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ボックス! 上下巻 感想

 太田出版から発売中の『ボックス!』の感想です。著者は百田尚樹。永遠の0がかなり面白かったので、他の作品にも興味が湧いて購入しました。

 内容。勉強しかできない、スポーツオンチのいじめられっ子が、周囲を見返してやるべくとボクシングで強くなろうとする話。永遠の0が戦後小説だったのに対し、今作はスポーツ小説です。まるで正反対のジャンルのようですが、振り返ってみれば永遠の0も人間ドラマを主軸においた作品でしたし、そこまで方向性が違うってほどでもない。実に王道な展開で、いわゆるお約束も多分に含まれていますが、全く退屈さを感じさせられることがなく、ベタでつまらない作品だと切って捨てられないだけのリアリティがありました。また、私はボクシングへの知識がほぼ皆無で、ルールなんかも全く知らなかったのですが、作中でわかりやすくかつ丁寧にルール全般の説明がされており、初心者への配慮もきちんとされていますのでご安心を。説明文を全く苦に感じさせず読ませ、たとえ興味が無い分野の話でもすっと要旨を理解させる筆力は実に見事。
 ストーリーはスポ根といわれるジャンルに属する作品であり、学園ものらしく友情を絡ませつつも、基本的に王道の真っ只中を行きます。それでいて読者に古臭さやダサさを感じさせず、読者を熱く滾らせてくれました。これは作者の手腕のおかげと評価してよいかと。特訓や訓練のシーンなんて全く目新しいところはまったくありませんが、愚直なまでのまっすぐさのおかげで、読んでて退屈だとは思いませんでした。いつだって人が真剣に努力する姿は胸を打ちます。



 大筋については実際に読んで楽しんでもらうこととして、最後の試合について少しだけ書きます。下記はストーリーのネタバレになりますので要注意。



 最後の試合で木樽が稲村を倒なかったことに対し、後ろ向きな結論ではなく、倒せなくてむしろよかったのだ、という結論を出したことが、今作のもっとも非凡なところではないかと思っています。正直に言えば、最初は読んでて納得できなかった部分がありました。自分も運動ができない人間だったので、読んでる最中は、どちらかといえば運動神経抜群の鏑矢ではなく、いじめられっ子という境遇から意地と根性で這い上がった木樽のほうに心の天秤が傾いていました。それなのに、木樽はボクシングのモンスター、稲村に勝てなかった。最後の最後で負けた。やっぱり、努力家だった木樽じゃ最後は勝てないのか、結局最後は鏑矢なのか、とそんな悔しい気分になってしまったわけです。でも、実はそうじゃない。木樽に限らず、ボクシングに限らず、なんでも戦って試合に勝てばそれでいいのか。確かにボクシングは乱暴な側面が強く、実際野蛮なスポーツに見えるが(私は今でも野蛮だというだけは間違いないと思っています)、でも、やっぱりスポーツだということなのは間違いないんじゃないのか。別に、木樽はボクシングのプロでやっていこうとしてボクシングを始めたわけじゃありません。もちろん死ぬ気でやってたのは間違いないと確信していますが、そこまで賭けているわけでもないと思います。実際、木樽は勉強することを捨てず、ボクシングも学業も、きちんと両立しています。
 『実は、稲村には勝っちゃいけなかったんじゃないのか』。そう読者に感じさせる説得力ある展開が素晴らしいと思います。途中で出てくる軍鶏の話が演出として効いていました。頭が砕けても闘い続ける軍鶏。原始的で、だから美しく、取り付かれるような魅力がある。でもそれは一つのことだけに取り付かれ、他の全てを投げ出しているということに等しい。あくまで木樽がやっていたボクシングはスポーツでした。別に木樽は、本当の意味で己の全てを賭けてまで敵を叩きのめしたいわけじゃなかったはずです。木樽は自分の日常を投げ出していません。彼が勉強とボクシングを両立させていたことからもそのことがよくわかります。
 敗北感に浸らせるような終わらせ方にせず、最後に希望を持たせる展開にしているのが素晴らしい。木樽が勝てなかったことも、逆に鏑矢が勝ったことも、そして稲村が負けたことさえも、全てマイナスではなかった。これって学生からみれば、本当に明るく前向きで共感できる展開なのではないかと思います。

 以上。最後まで青春作品でした。王道という言葉がこれほどにふさわしく、しかも皮肉ではなく褒め言葉になる作品は相当珍しいと思います。
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