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ストーンコールド 魔術師スカンクシリーズ 1巻 感想

 星海社FICTIONSから発売中のストーンコールド 魔術師スカンクシリーズ 1巻の感想です。著者は江波光則。ペイルライダーから約1年、待望の新作となります。これまでがそうだったので、今作にも鬱々とした重苦しさと救いのない破滅的なストーリーを期待していました。読み終わってみれば、暗い設定なのは間違いないながらも、これまでよりも増してセックスアンドバイオレンスな内容であり、思ったより閉塞感はあまり感じられず、予想以上に(屈折した)爽快感が得られました。

 ストーリー。会社代表である父親の金を糧にして好き放題な学校生活を送っていた主人公・雪路は、父の逮捕を契機にスクールカーストの底辺に落ちてしまう。イジメは次第にエスカレートし、雪路は自分たちの正義に酔いしれるクラスメイトたちに集団で襲われ、左目をガスガンで撃たれ潰されてしまいます。視力の回復は絶望的と診断された雪路は、対価も無しに「奪われた」ことが許せず、自分をいじめたクラスメイトたちへの報復を誓い、死に掛けの警官から譲ってもらった銃を使って彼らを排除する計画を立てていきます。
 
 雪路は元々大金を扱える立場にあったからこそコストと対価に拘ります。つまり、何の見返りもなく自分の左目が奪われたことが許せなかった、というわけです。一切の報酬をもらっていないのに、そんなのは理不尽だ、と。いちおう「鬱憤晴らしと社会正義を気取りたいから、この額で虐められてくれないか」と持ちかけられれば少しは考えた、等と独白しています。どこまで本気かわかりませんが、彼はイジめられ役を全うできたらお金を払う、なんて話をクラスメイトに持ちかけるような異常な人間ですので、多少は検討の余地があった様子。

 雪路が失ったのは左目の眼球。いじめられっ子たちが失ったのは命。結果的に利息まできっちり回収したのは天晴れと言えます。まあ冷静に考ると「それはやりすぎ」と思うのが普通の感覚でしょうが、しかし当事者だったらどうでしょう。少なくとも、私は「やられたことをやり返せば十分」という考え方では納得できなかったであろう雪路の気持ちが多少わかるし、「やられた以上のことをやり返さないと許せない」という考えについてもまた同様です。眼球を奪われたといいう事実は、略奪者がやりたかったからやったわけで、奪われた立場から同じように奪うだけでは感情が納得しないでしょう。奪いたいから奪うのではない、奪われたから奪い返す。だからもちろん利子も払ってもらう。私からすれば、それなりに納得のいく感覚です。だから私は雪路がクラスメイト全てを銃殺してもあまり引きませんでした。因果応報なんじゃないかと思えたからです。むしろ、自分では出来ないだろうその行為を、なりふり構わず実行した姿勢に爽快感を覚えた。これは自分の昏い願望から生まれているので、当然褒められた感覚ではないのですが、理不尽な攻撃に対し、耐えることを選ばず、反撃を選んだ雪路に賛同したい気持ちが間違いなく存在します。というか、私からすると、お金をもらって他人をいじめ、その報酬を受け取ったのにも関わらず、ただ雪路の異常性をなじるクラスメイトの方が気持ち悪い。空気とみんなに流されてしまうのは、ある程度仕方ないと思います。他人の暴力や脅迫に屈してしまうのも、また仕方ないと思えます。私も小心者ですからその気持ちはわかります。誰だって自分が痛いのは嫌だし、迫害されたくないはずですから、その心の弱さまでは責められない。でも、お金の誘惑に屈するかどうかは、完全に個人の気持ちの問題です。クラスメイトたちはその誘惑に負けただけ。なのに、雪路がおかしい、ただお前が間違っている、というような考え方で雪路を攻撃するのは、それこそ間違っているのではないか、と。


 そんなわけで、今作のテーマもイジメとスクールカーストでしたが、今回はそこに加えて金と貸し借りの関係を組み込んできました。読んでてぞっとしたのは、雪路へのイジメの描写がかなり省かれており、雪路の現実と思考が乖離していたところです。ナチュラルに雪路がどういう境遇にあるのかカットされています。ところどころの描写から、雪路が陰湿ないじめを受けていることはわかるのですが、まるでダイジェストのように他人事に描かれ、詳細が描かれない。距離感を作るため意図的にそうしたのか、それとも単にボリュームの問題で省いたのかはわかりませんが、わざわざわ書くまでもないだろう、という冷淡さが感じられて薄ら寒くなりました。

 気に入ったシーンは、社会的にはただの犯罪者である父親が、刑期が終わって出所した10年後なら雪路のことを守ってやると言ったところ(そして雪路はその言葉を信じ、心のよりどころにしているところ)、いじめを終息させるための対価として100万を支払ってしまうところ(たぶん私には出来ません……)、逃がし屋に、真波のことを愛していると臆面なく言うところ(歪んだ関係だと思いますが、歪んだ愛情って好きなので)、この3つですね。冷め切っているように見える雪路ですが、父親だけには信頼を寄せていたこと、暴力に対して何も感じないわけではないこと、途中からは真波を必要としていたことから、描写されないだけで年相応に子供らしいところもあったのではないか、と感じられて印象に残りました。

 ちなみに、今回特に見所だったと思うのは、主人公とヒロインの間に(どんな形であれ)愛情が存在したこと、だと思います。世間一般で語られる純愛ではないのですが、間違いなく主人公とヒロインはお互いを求め合っていました。まあ、その主人公とヒロインの関係が、処女を中古車程度の値段で買った男と売った女という関係であるところが、また「らしい」のですが。


 これまでの著者の路線を踏襲しつつも、少し幅を広げた印象を受けた作品でした。今作は魔術師スカンクシリーズとして続編が刊行予定であり、2013年中にスーサイドクラッチとバンディッツの2冊が出るそうですが、この作者は短期間でそんなにたくさんの小説が書けるのだろうか、いやむしろ書かせていいのだろうか、と不安になります。もう少し長いスパンで出しても全然いいんですが……。あまり無理はしてほしくないものです。
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母の遺産―新聞小説 感想

 水村美苗著『母の遺産―新聞小説』の感想です。個人的には私小説と本格小説で馴染み深い作者であり、今作は長らく発売を切望していた作品でした。

 以下長文となりますので、続きを読むからどうぞ。




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モンスター 感想

 百田尚樹著『モンスター』の感想です。幼少時代にモンスターと呼ばれた醜女が、風俗で体を売りながらお金を溜め、整形を繰り返して生まれ変わっていく話。そこに著者のカラーである(と私が考えている)題材の解説を織り込み、美しい・知性的と形容される顔つきとは具体的にどのようなものなのか、整形に関する専門的な知識を紹介してくれる作品です。これらがどこまで正しい知識なのかはわかりませんが、顔の造詣についての考察はとても興味深く感じました。

 ストーリーは上記の通りとてもわかりやすく直球であり、そこまで捻ったものではありません。それよりも私は整形というテーマに惹かれました。美しいものと醜いもの、綺麗さと汚さ、平均と個性。それぞれの重さと軽さ、切っても切れない人生との関わり。この作品で語られるテーマは、顔や容姿についての話だけではなく、人生、生き様といった普遍的な話でもあると感じました。物語ラストの展開は反応が大きく分かれそうであり、恐らく男女の性差によって感想は分かれるでしょうし、また自身の容姿が平均的か個性的かによっても異なるでしょう。ありのまま表面的に受け取れば、あまり読後感がいいものではありません。最後に付け加えられたエピソードがその印象を強くします。主観的に捉えれば、和子は自身の人生に満足して逝くことができたであろうと判断できますが、客観的に見れば、自身の真実を告白した後、誰にも見取られることなく亡骸を放置されたその最期は哀れで仕方ないものです。栄華を極めた彼女の人生の最盛期は、他者からの羨望に塗れていたでしょうが、その顛末は世界の平均値からすれば幸福な人生であったとは言いがたいでしょう。結局、彼女が心から分かり合えた人間は一人もいなかったのですから、あの告白も単なる自己満足でしかないと言う人もいるかもしれません。人の幸せはそれぞれですが、あの孤独な死が生きたいように生きたのだから幸せだったに違いない、と考える人は少数派でしょう。しかし、だからといって彼女の人生に他の道があったかどうかは疑わしく、工場のライン業を永遠に続けることが彼女の幸福に繋がったとも考えにくく、だから他の結末も上手く想像できません。いつかは彼女に光があったかもしれないけれど、そんな受動的な人生が幸福かは誰にもわからないわけで、やはりこの人生こそが彼女なりの幸福だったのではないか、と思います。

 勘違いされると嫌なのできちんと断っておきますが、あくまでこの作品の物語は極端な一例に過ぎません。彼女は彼女なりに積み重ねた辛い人生があったからこそ美に執着し拘泥しましたが、他の人には他の人なりに優先するものが当然あります。たとえばそれは家族だったり、恋人だったり、金だったり、地位だったり、名誉だったり、健康だったり、愛だったり、夢だったり、そして今作に登場する人間のように、自尊心からくる自己顕示欲だったりするでしょう。だからこの価値観が絶対ということはない。恐らくこの作品は意図的に美へと見入られた愚かしい人間だけを登場させており、恣意的にそれ以外の価値観を持つ人間を除外し、悪意的にセックスを求める男ばかり登場させています。もしも今作に盲目の人間がいたのなら話はまったく変わってきたはずです。その人物と和子が結びついてハッピーエンド、なんて展開はさすがにお粗末ですが、もう少し話に幅は持たせられたのではないかな、と思います。

 総評。改めて懐が深い作家だなと思わされた作品です。今まで読んできた作品テーマが短編連作・零戦・女王蜂ときて今度は整形。よくも毎度違うテーマを用意できるなと感心します。強すぎるフィクション性は多少気にかかるところですが、読みやすいので試しに読む分にはオススメできるかなと思う次第です。
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SAIN455

Author:SAIN455
漫画、ラノベ、ゲームなどのネタバレ感想記事を書いています。ネタがあるときはコラムみたいなものも書きます。あとアマゾンアソシエイトに参加してます。以下定型文。「このブログはAmazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。」

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