが、しかし春希は謝る必要はないと告げる。あいつは今、間違いなく最高の演奏をしているから心配する必要なんてない、と。

 ここで昨夜のシーンが回想されます。今度こそ私の演奏を聞いてくれと、これからもずっと見守っていてくれと春希に寄りかかるかずさですが、春希は素直にわかった、絶対傍にいるからとは言ってくれない。春希がずっと側にいることを誓ってくれず、不安がるかずさに春希は言います。もしも自分がかずさの傍にいられない時が訪れても、それはかずさのために最良の選択を取ったからであり、だからもしも黙って姿を消したとしても心配をするなと。いい加減、自分のことを信じろと。どの口がそんなことを言うのかとも思いますが、確かに現実的に考えて肉体の繋がりには限界があります。かずさがケガをしたり、春希が病気になったりしたら?その度に二人は揺るがなくてはならないのか。それではいくらなんでも脆すぎます。

「本当は、本当はさ…もっと違う、一番幸せな道、あったんだよ」
「教会の祭壇で雪菜が泣いてて、春希が照れてて、そしてあたしが、祝いのオルガンを弾く」
「そんな未来が、三人にとって一番幸せだったんだ。……三人の平均を取れば、だけどな」


 雪菜ハッピーシナリオは確かに存在し、それを捨ててこの結末を選んだことへの示唆。これは確信を持っていえるわけではないのですが、ふとかずさシナリオラストの展開は、パルフェの里伽子シナリオのテーマと反しているのではないかと思いました。

 さておき、かずさのコンサートは雪菜の心配なんてどこ吹く風で大成功に終わります。もはや二人の間に生じる物理的な距離は、大した問題にならないということを残酷なまでに見せ付けます。ちなみにそれぞれの演奏については、雪菜ハッピーの時は『世間的に有名なかずさの母が演奏して、年に1回か2回あるかどうかの反応』で、かずさノーマルの時は『数年に一度レベルの、伝説の名演奏と呼ばれるかもしれない演奏』で、かずさハッピーの時が『かずさの母の凱旋公演以来の熱狂的な反応』とされている。どれがどれほど凄いのかはわかりませんけど、こうやって並べてみればかずさハッピーの演奏が一番よかったのではないかと想像できます。

「大丈夫…もう、大丈夫なんだよ、わたし。…だって、みんながいるもの」
「家族も、友達も、会社の人達も…みんな、わたしを支えてくれる、護ってくれる」
「だから、たとえどんな大きな傷だって、いつか塞がるよ」


 そんな雪菜の強がりを胸に、春希は雪菜から離れていく。雪菜が最後に胸に隠した想いに気づかぬままに。けして二人の想いが、どちらかが勝っていて、どちらかが劣っているというわけではないことを、如実に示しながら。

 そして春希とかずさは、日本から旅立っていきます。永遠に帰国するつもりのない二人の門出を祝福するものは、当然ながら誰もいない。

 飛行機から最後の日本を眺める春希は、ギターを忘れてきたことに気付く。これは雪菜との日常の象徴であり、これから先、幾度も沈むであろう後悔に浸る春希を、かずさは不器用なりに護ろうとします。この台詞があったことで、多少は春希も救われたのではないかな、と思います。かずさのいうその世界が、数え切れない犠牲のうえに成り立つ、極めて狭い世界なのだとしても。

「そうさ、あたし今、世界一幸せだ…」
「みんなを不幸にして手に入れた幸せだけど、それでも、心の底から浸ってる」
「なぁ、春希…」
「あたしの今の悲しみや、辛さや、後ろめたさは、どんな嬉しさや、楽しさや、前向きな気持ちでも絶対に和らげることはできない」
「けど、けどね、それはね…」
「今のこの幸福感は、どんな悲しみや、辛さや、後ろめたさでも絶対に消すことはできないってことなんだよ」
「幸せだ、あたし幸せだよ、春希」
「やっと、お前の胸の中に帰ってこれたことが。お前があたしのもとに帰ってきてくれたことが」
「それが、こんなにも…この世に生を受けてから、一番幸せなんだよ」


 
 エピローグ。もはや語るべきこともあまりありませんし、最後の意味深なシーンへの個人的な見解を書いて終わりにします。ここは意見が分かれるところだと思います。決定的なネタバレになるので伏せておきますが、、おそらくこれは、事故で身体に障害を負った雪菜のリハビリシーンなのではないかと思います。28日の夜、雪菜が交通事故にあった描写がされています。にも関わらず、不気味なくらいそれに対するフォローが一切ありません。ギターだけはかずさに渡さず、雪菜に捧げた春希。穿ちすぎなのかもしれませんが、この映像は、春希のギターをエネルギーに、2年かけてリハビリした結果を録画したものなのではないでしょうか。歌を練習してかずさと春希を追おうとしている――というのが一番前向きな見方なのだと思いますが、私個人としては、家族や友人を捨てられなかった雪菜が、また二人のところへ行こうとするとは、あまり考えられないのです。もちろんそうであればいいとは思いますが、あまり明るい結末ではないのではないか……、というのが私が今作から得た実感です。いや、もしかしたら、真実はもっと酷いものなのかもしれないとすら思っている。かずさの母に届いた手紙。あれの中身は、いったいなんだったんでしょうか。『家族の大事な日』『母親はいつでも子の責任を負うべきもの』『最近じゃ、いっつもあたしと武也の二人きりだもんな』『雪菜のためだけの日、だもんな』『あなたちにとって、いずれは受け止めなければならないことだから』『覚悟して、確かめなさい』。POWDER SNOWの弾き語りとともに見せ付けられる雪菜の姿。ミスリードだと思うし、考えたくもないし、絶対に違うと思いたいけど、下手すれば、あれは、ひょっとして、もしかすると……これは、雪菜の命日であることを示しているのではないか?とすら思っています。ネタバレ終わり。全て妄想ですので、外れていればそれに越したことはありません。





 この作品をやってて一番ひどいと思ったのは、closing chapterでの12/31の選択肢で『コンサートに行く』という選択肢があるのに、どうやっても選べないところです。あそこにはかずさがいるってわかってるのに、会いに行けばきっと何かが変わったはずなのに、決して行くことができない。逃げたかずさと追わなかった春希には、これくらいの罰がないといけないってことのかもしれませんが、こればかりはライターを恨みたくなりました。

 (一応CGも音楽もコンプしたので、読み逃しているってことはないと思うんですが……、もしも私が見逃しているだけだったら、すみません)





 おまけのデジタルノベルについて。
 『雪が解け、そして雪が降るまで』はかずさ視点から語られる高校生時代の物語で、『歌を忘れた偶像』は雪菜視点で語られる序章と終章にありながらも本編では語らなかった物語です。両方とも本編を保管する内容となっています。前者は有体に言ってしまえば高校時代のかずさの春希への想いを語ったシナリオであり、つまりここまでくれば既にわかりきっていることを描いているため、そこまで目新しい展開ではなかったかな。ま、二人の馴れ初めを聞かされてると思えばニヤニヤできましたし、おまけとしてはふさわしいものだったかと。後者は大学生に成りたての春希と雪菜の、物理的には近い、けれども心理的には遠い距離感を描いたシナリオです。雪菜の面倒くささが余すことなく書かれており、怨嗟の声を聞く度に読んでて苦しくなりました。また、雪菜が届かない恋に対して抱いていた気持ちが垣間見えるシーンもあります。










 シナリオ全体を通しての雑感と個人的な見解等。あまり前後の文章に脈絡がないです。

 プレイ時間は、終章の共通パートが4~5時間、個別ルートが5~6時間。最終章のプレイ時間がおよそ20~25時間(最終章はプレイ時間を計測していなかったのでかなりあいまいです……)。序章と終章をあわせると、通算プレイ時間はだいたい50~60時間だったと思います。まともにボイスをきいてたら余裕で70時間をオーバーするんじゃないでしょうか。改めて思いますが、化け物じみたボリュームです。

 今作品は、どうしようもなく人を愛してしまうことを執拗に描いた作品です。ぐずぐずとした愛情の物語であり、生々しいくらいに肉体の物語でもありました。現実志向のフィクション作品としては最高峰。精神性の高尚さとか、心と心で愛することの神聖さとか、そういうものだけではなく、人が求め合い、繋がり合うことの重要さもきちんと描写しています。セックスに関する描写も当たり障りのないものではなく、生々しいものばかりで、今作に欠かせないものになっていました。それは永遠でなく真実でなくただそこにあるだけの想い。『それでも誰かを好きになる』は天使のいない 12月のBGMですが、今作で流れていてもぴったりだったのではないかと思います(もちろん、根本にあるテーマは全く異なります)。しかし、性描写に力を入れている反面、天いなもそうだったんですが、一切抜きには使用しませんでした。見ていて(背徳感やらなにやらで)グッとくるし興奮はするんですが、いやらしい気持ちには全くならなかった。というか、そういう意味では萎えます。雪菜と繋がっているシーンではかずさのことが、かずさと繋がっているシーンでは雪菜のことが、ずっと頭から離れないから。

 FDは、もしも発売すれば確実に購入すると思います。思いますが、できれば出て欲しくない、という気持ちのほうが強い。作ろうと思えば後日談やらなにやらいくらでも追加できるでしょうし、見たいと思うエピソードもありますし、自分の思い描いたものを否定して欲しいって気持ちもありますが、この物語はこれで完成していると思いますし、無理に付け加えないでほしいとも思う。Leafってシナリオ重視の作品にはFDを作らないスタンスのメーカーだと思いますので、これほどに完成度の高いシナリオであればFDは出さないのではないかと思いますが……やっぱりこれだけ反響があれば製作するのかなあ。そうなれば少し悔しいけど、間違いなく買います。
 
 作品全体を読むにあたっての難易度は低め。ライターが意図的にわかりやすく、読みやすくしてくれているので。なにせ、登場人物は適度にプレイヤーに向かって真情を吐露してくれます。この作品に他人称がなかったら、意図的な心情吐露が、プレイヤーへの露骨な情報提供がなかったら、どれくらい複雑で読み解くことが難解な物語になったか、わかったものじゃないと思います。そういう作品もたまにはみたいと思いますが、今作はそういう難解さを採らず、プレイヤーの読みやすさを優先した作りになっている。その代わりにこの部分がリアリティの欠如にも繋がっているため一長一短でもあります。私は許容範囲だと思いますが、このわざとらしさが鼻につく人も多数いると思います。

 この物語は結局何がいけなかったのか。単純に誰が悪いと言い切ることはできませんが、あえていうなら5:3:2くらいでしょうか。割振がそれぞれ誰なのかはご想像にお任せします。感情論で全て男が悪いって意見もアリだと思いますし、いやいや女が悪いんだよという逆フェミニスト発言もアリだと思います。実際はそんな簡単に数値化できるものでもないかなと思いますが、なんとなく思い浮かんだので書き残しておきます。世界で一番NGな恋は、今までの丸戸作品中、最も私の価値観と相容れない作品でしたが、こうして時間が経ってみると、あれはあれでよかったのかな、なんて思いました。

 最初から触れ合わなければ、人と深く関わらなければ、こんなことにはならないはずなのに。限りなく一人で生きていく、という選択肢もなくはないんじゃないかなあと思いますが、シナリオ全体でそういう展開はなかった。作品テーマとはそぐわないでしょうし、そんな現実と極めて近しい展開、誰が見たいんだという声はありそうですが、あればこの作品の評価はもっとあがったかもしれない。そう思ってしまうのは私が独り身だからでしょう。でもまあやっぱり、傷ついても、傷つけられても、人は人を求め合う、というテーマの方がしっくりきます。どんなに相手を傷つけるとわかっていても、触れ合わずにいられない。そういったどうしようもない衝動。

 丸戸作品の主人公像って、昔は結構理想的に感じていました。こういうやつならヒロインに好かれるのも当たり前だろうなあと。でも、今ではあまりそう思いません。もう一歩進んで、それだけじゃダメなんじゃないか、とも思うようになりました。主人公が与えるだけじゃダメだろうと。一方が与えるだけの関係では虚しいと。丸戸作品の主人公全てがそうとは言いませんが、少なくとも今作で春希が取っている態度って、女側から見れば非常に傲慢ですよね。相手には優しくするし、理解しようと接しているのに、俺のことは理解しなくていい、助けなくていい、ときている。相手の優しさを拒否しているに等しい行為です。相手を信頼していないが故の行動だと思います。

 相手を理解するために相手を尊重するという在り方は、もちろんある側面では正しいのですが、しかし絶対的な正解だとは限りません。相手の言うことだけを聞くのがいつも正解だとは思えません。時には鬱陶しがられても、迷惑に思われても、嫌われても、傷つけても、相手に踏み込み、状況を判断し、決断し、実行することができなければ、本当にわかり合うことなんてできやしない。実は、相手の話を聞くだけ聞いて、表面上だけ頷いているのは、それだけでそこそこいい気分になれます。だって自分は相手のよき理解者だって思っていられるから。でもそれじゃあ、どんなに辛いときでも私は一人で大丈夫という人を助けることができない。全ての責任を自分で負おうとする人を助けることは決してできない。

 春希は周囲に自分のことを相談しない人間として描写されています。現在進行形のことについては特に。結果については報告するものの、今迷っていて、困っていることは、ほとんど自分で結論を出している。そのうえで、後悔して、懺悔している。なんて自分勝手なやつだと思います。ただし、こんな彼が最低最悪の糞野郎かというと、そんなわけでもないと思うんです。どこがといえば、自分の決断をあくまで自分自身の責任から生じたものと認めている点です。失敗しても、間違っても、他人のせいにはしない(してないよね?)。自信満々に間違っているという表現はなかなか的確。子供で、稚拙で、幼稚な男。でもきっと、だからこそ心惹かれるのだと思います。いつでも正しい選択をして、いつでも合理的な判断を下すなら機械でもいい。

 何度か書いてますが、雪菜は計算高い、理性的な女です。最終章での彼女の病んだ描写は半分くらいが演技で理性を保ったままあの行動を選んだのだと思います。だというのに、いざという時には理性ではなく情動に従って行動するという矛盾に溢れた性格をしている。どちらかというと、表舞台に出てこないで、恨み妬み嫉みを抱えこんでいた方が映える悲劇系ヒロインであり、誰よりも助演女優賞がふさわしいと思えるキャラでした。悲劇に苛まれ、不幸に付き纏われ、全てが空回れば空回るほど彼女は煌いていく。たとえば小春シナリオなら『あなただけには、もう癒すことができない』という嫉妬と恨み言100%の台詞がキてましたし、千春シナリオなら『これからは春希くんは側にいないんだもの、優しくされたら困るんだよね』と執念深さ丸出しで春希に罪悪感を背負わせようとする台詞が雪菜の面倒くささを表現できてて素晴らしかった。春希が別れ話を切り出した時の『雪菜といるよりも、辛くないんだ…』という台詞も最低でよろしい。麻里シナリオは『私は、やっぱりあなたを照らす光になれなかった。あなたに当たるべき光を遮る存在でしかない』という呪いのような独白が最高。

 本筋の感想では意図的に存在を省いてますが、武也も依緒もいいサブキャラでした。特に武也の存在は大きかった。男のサブキャラで、その世界に欠かせない、むしろいてほしいと思えるキャラは本当に珍しい。時にプレイヤーの言いたいことを代弁してくれたり、時に春希のことを助けてくれたりと、大活躍です。彼がいなかったらこの物語はもっと酷いものになっていたと思います。

 以上、雑感終わり。





 BGMについて。どれも印象的な曲ばかりで気に入っています。 LeafのBGM作曲陣は相変わらずいい仕事してます。クリアしてから、ふとした時にメロディーが浮かんでくるような曲が非常に多い。 introductory chapterで特に気に入ったのは『氷の刃』『あの頃のように』『言葉にできない想い』『綺麗で儚いもの』の4つ。『氷の刃』は聞いてるだけで陰鬱な気分になれる名曲です。重低音のピアノがたまらない。ただでさえ重苦しいシーンを息苦しくさせてくれました。『あの頃のように』は曲名どおり憧憬を感じさせる曲調です。これを聞くと昔のことを思い出して窒息しそうになります。いい思い出なんてほとんどありませんが、中には美化されて残っているものがないわけでもないし、全ての過去が悪いものってわけでもないでしょう。『POWDER SNOW PIANO 2010』もかなり好きですが、思い出補正がかかっていることを否定できないため選外。ほんと、この曲はサビメロが最高ですね。closing chapterのお気に入りは『Snowfalls』『溶け合う心』『最後に残るもの』『誰かが傷ついても』の4つ。『誰かが傷ついても』は使われ方が印象的で、春希が誰かを(主に雪菜を)裏切ってる場面で頻繁に流れるため、聞いてるだけで背徳感が募ってくる名曲です。『Snowfalls』は聞いてるだけでささくれが取れていき、穏やかな気分になれます。優しく包み込むようなピアノが印象的。『最後に残るもの』も名曲なんですが、雪菜との関係が修復され、そして崩壊していく過程で頻繁に流れていた曲であるが故に、聞いてるだけで胸が苦しくなってきます。なんだかそんな曲ばっかりだな……。

 ボーカルソングについて。『幸せな記憶』は序章のイメージソングという感じでかなり好みでした。『同じ空の下で生きている』ってフレーズ、ありきたりだとは思うけれど、離れ離れになりながらも春希を想いながら生きているかずさの姿を連想させて好きです。終章のOPに使われている曲ですが、在りし日の思い出を歌った曲だと考えれば、終章とはまた別の意味で最終章にもマッチしている曲だと思います。『届かない恋』はもうトラウマです。最初に聞いたときはあまり印象に残らない微妙な曲だったはずなのに、今はもうイントロのギターを聴くだけで、春希の後悔、かずさの嫉妬、雪菜の絶望を感じさせてくれる。そしてイントロのギターを聴く度に、終章間際、雪菜のために何度も『届かない恋』を弾いていた春希の姿を思い出させ、辛くなります。何気に場面場面で歌い分けしているところもポイントで、声優さんは本当にいい仕事してくれていたと思います。『時の魔法』はものすげえいい曲で、特にメロが最高に好みなんですが、かずさの気持ちを思えば思うほど、この曲に対する拒否感が溢れ出してきて仕方なく、どうも心から好きだといえない。離別の曲というイメージが染み付いてしまっている。本当にいい曲なんですが、イントロの祝福するかのような優しいピアノが、かずさの慈愛の心、というよりも諦観を感じさせてしまいもう……。いったいどんな気持ちで曲を書いたのやらと思うと、苦しくて仕方ない。『心はいつもあなたのそばに』は、これから先ずっと一人で生きていこうとしているかずさの決意を歌った名曲です。『きっと私の心はいつもあなたのそばにあるから 会えない日が続いても平気だってこと伝えたいな』ってフレーズがかずさの精一杯の強がりを感じさせて涙が出てくる。『closing』は最終曲だけあってかずさのイメージソングみたいになっています。『離したくない 離れたくない でも諦めてた』から『離したくない 離れたくない もう諦めない』へ、『ただそばにいて それだけでいい 素直にはなれないけれど』から『ただそばにいて 聞かせて欲しい 二度と一人にはしないと』へ。歌詞が見事にかずさの心情の推移を表現していました。ギターソロもメロディアスでたまりません。 

 『POWDER SNOW』の弾き語りはなんともいえない気分になったし、『いつか見た景色』は何度聴いても憧憬を誘うし……、感想を書いていない曲もたくさんありますが、書き出したら止まらないのでこの辺で。どの歌もシナリオ展開をきちんと踏まえたうえで歌詞が書かれているのが素晴らしかったです。思わず全曲耳コピして歌詞を書き出してしまった。CVについては論じられるほど詳しくないのですが、どれもキャラにマッチしていたと思います。特に雪菜の悲痛な声は聞いてるだけで痛々しくなりました。





 システムはさすがのLeafということでストレスフリー。雪が降る演出は天いなの頃既に確立されていたように思えますが、今作ではさらに磨きがかかっていました。音楽モードの背景でずっと雪を降らせる演出とか、いったいどうやってスクリプトを書いてるんだろう。それでいて軽いシステムに仕上げているのは見事。システム面で少し不満だったのは、バックログの形式が昔の方がよかったところと(遡れる量はともかく、一度に表示される文章量が少なくて読みづらかったし、これなら天いなのような文章を遡ると背景も切り替わるシステムの方がよかった)、あとは一度話が進んでしまうと前のムービーが見れなくなってしまうことくらいですかね。『幸せな記憶』が好きなので、終章のムービーが見れなくなってしまうのが少しショックでした。できればムービー集も欲しかったところです。あと個人的にですが、最後の飛行機の座席から日本を眺めているシーンは差分くらいあってもよかったんでないかな、と思います。春希が泣いている描写がされているわけですし。





 本当に長くなりましたが、以上で感想は終わりとなります。これから手を加える可能性もありますが、キリが無いのでひとまずはこの辺でおしまい。我ながらよく書いたもんだ。しかしこれだけ書いたにも関わらず、言いたいことの半分も文章に出来ていないのではないかと感じてしまうのがもどかしく情けない。まだまだ引用したいシーンや台詞がたくさんあるんですが、上手く使うことができなかった。まったく自分の文才のなさが嫌になりますが、これが自分の限界だと思うので諦めます。

 パティシエなにゃんこ、ラブラブル、パルフェ等に並ぶ至高のキャラゲーかつシナリオゲー。個人的にはあんまりリアルが充実していないオタクの人の方がより楽しめると思いますが、余計なお世話か。積極的にプレイし直したい、やり直したいと思えるような明るい読後感ではありませんでしたが、気付くと再プレイしてしまう魅力があります。純粋に相手を求める愛と、他人から求められたいという願望。他者への優しさが、相手への献身故の愛なのか、それとも相手から優しさを求める打算なのか。けして明確には分かつことのできない感情の機微を、理詰めで描いた傑作です。 

 最後に蛇足ですが、全シナリオをクリアした後には、終章の雪菜シナリオを再プレイすることをお勧めします。ここで味わえる罪悪感は格別で、良心の呵責に耐え切れなくなりました。少なくとも前と同じ視点じゃ見られない。いずれ失われるとわかっているものを見続けるのは辛すぎます。しかも、その失われ方が殊更に酷いものだとわかっていれば、なおさら。
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No title

 とりあえず、レビューを拝読しました。ただ、なんというか、ひどく雪菜に対して悪意のある捉え方だなあという印象を受けました。
 雪菜の台詞の一つ一つ、行動の一つ一つに裏があり、全てが計算づくのもので、だから汚い女だいう解釈は、逆に言えば裏がなければ良いのか。天然であれば許されるのかという反論を私の中で呼び起こさずにはいられませんでした。
 私に言わせれば、散々場を引っ掻き回し、世界をぶち壊しにしておいて、何かといえば「あたし弱い人間だから」とか、「あたしが卑しい人間だから」とか言っているかずさの方がよほどやり方が汚いと思えます。
 何より、かずさルートでの彼女の台詞。

「少しは…恨みを晴らそうとか思わないのかよ。あたしを同じ目に遭わせようとか、考えないのかよ」

 という台詞には、お前は、お前は、雪菜がそんな女だと、本気でそう思っていたのか? と、怒鳴りつけたくなりました。これは、かずさにとっては無論誠意の表れだったのでしょうが、雪菜にとっては、かずさが自分という人間を、かずさへの想いを、まったく理解してくれていなかった証明でした。もしも依緒がその場にいたら、怒って叫んだことでしょうね。
 雪菜が最後の最後には壊れなかった理由。それは、満たされていたからでも、支えてくれる人がいたからでもない。ただ雪菜は、そんなことになったからといって何も解決しない。ただ春樹とかずさを、自分の大切な人を苦しめるだけだということを知っていたからだと。私はそう思います。
 

No title

この作品の凄いと思うのは、
他のプレイヤーの感想が自分の感想と違うと、批判する人が多いことです。
製作者は、この状況を見てニヤニヤしてるんでしょうね(笑)
某所では、雪菜派とかずさ派が毎日闘っているみたいですよ!

逆にいろんな人のレビューを見ると面白いですね~
だって全然感想が違うんだもの・・・

ほとんどの人が、丸戸さんの嘘に騙されているから・・・
真実の春希や雪菜、かずさに気づかないから・・・

雪菜の自分勝手な面について

長文拝読いたしました。
結局雪菜は「本当に強欲で、傲慢で、自分勝手」な面があるんですよね。雪菜派としてはそこが彼女の人間らしい魅力でもあります。
そういう彼女のエゴイスティックな面が作中で克服されることがなかったのが、私としては腑に落ちなかったです。彼女の自分の負の部分を克服する過程が描かれていれば、もっと感動できる結末になったのではないかと思っています。

No title

この感想自分が言いたかったこと全て書かれていてスッキリしました
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