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ギャルゲヱの世界よ、ようこそ!  Fandisc

 今作は2009年1月よりファミ通文庫から刊行されているシリーズものの番外編です。本編の内容は、現実世界にギャルゲー世界の設定が投影されたことで誕生した主人公ラブのヒロインたちと一緒に、たくさんの障害(現実的なものと精神的なもの両方)を乗り越えてみんなで幸せになろう、というもの。今作は本編の外伝であり、本編の保管的な部分がつよく、Fandiscの名の通りシリーズを一通り読んだ読者のための作品となっています。ですので、当シリーズの購入を検討する材料として、今作を試しに読んでみる、というのはあまりオススメできません。今作だけ読んでもわからないところが多いと思います。よくも悪くも読者を選ぶ作品だと思いますし、まずは1巻を手にとってみることを勧めます。

 以下は一部にネタバレ感想などを含みますので、本編未読の方はご注意ください。

 が、その前に少し前置を書きます。興味がない人は飛ばしてください。

 私は現在連載しているシリーズの感想を書いてません。それは単純に読み間違えていたら嫌だなというのがあるのと、作品自体が発展途中でまだ核心が見えていない可能性があるからです。『この作品はここが駄目だ』と偉そうな指摘をして嫌な印象を持ったまま作品に臨むのはもったいないと思いますし、逆に『この作品はこれこれを書こうとしているのだ』という思い込みを持ったまま作品を読むのももったいないことだと思います。ですので、これからも完結していない作品の感想を書くことはあまりないと思います。

 ただ、今回は読んでて少し思ったことがあり、それは今作品の全体の方向性としてそこまで間違っていないかな、と思えましたので、少しまとめておきたいと思います

 この作品は色々と極端です。作者はそのことに対してある程度自覚的なようですが、それを踏まえてもやりすぎなところがあります。特に極端なのが主人公です。好きなヒロイン(姉)がため息一つついたのをみて、何か悩みがあるかもしれないと考え、仲間内で相談してどうすればいいか悩む。これだけでも少しおおげさ感がありますが、まあそれでもこれくらいなら大切な人を思う気持ちに微笑ましさを覚えないこともない。問題なのは、この段階で満足できず、勢いあまってヒロインの行動を尾行したり監視したりするところです。主人公の行動理由には一定の理解はできますし、気持ちはわからないでもないのですが、これはやっぱりやりすぎです。好きだったらなにやってもいいのかと言いたくなります。もちろん作中でフォローは入れられてます(実際ヒロインの一人は主人公の行動に呆れています)が、こういうストーカー気質な行動は、どうしても受け付けない人がいるでしょう。主人公に感情移入するタイプの人は、それでもうNGだと思います。

 主人公の行動や思想は、人によって気持ち悪いと捉えられても仕方ないシーンが多数あります。ネタバレになりますが、主人公の目的は『全てのヒロインたちと幸せになる未来を掴むこと』です。俗名、ハーレムエンド。そのために主人公は努力を惜しまないのですが、その努力がどうにも気持ち悪く感じられるところがあり、素直に応援できない時がある。ひとつ具体的なシーンを提示しますが、本編の中で世界に投影された設定がリセットされ、ヒロインたちの記憶がなくなるという展開があります。ここで主人公は、記憶をなくしたヒロインたちに付きまとい、やめてほしいといわれたり拒絶されたりしながらも、『ヒロインを幸せにするために』という理由をつけてヒロインの悩みを解決しようとします。主人公は自分の行動を正当化して、当然最終的には問題も解決するんですが、これ、傍から見るとやってることはストーカー行為とあまり変わらないです。ただ単に、読者はこれが物語である以上、ハッピーエンドになるだろうという予測を立てることができるから受け入れられるだけで、これが現実の行動だとしたらドン引きすること間違いありません。

 相手が『もうやめてほしい』といっても、それが本当に相手のためになるかどうかはわからないし、またそれが心の底からの本音であるかはわからない。相手の気持ちを無視して付きまとうのはただの嫌がらせですが、もうやめてくれと言われて簡単に引き下がってしまうのは、同じくらい相手のことを考えていないと言える。そのバランスをとりながら、どれくらい自分にとって都合よく解釈するかによって、その人の良さが出てくるのだと思いますが、この主人公はかなりの部分を自分の思い込みで行動するため、気持ち悪いのだと思います。その行動力には認めたい部分もありますし、自分が傷つくこと・相手に嫌われることを受け入れたうえで行動を起こす姿勢には評価できる部分があると思いますが、現状はもうちょっとだけ相対的な判断ができるようになってほしいなあ、というところです。

 以上です。主人公の、『心配しすぎて悪いことはない』だろうという考え方に対して、どれくらい肯定的になれるか、またどれくらい否定的になるか、それがこの作品を楽しむための肝になるかと思います。全肯定しなくとも、何割かの主張は受け入れられないと、この作品を楽しんでいくことは難しそうです。
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リリイ・シュシュのすべて

 リリイ・シュシュのすべてとは、2001年に公開された実写の映画作品です。映画監督・岩井俊二の作品で、今作は脚本も自身の手で手がけています。同名の小説もあり、設定は映画版と準じながら結末が異なる様子。今のところ未読ですが、機会があれば読んでみたいところです。

 展開的には救いのない話です。いじめの話がメイン。今となってはそこまで目新しくもないお話(こういう言い方をすると非常に虚しいですが……)でしょう。理解しあえる相手にめぐり合えず、現実世界で苦しむ少年少女たちの姿を繊細に描写している。ドビュッシーの月の光をはじめとした美しいBGMが、その雰囲気に拍車をかけています。

 あまり長々と感想を書くような話ではないと思いますので、短めにまとめます。

 最初は彼らのことを気持ち悪いと思ってました。少年少女の自意識の強さに眩暈がしたし、主人公の10代ならではともいえる青く生々しいモノローグはまったく受け入れられなかった。もしもモノローグが独白形式だったりして、ワープロ文書に起こされる(インターネットに投稿される文章)という体裁をとっていなかったら、途中で拒否反応が出てたかもしれない。エーテルがどうこういって真剣に語り合う姿は、中学生の青い妄想丸出しという感じで、もう私にはついていけない部分でした。

 この作品はいじめが残酷なまでに描写されます。特に中盤を除いた前半と後半部分はいじめのシーンが強いです。後半部分はとにかく、前半部分ではそのシーンに閉口しました。私はここまでひどい学校生活を送ってなかったし、共感できる部分がなかった。どうしてこうなってしまうのかと、嫌悪感すらありました。2001年当時の学生だった自分だったらまた違った感想だったかもしれないですが、今となっては受け入れにくい、より強くいえば受け入れることができない類のものでした。

 以上のように前半はあまり肯定的にみることができなかったのですが、少し観方が変わってきたのが、少年たちが沖縄に旅行しに行くあたりです。前半のいじめられているシーンからは程遠い、無邪気で年相応な姿をみることができます。少なくとも彼らにも幸せな時期があった、ということを描写する。ここで彼らが10代の少年なんだということを再認識する。当たり前ですが、彼らはまだまだ子供です。この作品は、その上で辛い現実があることを描き続けます。このやり方はかえって残酷なんですが、憎々しいことに演出としては非常に効果的で、視聴者にダメージを与えます。そのおかげで、後半部分を観ているときは、痛々しい気持ちとやるせない気持ちでいっぱいでした。序盤を見ていたときとは、まったく異なった気持ちで観ていたと思います。

 鑑賞し終わった後にはマイナスの感情が非常に強く残りました。彼らはまったく幸せにはなれなかった。何が悪かったのか。すべてが悪かったのか。これのどこがハッピーエンドだろう?しかし、同時に、ひどくノスタルジーに浸ったのも確かです。私の学生時代にもああいうときがあった。辛いときもあったし楽しいときもあった。でも今も生きている。だから、この作品の印象がマイナスなものかというと、案外そうでもありません。暗い話であり、救いようがない話ですが、記憶の中に眠っている何かを引き出された。それはあまり思い出したいものでもないですが、忘れてはいけないもののような気がします。その何かを思い出せてくれた。それだけでこの作品には意味があります。とても抽象的で、他人からは理解に苦しむことかと思いますが、私はそう感じました。

 少しわかりにくいかもしれないですが、以上です。あまり長い感想を書くような話ではないかと思います。視聴者が感じたものが全てでしょう。

 家族関係の破綻で全てを喪ってしまった少年。その暴走に巻き込まれた少年少女たち。「空飛びたい」と言い残して鉄塔から飛び降りた少女。最後に元親友をナイフで刺した主人公。それらの光景はどれもがグロテスクで、しかしどこか儚くて美しい。全てを肯定することはできず、全てを否定することもできない。BGMの演出の妙もあったでしょうが、まさしく10代を生きる少年たちの世界を描いた作品でした。

魔王城 一限目~五限目

 魔王城は2008年12月から2010年7月の間にかけて発売されたシリーズものの連作作品です。全5巻で完結済み。私が今作を読んだのが最終巻の発売直後だったので、1巻から5巻まではほぼ一気に読みましたが、少しボリュームが物足りなかったと感じます。やることをきちんとやったという達成感よりも、駆け足で終わってしまったという印象が強い。ここで終わってしまうのは非常にもったいないと感じました。もっと長く続けられる作品だったと思います。もっとたくさん描写してほしいことがあったのに、5巻で終わらせるために色々なことがカットされてしまっているのではないでしょうか。まとめて読んだことでなおさらそう思うのかもしれませんが、これで終わってしまうのはとても残念です。気に入った作品だっただけにその想いはなお募ります。

 全体を通したストーリーを説明します。今作の世界観ですが、魔王という存在が英雄に倒された20年後の世界が舞台のファンタジーものです。世界から魔王という絶対悪的存在はいなくなったものの、ようやく平和になるのかと思えば、世界ではいまだ人同士の戦争が続いていて、相変わらず殺し合いは続いている。平和な世界にはほど遠いです。また、それとは別に、世界では魔王の子孫的な性質を持つ魔人という存在が生まれるようになり、その魔人は世界のあちこちで火種を生み続けている。まあ、ありがちといえばありがちな設定。主な登場人物は、軍人と魔人の子供たち。この作品は、軍人である主人公エイゴが、戦場での不始末が理由で現場から追いやられ、魔人たちの先生となることで始まります。テーマは、『種に対しての差別、無条件の嫌悪、そこから生まれていく相互理解』とわかりやすく、畏怖される魔人の子達と一般の人々が、互いに少しずつ歩み寄っていく過程を描きます。 

 魔人の子たちはそれぞれが特異な能力を持っていて、一般人からは比べ物にならないほどの力を持っています。魔人たちは自分たちが普通とは違うことに対して非常に自覚的であり、大人たちから優しくしてもらえず、他人から迫害され続けていることに傷ついている。力が強いからといって、心までが強いわけではない。その一点について、彼らは普通の子供たちとまったく変わりません。エイゴは、そんな傷ついた子供たちに授業をし、互いの理解を進めていくように努力を重ねていきます。この、少しずつお互いの本質に気付き、理解を深め合っていく過程はわかりやすく描写されており、こういうところはこの作品でも特に好きなところです。

 物語後半はまさに王道な展開で、エイゴが象徴的な存在となり、魔人の子供たちを幸せにしようと奮闘します(ここはあまり多く語っても仕方ないので、詳細は省きます。気になった人はぜひ自分の目で確かめてください)。最後の展開はさすがに少し単純化しすぎじゃないだろうかとも思いましたが、子供たちが幸せになることは私としても望むところでしたし、大楕円に終わったことにはまったく不満がありません。むしろ、あの逆境的な環境から、よくここまで持ってきたと作者に拍手を送りたい。シリアスな物語は好きですが、やはり最後はどころかしらハッピーエンドで終わってほしいもの。バッドエンドで後味が悪い物語も嫌いじゃないですが、今作のカラーではなかったと思いますので、こういう形で収拾をつけたのはうれしく思います。

 以下では少し残念だった点を幾つか挙げます。まず、最初に犠牲になった魔人・ジュリアンの描写が少なすぎます。ジュリアンが最初に殺されてしまったことは重要な伏線だと思ってましたし、後々の軋轢の要因だと考えていましたが、すっかりスルーされたまま終わってしまいました。何回かジュリアンについて触れられたことはありましたが、具体的にどんな子であったかはほとんど触れられません。別にそのことで糾弾してほしかったわけではないんですが、この展開では死んでいったジュリアンがあまりにも報われないのではないでしょうか。ここだけはなんとかして補完してほしかった。

 また、それに関連することですが、それぞれの魔人たちの描写がかなり物足りないです。キャラ別にいうと、アプリールにばかり着目され、ほかの子が疎かにされていたように感じました。特にジャンは最初の巻が終わったあと、最終巻まで主だって話に関わってくることがほとんどありませんでしたので、かなり残念でした。彼は最年長であり、それ故の苦悩がたくさんあったと思うんですが……。もしエピソードが用意されていてのに、尺の都合上カットされてしまったのだとしたら、切ないことこの上ない。先ほど理解を深め合う過程の描写が好きだと書きましたが、あれをもっと丹念に行ってほしかった。子供たちとの交流をもっと読みたかったです。

 以上。好きな作品であることは間違いなく、短く纏まっているのでおすすめしやすい作品なんですが、やっぱり読み終わってみるとボリューム不足の印象が否めない。好きだからこその不満なので、ないものねだりに近いものがありますが、次回新作が出るならもう少しキャラクターの掘り下げをしてほしいと思います。そして可能であれば、今作の後日談か短編集を出してください。

悪と仮面のルール

 芥川賞受賞作家である中村文則の新作で、通算9作目の作品。過去の作品からして、暗く救いのない話ばかり書く作家でしたが、前作掏摸で少し違う方向性を示しました。だいたい1年程度の時間を空けて発表された今作では、いつもどおり暗い設定で救われない展開をなぞりながらも、終わり方にはそこそこ前向きさがあり、さらにこれまでとは違った方向性で私を驚かせてくれました。著者の作品はその救われなさから、なかなか他人に勧めづらいものがありましたが、今作は過去の作品と比べてみてもバランス的に優れており、初めて著者に触れる人でも、少しはオススメしやすい作品になっているのではないかと思います。

 以下作品全体の感想となります。全体的にネタバレを含みますので、読む人はご注意ください。

 最初に私見を書きます。私の中での中村文則といえば、ある程度理性的に物を考えられながらも、『暗い』『陰鬱』『救いがない』といったキーワードに惹かれ、バッドエンドで物語が閉じることに歪んだ悦びを感じ、安心感を覚える人にオススメできる作家でした(おかげで今まで一度も人に勧めたことがありません)。作品はとにかく暗い話ばかり。読後には必ずといっていいほどに虚無感と無力感が付きまとい、救われない気分にさせてくれる(そしてそれが逆に救いを感じさせてくれる)。読むたびに憂鬱な気分にさせてくれるので、彼の作品は長くネガティバーのため(というか、私のため)の愛読書でした。

 そんな著者の作品ですが、今作では少し方向性が異なっています。異なる部分とは、ネガティブの代名詞だったころとは違って、今作の主人公にはかすかに救いが見え、この先立ち直ることができる可能性が示唆されているというころです。もちろん、それは完全なハッピーエンドというわけではなく、どこかしら救われない話であり、相変わらず主人公は病んでて、設定・内容ともに重苦しい作品であることには変わりないのですが、私としてはそれだけでも十分前向きになっていると思いました。救済という要素があること自体驚きました。著者についてはあまりにも救われないばかり書いているので、最後の命を書いたあたりで、もう死んでしまうか新作を書けなくなるかどちらかだろうと思っていたくらいですし(最後の命はタイトルからして遺書のように感じました)、まさかこういうポジティブさを含んだ作品を書けるようになるとは思ってもいませんでした。とてもいい意味で、変わったのかもしれないなと思いました。銃と遮光で衝撃を受けた身としては少しさびしくもありましたが、うれしい驚きでした。

 作品の内容についてですが、今作はタイトルにもある『悪』と『愛』についての話です。『悪』については前作の掏摸でも若干触れられていましたが、今作ではそれを引き継いでメインテーマのひとつとなっています。以下は作品のあらすじです。

 『邪』の家系に生まれた主人公は、実の父から世界を不幸にする存在となるようにと『呪い(のようなもの)』をかけられてしまいます(ファンタジー的な意味ではないです)。少年だったころの主人公は、香織という少女と愛し合う関係にありましたが、その呪いのせいで二人の関係も崩れ去ってしまう。香織は主人公と別れてから新しい人生を歩み始めますが、主人公はいつまでたっても香織のことを忘れることができず、離れ離れになっても幸せを願い続けていた。その幸せを願う気持ちはとても歪です。他人の幸福を祈る気持ちは素晴らしいものだと思いますが、そのためにあっさりと人を傷つける姿は異常。主人公はそいつが香織を傷つける男だという理由だけで、平気で家に火をつけます。主人公は自分のことにまったく興味を持っておらず、彼には自分が幸せになろうという意識がありません。香織に依存しきっています。その後も主人公は自分の人生に何の価値も見出せぬまま人生を送ります。やがては顔を整形し他人に成りすましながら生きることにし、簡単に自分の全てを捨ててしまう。そして主人公は、他人として香織の身辺を調べ、彼女を幸福にすることだけを考えて行動することになります。

 今まで中村文則という作家の作品は、基本的に同じことの繰り返しでした。読者としても再認識の繰り返しが多く、あまり新しい発見を得られることがなかった。なので、必然的にあまり長文を書く必要を感じませんでした。これはネタバレになりますが、これまでの著者の作品の主人公はそのことごとくが救われません。概ね死にます。ついでにいうと女性関係が上手くいきません。振られるか、何らかの原因で関係が終わるか、そもそも主人公がその女性関係になんら未練を感じていないか、そのどれかです。主人公が『幸せ』になることがあまりに少なかった。むしろ、幸せになったことなんてなかったかもしれない。

 しかし、今作は違う。虚無しかなかった過去作品とは違い、救済がありました。偶然バーで出会った女性とのつながりとふれあい。それによる癒し。それは決して絶対の救いではないですが、生き方次第で彼は『幸せになれるのでは』と想像するには十分なものでした。間違いなく、今までの中村文則作品にはなかった要素です。

 以下は作中からの抜粋です。

「でも、苦しくても死んだら駄目だよ」

「実際にどういうことだったか、詳しくは私にはわからないけど……、あなたは回復しなきゃいけない」
 「……回復?」
 「そうだよ、今ここに、こうして生きてるんだからね」



 主人公が女性に過去と心情を告白するシーン。ここで既にポジティブな要素があり、読んでて驚きました。

 (一人で外国に行こうとした主人公に対して)「一人で遠くに行くの辛いじゃん。……ていうか、どこかに行くなら、連絡しろとも思ったんだけどね」
(中略)
「でも、あなたはここにいるでしょう?」

「それで、生きていくんでしょう?」

 

 主人公が日本でのごたごたにケリをつけて外国に行こうとしたところで、あの女性に空港で待ち伏せされていた、というシーンです。とても感動的なシーンで、特に衝撃を受けたお気に入りのシーンではありますが、それ故に指摘しておかなければならないことがあります。

 それは、このシーンにはある種のご都合主義がたくさん含まれていて、論理的な必然だとは言いがたいということです。私見ですが、多くの人はそう簡単に他人に対してやさしく出来ないものです。それが好きな人でも、家族でも。それがあまり深い付き合いのない人であればなおさら。だというのに、偶然出会っただけの男にここまで親身になれるものでしょうか。それはとても難しいことじゃないかと思います(私がそう思ってるだけだと思われても結構です)。幸せになるということは難しく、だからこそ作中で幸せになることが尊いわけで、こうもあっさりやられると少し懐疑的な気分になってしまう。

 ですが、この作品を書いたのは、何を隠そう中村文則です。今まで作者は救われない話を書き続けてきました。そこでは愛というものに対して懐疑的で、他者から与えられる救いを信じていませんでした。(作品のすべてを覚えているわけではないですが)最後はみんな一人だった。その作者が、最後に男女が寄り添う姿を書いた。だからこそこのシーンには重みがあります。今まで作者は救われない話を書いていたのか、それとも救われる話が書けなかったのか。本当のところはわかりませんが、私は作者がこういうシーンを、論理を伴わず書いたことに対して、逆に強く好感を覚えました。

 「あなたは、これからどうするのですか?」と問いかけられて、主人公が「……生きていきます」と答えるシーンが、本当に好きです。


 以上です。決して万人向けするタイプの作家ではなく、特に明るい作風が好きな人には向かない作品です。逆に、ハマる人にはかなりハマるタイプの作家ですので、小説にある程度の救われなさややるせなさを求めている人には大いにオススメしたい。たまにちょっといつもとは違った本を読みたい人は、ぜひ読んでみてください。

リリアの為にカネが要る

 リリアの為にカネが要るは、インターネット上で公開されている無料のフリーゲームです。今作はRPGツクールで製作されており、プレイするためには公式HPで公開されているツクール2000のランタイムパッケージをインストールしておく必要があります。ツクール系のフリゲをプレイするためには、概ねランタイムパッケージのインストールが必須条件になっていますので、今後も頻繁にフリゲをプレイするつもりなら全てのバージョンをインストールしてしまうことをおすすめします。

 リリアの為にカネが要るHPの紹介がいまいちわかりにくいので、少し説明します。

 ゲームのジャンルとしては、RPG+アクションです。ARPGといってもいいです。ダンジョンにもぐって敵を倒したり、アイテムを拾ったりしてゲームを進めていきます。戦闘はエンカウント式。フィールド上のモンスターに接触すると戦闘になります。操作キャラは3人いて、アイテムを利用することで任意に切り替え可能。主人公のアレックスはRPGパートを、ヒロイン?のヘレンは主にアクションパートを担当します。忍者のニンニンはどちらの要素も楽しむことができます。がしかし、能力的に貧弱なので器用貧乏という印象があり、あまり使いませんでした。私の場合はもっぱらヘレンばかり使用していて、頻度はヘレン>アレックス>ニンニンの順番だったと思います。また、今作には『カエルのために鐘が鳴る』というGBソフトのオマージュを多分に含むらしいんですが、私は未プレイなので詳しいことはわかりません。

 今作のストーリーはごく単純で、アレックスが好きな女にお金を貢ぐ稼ぐというだけの話です。祖父の畑に水を引くためお金が必要といわれたり、唐突に登場した双子の姉にお金が必要といわれたり(なお、姉と妹は同時に登場しません)、病気の父のためにお金が必要と言われたり(何気に家が大きくなっているのに誰も指摘しないあたりセンスを感じます)。かなりノリが軽く、やる気・シリアスといった言葉からはほど遠い作品です。端的に言うとゆるい。テキストが2ch風味で、メッセージでナチュラルに顔文字が使われるので、そういうのにイラっとする人には向かないと思います。

 肝心のゲーム内容ですが、私としてはかなり面白かったです。フリーゲームはどうしても戦闘システムが似たり寄ったりで、たとえストーリーがよくてもゲーム的に新鮮味がないことが多かったんですが、今作はオリジナリティ(『カエルのために鐘が鳴る』とどれくらい似ているのかわかりませんが)・戦闘バランス・テンポのよさという点から見てもよくできていたと思います。

 ゲームシステムを詳しく説明します。まず、今作にはレベルの概念がありません。敵を倒して手に入れたお金でアイテムを購入し、自分の好みに合わせてキャラクターを強化していくことになります。最初はアレックスしか利用できず、どうしても戦闘は避けられないため、育て方を間違えないように注意が必要。最初の方は特にお金が溜まりにくく、変な育て方をすると攻略が難しくなります。

 途中からヘレンが使用可能となり、そこからはアクション要素が入ってきます。ヘレンは使い方次第でかなり攻略が楽になります。この辺のゲームバランスが特によかったと思っているんですが、ヘレンはものを掴んでなげたり、掴んだモンスターに変身することが可能です。主な攻撃は岩投げで、うまくやればノーダメージで攻略することも可能。ただし、その代わりにヘレンは防御力が薄っぺらで、敵に接触するだけでダメージを受けます。今作はどこでもセーブができるんですが、それ故にセーブする癖がつきづらく、ヘレンで攻略中にモンスターに囲まれてゲームオーバー、という展開が何回もありました。それでもあまり学習せず、同じような場面で同じようなことを繰り返す、ということがしばしば。私があほなだけかもしれませんが、こういうゲームバランスが素晴らしかった。

 最後に使用できるニンニンは、ジャンプできたり、燃やす・凍らせるという忍術が使えたりしますが、上記のとおり攻略上必須な場面以外ではほぼ利用していませんでした。特に凍らせる忍術はまったく利用しなかったため、存在価値がわかりません。

 ダンジョン攻略はなかなかに頭を使います。前半戦はRPGなので装備を整えておけばいいんですが、ヘレン加入後はパズル的な要素が結構増えていきます。あとは戦闘でアクション要素も含まれてくるので、力押し一辺倒以外にも戦闘をクリアできるのが楽しい。普通にアレックスで戦っても勝てるシーンだとしても、なぜかヘレンで戦ったりしてました。

 あとは、やりこみ要素として、各ダンジョンにゲット値というものが設定されています。これは、ダンジョン毎に発生するイベント戦・もしくは宝箱がどれくらいあるかというものです。この作品はなかなかにダンジョンが広く、特に変身が利用できるようになってからかなり幅が広まるため(幽霊で壁を抜けたりできるので)、全てをコンプリートするのはそこそこ骨が折れるのではないかと。私は、水の城・月の塔・召還士の塔が5/6まで行ったところで、残りの見当がつかなくなり、あきらめました。おそらく水の城は地下水路のどこかだと思うんですが、残り2つはさっぱりわからぬまま。ダンジョンを2~3周したところで時間がもったいなくなったのでやめました。謎解きに頭を悩むのならよかったんですが、イベントを探すのに時間を割くのはちょっと気が引ける。

 以上です。シナリオ・ストーリーはいたって普通ですが、ゲームシステムがかなり面白かったです。久しぶりに没頭してゲームを楽しみました。

ブラックオクトウバー

 ブラックオクトウバーは、一風変わったフリーのADVです。プレイ時間は2~3時間程度で、ジャンルとしては推理・サスペンスに入るかと。タイトルのゴロ的にセイントオクトーバーを思い出しますが、おそらく関係ありません。
 
 ストーリー。主人公は偏差値の高い全寮制高校に通う生徒です。その学校では一人の生徒の自殺があったばかりなのですが、最近どうやらその生徒はある教師から体罰を受けていたらしいという噂が出回っている。

 ある日、主人公はアングラサイトをみていると、『野猿生へ告ぐ。体罰教師を許すな!』という書き込みと匿名チャットへの誘いを発見する。主人公はあまり体罰には関心がなかったものの、そのチャットに興味本位で参加することになります。そうして、同じような経緯の下で、チャットに5人の生徒たちが集まってくる。

 最初5人は誰が誰なのかわからないという状況を楽しみながら、チャットに夢中になっていました。が、ある日、1人の「体罰が本当にあったのなら火をつける」という不穏な書き込みから、件の暴力教師の部屋から火の手があがる。このチャットがログに残っているということにあせった5人は、サーバーを盗むために、合言葉を決めて集まることにする。そこではじめての顔合わせとなったわけですが、しかしいざ集まってみると、なぜか5人ではなくなぜか6人いた。作中の文章表現を引用しますが、5人しかいない匿名コミュニティのオフに6人集まった、みたいなシチュエーション。なぜ5人ではなく6人なのか、誰が、なぜ火をつけたのか……話の内容としてはこんな感じです。

 作品全体の感想。まず、6人(5人)がサーバーを盗もうとする理由が少し弱いです。客観的にみると、このシチュエーションはそこまで危惧するものではないですし、冷静に考えれば、どちらかといえば火事場泥棒のほうが罪が重いかと思います。もちろん、ログを読まれたくないという気持ちはわかりますし、泥棒は犯人がばれなければ罪にはならないわけですが、主人公が行動するには少し説得力が足りない。

 いざ追い詰められれば人はどういう行動をとるか予想しづらいものですし、ここは学生ならではの経験の足りなさといいますか、若さゆえの勢いだったという風にみれば、なんとかフィクションとして容認できる範囲なんですが、もうちょっと理由(というか言い訳)は練ってもよかったのではないかと

 あと、この作品の惜しい点の一つは、導入部分の魅力が足りないところです。私の場合、ノベル系は5~10分くらい読んで面白くなかったら切ることが多いんですが(具体的な事前情報がある場合は別として)、今作はぎりぎりそのラインに入るか入らないかくらい。チャットが始まるまで、あまり面白いとは思いませんでした。

 逆によかった点は、火の手があがり、ブラックオクトウバー事件(一連の事件の名称)が起こってから、加速度的に面白くなっていたところです。誰が誰なのか探っているシーンには独特の緊迫感があり◎。また、ほかの視点が出てきてからさらに面白くなりました。最初、主人公の視点だけで進むと思っていたこともありますが、こういうやり方は王道ながらもぐいぐいと引き込まれます。ただ、みんないい性格をしたやつばかりのこともあってか、あっさり裏事情が見えてしまうのはとてももったいなかった。疑心暗鬼になって他人を疑ったりするシーンがないのも物足りなかったし、ここはもっと引っ張ってほしかったですね。

 あと、今作は会話シーンが少なめ、ほぼ主人公の独白メインで進んでいくんですが、その分回想シーンでの掛け合いがお馬鹿でなかなか楽しかったのがいいですね。みんな、何も考えていない感じがいい。もっとこういう場面は多くてもよかったと思います。

 以下は全キャラの感想・または印象です。作中で全てのHNが明言されているわけではないため、下記には消去法で代入するとこうなるのではないかという予想を含んでいます。ご了承ください。

 主人公。辻浦丈。HN「果実酒」。一人称があるキャラの中では特に思弁的で、他人と話すのが苦手。事件には直接的な関わりがないため、客観的な立場にあり、かなり冷静に物事を考えています。すぐそれぞれの正体や事件の真相がわかってしまうため、あまり意味のない描写だったと思っているのですが、主人公が事件直後に黙々と自問自答を繰り返し、ひたすら仮定による独白を繰り返す場面があります。主人公が理性的な人間であることを描写しようとしたのかもしれませんが、結構偏執的で少し引きました。果てしてこのシーンは必要だったのかどうか、少し疑問です。

 奈良こずえ。HN「あじさい」。事件の当事者。教師に弱みを握られて脅されています。それをなんとかしようと瑞稀・海江田と一緒にチャットを立ち上げます。その性格はなかなかの天然悪女っぷり。彼女を評するとしたら、いろいろな意味で「かわいそうな女」、ですかね。「被害者だから」という観点でぎりぎり許されている部分がたくさんあります。女性視点、男性視点によって、特に受け取り方が変わりそうなキャラ。ライターが意図的にやってるのかどうなのかわかりませんが、彼女の一人称視点での独白ではいろいろと語られていないところがあり、自分に都合の悪いことは忘れてしまう人物ではないかと。展開上、そのほうがよかったとはいえ、最初主人公に惹かれていたはずなのに、あっさり海江田と付き合ってしまうあたり、なかなかあざとい人物です。

 七田瑞稀。HN「アダム」。事件の当事者。こずえと一定以上の付き合いがあり、脅されている環境から助けようとしてチャットを立ち上げた人物。登場キャラの中でも、特にさっぱりした性格のキャラかと。こずえに思いを寄せていたにも関わらず、復讐に拘るこずえにさっさと見切りをつけて、途中から主人公に乗り換えてしまうあたり、なかなかに冷淡です。こういう人間は結構怖いですね。いちおう、掲示板内ではまとめ役ですが、思慮深さが足りず少し力不足感が否めない。

 武田耕作。HN「超紳士M」。お調子者のムードメーカー。一人称視点がない人物なので、かなりの部分が不透明で、何を考えていたのか最後までわからない人物です。ただ単にノリのいいキャラだったってことかもしれないですが、その辺はもう少し描写してほしかった。

 児島竜太。HN「Nimitz」。神経質かつナイーブなキャラ。本編で登場するキャラの中で、もっとも「イイやつ」じゃないですかね。ただ、あまり空気を読まないせいで、そのよさが伝わりにくい。現実世界にいたら一番損をするというか、友達ができないタイプ(実際、作中ではそのような描写があります)。そういえば、彼も一人称視点がありませんが、もし内面を想像するならば、彼もかなり思弁的な人間なのではないかと思われます。

 海江田昇。唯一HNなし。事件の当事者。チャットの管理人で、システムを構築した人物。描写が少なくてあまりどういうキャラかわかりませんでしたが、最後に良い目を見れたし、本人としても本望じゃないでしょうか。あの展開だと割とすぐに振られてしまう気がしますが、それはそれということで。

 以上。最後の終わり方がとてもそっけなく、あまりにも唐突に終了するところはかなり納得できません。個人的にはここからだろう!と思います。まだまだ2転3転できたでしょうし、正直かなり物足りない部分があります。奈良こずえというカードがある限り、話はいくらでも膨らませられたと思うのですが……。題材はかなりよかったので、面白かったと同時に、強くもったいないと思いました。

『東京タワー水没地↓30m』『旧約;眠れぬ夜に口付けを』

 今回のコミケで入手したサークル「世の漆黒」の作品。サークル名は「ときのしっこく」。エモーショナルでグッとくるギター、力強いドラム、高音に伸びるタイプの女性Voと私が好む要素満載で、一回視聴をしてすぐ虜になりました。サークルHPから数えたところ、おそらく『東京タワー水没地↓30m』が6枚目で、新譜の『旧約;眠れぬ夜に口付けを』は7枚目となります。どちらもキラーチューンが1曲以上あってとても満足。なお、『旧約~』には元ネタがあるようで、『空ろの箱と零のマリア』という電撃文庫発刊の作品がモチーフらしいですが、あいにくと未読です。

 以下『東京タワー水没地↓30m』感想。

 『三時間の永遠』は重くヘヴィなギターから始まるメタル寄りの曲。独特な倦怠感がありながら、1曲目にふさわしいテンション。ソロがいい。個人的には、この曲の女性Voはもうちょっと力強くてもよかったかなと思います。

 『眩暈』はあんまり疾走してない、どちらかといえば叙情的な曲、だと思うんですが、その割にドラム・ギターがかなり自己主張していて、メランコリックというよりもダウナーという言葉が似合います。歌詞も気だるい感じ。あと、このサークルの曲は概ねそうだと感じますが、リフがいいです。

 『A.D.2010・東京』はインストです。調子の外れたリズムが不安定にさせます。

 『奏鳴曲;雛無-hiina-』はメタル色が強い曲なのに、ところどころで弾かれるピアノとバイオリンが素敵です。サビがなかなかにキャッチーで、ソロがエモい。

 『理想は。共鳴へ、蒼く』は待ってましたのメロスピチューン。最初はかなりゆっくりで叙情的ですが、サビの後ピアノに続いて転調し、急に飛翔します。ピロピロいったりドコドコいったりで大忙し。ソロは相変わらずエモい。少し物足りないなと感じるのがVoで、ここはもうちょっと張りと力強さがほしかったです。

 『A.D.2109・東京』は二度目のインスト。もの悲しいバイオリンの音が終末感を出しています。

 『やさしい雨』はポップロックな曲。ここまで突っ込んできた勢いを落ち着かせてくれる優しげな曲。歌詞が少し気になります。

 『直訳で「少年は少女に出会う」』。『東京タワー水没地↓30m』の中でもかなり好きな1曲。最初のギターリフ最高。サビのシンセ音もかなり好きです。

 以下『旧約;眠れぬ夜に口付けを』は1曲だけ感想を。

 表題曲の『眠れぬ夜に口付けを』。気合の入ったHR/HM色の強い曲です。好き好みが大きく分かれそうそうなタイプのVoが少し気になるところですが、高音女性Voと力強い音作りが好きな人なら気に入ること間違いなしの一曲。『東京タワー水没地↓30m』と『旧約;眠れぬ夜に口付けを』なら前者のほうが全体的に出来がいいんですが、この一曲がかなりお気に入りのおかげで、私の中では僅差です。

 以上です。基本的にどちらもオススメの1枚です。

空の境界

 空の境界とは、2007年10月から2009年8月8日までの期間、都内を中心とした一部の映画館で上映された連作アニメーション映画です。全七章。今作は同名小説(著者は奈須きのこ)が先に発売されており、原作では小説ならではともいえるクドい文章表現が多かったことから、どのように映像化されるのかファンの中でも話題を呼びました(少なくとも、私の中では)。また、かなり偶然のタイミングだったんですが、最近年明けに最終章を追加したBD-BOXが発売されることが発表され、それとは別に近々漫画化もされるとのことです

 私は原作小説を既読の状態で映画を観ました。今作はかなりの部分で原作を忠実に再現したようで、そのためストーリー面では特別目新しさを感じませんでした(といっても、発売直後に一読してから再読していないこともあり、途中はかなりうろ覚えでしたが……)が、映像ならではの直死の魔眼の表現や、独特な世界観を始めとした魅力的なキャラクター作りなど、内容を知っているにも関わらず、ほとんど中だるみせず一気に楽しませてもらいました。特に、主題歌の使い方はとても上手で、最初にobliviousが流れたときは思わず鳥肌が立ちました。

 なるべく短めに各章の感想を書きます。一部ネタバレを含みますので、未視聴の方はご注意ください。

 一章『俯瞰風景』。静かで地味、という印象です。わかっていましたが、前半はあまり動きがない話なので、特に映像栄えしませんでした。中盤までは橙子の説明口調のおかげもあり、かなりだれを感じます。しかし、中盤以降式が行動を開始してから一気に緊迫感が出てきて、比例するように速く時間が過ぎていきました。戦闘シーンは一瞬で終わってしまいますが、壮大な主題歌の演出もあり、鳥肌ものでした。死線の表現は幻想的でかなり好みです。

 これは少し余談になりますが、空の境界は秀逸な伝奇的設定や濃密に作り上げられた世界観と、そこに登場するキャラクターたちが大変魅力的だということが挙げられます。私が空の境界でもっとも惹きつけられた部分は、どちらかといえばキャラクター、特に主人公である式その人の魅力でした。ですので、今回映画を観るにあたっては、式をどのように表現するのかかなり気になっていましたが、一章を観た感想としては、原作を読んでいたときにイメージしていたものよりもかわいい女の子っぽい感じだった、といったところです。やはり声がついたことが大きいかと思います(演技が下手、合ってないという意味ではないです)。最初は少し戸惑いがありましたが、すぐ慣れました。それ以外の部分としては、式の叙述トリックが味わえないのは少しもったいないと感じました。さすがにこの映像を見て式を男だと思う人はあまりいないでしょうし、今となっては一人称がオレの女性キャラクターにもそこまで違和感がないと思います。

 二章『殺人考察(前)』。主人公の式が二重人格だった頃の話で、男性人格の識(式は女性人格)とヒロインの幹也(男)がいちゃつく話です(違います)。ウィンドウショッピングをしているときにくるくる回る識がとてもかわいいです。なお、設定上、ここでの両義式は一応男です。でもかわいいです。

 三章『痛覚残留』。異能力バトルの真骨頂。エスパーVSジョーカー。念力で全てを捻じ曲げる藤乃と、視えるものなら何でも殺せる式との戦いです。式は念力すら殺してしまうので、特に反則に近い能力を持ってますが、藤乃は藤乃で最後に千里眼にも目覚めてしまうので、どっちもどっちですね。ちなみに、式がなんでも殺せるのは直視の魔眼というもののおかげで、この設定についてはここで初めて触れられていますが、原作を読んでいない人はここの話だけでついていけるのかちょっと不安です。あとは、藤乃はイメージ通りエロかったです。

 四章『伽藍の洞』。Interlude。式が入院していたときの話。三章とはうってかわって、全体的に落ち着いた展開です。いちおう戦闘シーンもありますが、そこまで盛り上がらなかった。話の展開上、どこかしらに必要な場面ですが、地味めの話だと思います。

 五章『矛盾螺旋』。式VS黒幕。意欲作です。空の境界という作品は、全体的に内容を掴みづらいという性質がありますが、そんな中でも五章は特に把握しづらい内容だと思います。原作でもそうであったと記憶してますが、断片的なシーンがかなり多く、時間軸と視点が複雑に入り乱れているところが特徴的で、話の筋がどうなっているのかわかりにくい。小説を未読で、映画が初見の人には特にわかりにくい話ではないかと思います。私はうろ覚えながらも展開を知っていて、結末もわかっていたので流れのままに視聴できましたが、まっさらな状態でこの話を見ると、出し惜しみをされている感じがしていらいらするかもしれません。

 私としては、全編に渡って式の魅力が惜しみなく描写されていたためとても満足でした。戦闘シーンでポン刀を振り回しながらくるくる回る式はかっこいいし、会話中に布団に包まる式の姿はあざといくらいにかわいい。ギャップ萌え。あと、この章でのみ登場するキャラの『この螺旋が矛盾していたらよかったのに』という台詞は名言だと思います。

 六章『忘却録音』。幹也の妹、鮮花と式がメインの話。鮮花の学校で起きている『妖精に記憶を奪われる』という事件の犯人捜しが主なストーリーです。作品全体の構成からすると、そこまで必要性を感じない話ではありますが、鮮花がかわいいのでOKです。多少、あざといくらい女の子してます。最後のバッチリ!で撃沈しました。空の境界は目を閉じている表情が概ねかわいいですね。

 ストーリーは原作から結構改変されているようで、そこが批判の的になっているみたいですが、残念なことに大筋以外あまり印象になく、詳しく覚えていないです……。

 七章『殺人考察(後)』。黒幕を倒したあとの話。あいまいな境界線が引かれたまま、はっきりしなかった式と幹也の関係に終止符が打たれます。全章の中でも一番長く、また一番好きな話です。この物語はたくさんの装飾(=設定)がありますが、この章を観て、結局今作は式と幹也の物語なのだなと再認識しました。最後に式と幹也が手を握りながら歩いているシーンはとても印象的で、感傷的。

 以上です。原作重視で、派手さな演出やわかりやすさよりも雰囲気作りを優先されており、どちらかといえば原作既読者向けの作品ではありますが、『一見さんお断り』というほどにわかりにくい内容ではないと思いますので、じっくり映像を楽しみたい人にお勧めしたい作品です。全七章503分(Wikiを参照しました)、決して短い時間ではありませんでしたが、充実した時間でした。

独裁者ノススメ

 六弦アリスとは、コミケやM3といったインディーズのイベントを中心に活動しているサークルです。2006年12月から活動を始めているのですが、アルバムリリースのサイクルが異様にハイペースなため、結成4年目にも関わらず既に通算12枚目のアルバムとなります(公式では11枚目扱いですが、緋のローレライを1枚ずつと数えれば12枚目めとなります)。

 私の中での六弦アリスというと、シンフォニックだったりメロスピだったりゴシックだったり、とにかくクサい曲を作るサークルだったんですが、最近の傾向としては特にプログレッシブな曲が多く、凝ってたりごちゃごちゃしてたり実験的だったり、わかりやすくキャッチーな曲が少なかったので、1回聴いただけでハマってしまうような曲があまりありませんでした。しかし、今回は原点回帰ということで、かなりの割合で疾走している曲があり、ここ最近の物足りなさを見事に取り戻してくれました。

 曲順に一言二言感想を書きたいと思います。

 『異端派人生哲学主義』は恒例のインスト。少しブラックメタルな曲調で、右寄りの軍歌みたいな威圧感を出しています。

 『誇リ高キ者』はイントロのシンセとドラムがかなりよい。サビでは明るくキャッチーに。そんなに速くない曲ですが、しっかりとリスナーのツボを抑えています。ソロのクサさは『Code;D』や『紅蓮の少女』あたりを思い出させてくれます。

 『小悪魔ディスタンス』は六弦アリス得意の疾走チューンです。イントロ・リフ・ソロ、全てが六弦アリスそのもの。今回のなかでも1・2を争うクサさです。少し細めの音で奏でられるバイオリンソロと力強いギターソロが最高です。六弦アリスの特徴として、音が全て打ち込みという点がありますが、まったく気になりません。

 『独裁的な舌』はゴシック色溢れる耽美形な曲。嫌らしい音を鳴らすギターが大変よい。

 『筺ノ中ノ本質』はイントロからそこはかとなく怪しい雰囲気を醸し出していて、ここまでの曲に比較すると少しキャッチーさは薄れています。最近六弦アリスがやってきていた曲と似てる印象。

 『キミノタメ』はこれまでとは少し曲調が変わってややゆっくりめな曲です。『純潔パレード』的なキラキラロックで、わかりやすいメロディーがとてもキャッチー。私は『純潔パレード』がかなり好きでして、六弦アリスのこういう路線も大好きです。歌詞は相変わらずメランコリー。

 『雨音』は六弦アリス得意の泣かせるバラード。ここまで盛り上げてきたテンションを落ち着かせるのにふさわしい曲かと。こういう叙情的な曲もお手の物で、静かに静かに盛り上がっていってソロで唸らせてくれます。

 『痛ロリヰタ哲学』は最後に持ってこられた疾走チューン。最後の最後で吹っ切れたようにクワイヤを入れて疾走してます。意図的なのかもしれませんが、ところどころで『独裁者ノススメ』をイメージさせられる曲調。サビ・ソロ・ラストのツーバス、その悉くがツボでした。ところどころで弾かれてるピアノがまたいい!六弦アリス的にはこういうのはもう飽きてるのかもしれませんが、これからもこういう方向性でやってほしいところです。


 以上です。今回の新譜は全肯定できる出来でした。私はこういった路線が好きなのだなと再認識。


 また、今回が初の音楽感想の投稿となりましたが、音楽を聞いて感じたことを他の人にも伝わるようにしながら、言葉にまとめていくのは思ったよりもずっと難しい行為と感じました。特に、私は実際に音楽を演奏した経験がなく、音楽の知識にはかなり疎いので、たまに専門用語の使い方があっているのかどうかがわからない。今イメージしていて説明しようとしていることが、この表現であっているのか、確認しようがないときがあります。全て見当違いなことを書いていそうで、かなり不安です。

 そのような理由もあってか、今後もあまりうまく表現できる自信がないですが、チャレンジ精神を大切にする意味も込めて、細々と書いていきたいと思います。表現が間違っていたら訂正しますので、指摘してください。

セカンドノベル

 セカンドノベルとは、コアなノベルゲーム好きの層で人気を誇る、深沢豊というシナリオライターによってディレクション・監修されたPSP用ノベルゲームです。

 同ライターにより公開されている『忘れものと落とし物』という全年齢対象の作品がネットからDLできるので、ライターがどのような物語を作るタイプなのか知りたい方は、こちらを先にプレイしてみるのもよいかと思います(ちなみに、今作は無料でDLすることができますが、コンセプトしてはフリーゲームというわけではありません)。

 なお、ほかに過去に発売されている『書淫、或いは失われた夢の物語。』という18禁の作品もありますが、2010年現在数万円ものプレミア価格がついているため未プレイの状態です。どのような作品なのかもよくわかっていません。


 ここからセカンドノベルの紹介です。今作はゲームシステムがシナリオと密接に関わっているので、そこを絡めて感想を書きます。

 このゲームは、かつてヒロインが創造したある物語を、一から作り上げていくことが目的です。彼女の記憶に眠る物語を少しずつ拾い上げていき、最後まで完成させることが最終目的となります。これはヒロインである彩野の設定に関わってきます。普通だったら、長時間かけて少しずつ思い出していけばそれで済む話なんですが、ヒロインは過去に自殺未遂をしたことが原因で、約15分程度しか新しい記憶を維持できないという障害を脳に負っています。ヒロインは過去を思い出すことができても、記憶を維持することができない。また、これから覚えていく記憶は全て忘れてしまう(=新しい記憶を覚えられない)。記憶を喪失したわけではないので、忘れている記憶を思い出すことはできますが、15分が過ぎてしまえば彼女は一度思い出した記憶を忘れてしまいます。ヒロインは物語を忘却しているため、15分ごとに一から思い出してもらうことになる。しかし、それをただ繰り返していっても、時間の問題で絶対に結末へと至ることはできない。そのため、主人公は素早くヒロインに物語の展開を思い出してもらうために、物語のあらすじを作成しつつ物語を聞きだしていくことになります。ヒロインの思い出した物語がどのような結末を迎えるのか、主人公とヒロインが一緒に探っていく、というのが今作のゲーム展開です。

 システムの印象は、逆転裁判に近いといえばいいでしょうか。プレイヤーは、ヒロインである綾野があらすじを作るために必要な言葉や人物をキーワードとして提示しながら、ゲームを進行していきます。難易度はさほど高くなく、少し詰まったらヒントを得られる構成になっているので、まず攻略できないということはないでしょう(何箇所か難しいところがありますが、真面目に物語を読めばどうすればよいか気づけると思います)。難易度はあってないようなもので、攻略に悩むことはほぼなかったし、そのほとんどは作業のようなものでしたが、しかし詰まらないというわけではなく、不思議とゲームを進めたくなる魅力がありました。

 システムの上の不満はボリュームの調整がいまいちだったことでしょうか。操作性やレスポンスが若干悪かった印象もありますが、ストレスを感じるほどではなかったし、それほど気にならなかったです。


 ここまでがネタバレを含まない感想です。ここから先は、ネタバレを含む感想になりますので、未プレイの方はご注意ください。

 シナリオについて簡単に説明します。ストーリーの流れは冒頭の説明通りで、物語の全貌を把握することが目的になります。ストーリーが進んでいくにつれて、物語の内容は徐々に明らかになっていき、なぜ綾野がこの物語を作った、そしてなぜ物語は語られなければならないのかがわかっていきますが、自殺未遂をした理由や、誰が誰を好きだったのかがはっきりせず、最後まで謎の中なので、消化不良の感があります。真相が全て明らかにならないと満足できない人には不満かもしれません。あと、全ての意図を説明してもらえないので、何がいいたかったのかよくわからない部分が残ってしまいます。
 
 今作の登場人物は全て合わせても2桁に届くかどうかというところで、主要な登場人物は両手で数えられるくらいです。それくらい狭い世界でのお話です。私は、その中でも、主人公と綾野、それとサクラと千秋が主要な登場人物だと考えています。主人公と綾野は同級生で、サクラは物語に登場する謎の女性、千秋は学校で出会う女の子。さっくりネタバレしますが、千秋とサクラは姉妹で、サクラは綾野が過去に入院していたときに出会っています。綾野は完全にサクラのことを忘れていますが、はっきりいうとここは都合がよすぎかなという印象。

 このゲームでの主人公の立ち位置は傍観者です。綾野が話す『物語』は、アヤノと過去に自殺した彼氏(ということにしておきます)であるユウイチという人物等が主役となる話で、どうやら現実を模倣した作品であるということがわかっていきますが、その物語に主人公は登場しません(ということにしておきます)。主人公は物語に対して無力です。我々プレイヤーも、ゲームを進めていくという立場から物語に干渉することはできますが、物語そのものに触れることができません。これは、主人公とゲームプレイヤーの立ち位置が非常に近しいということを意識させられます。

 今作のテーマは『物語』です。テーマの受け取り方は人それぞれだと思いますが、このテーマ自体は間違いないかと思います。夏の学校を舞台に思い人と語り合うシーンは何かとノスタルジーを感じさせ、わびさびを意識した雰囲気づくりは素晴らしかったですし、OPの残照はその儚い雰囲気を後押しする聞き込むほどによくなる曲でした。『夏』の感じさせ方は抜群にうまかったし、『夏』は今作のひとつのテーマとしてもいいかと思います。

 しかし、やはりライターが一番主張しているのは『物語について』でしょう。作中で散々触れられていることもあり(というよりも、作品のほぼ全てが『物語について』語られていたように思います)、テーマはよく掘り下げられています。ライターの熱意が強く伝わってきました。意欲作といって間違いない。

 ただし、そこにエンタメ性が寄り添っているかどうか、というのはまた別の問題です。

 私がこの作品をやって思ったことは、『とてもよくできているし、深く練り込まれているが、恐らく2度プレイすることないだろう』というものでした。その感想は、プレイ後数週間経った今でも変わりませんし、実際クリア後にセカンドノベルを起動したことはありません。決してつまらなかったわけではありませんが、もう一度プレイしたいとはまったく思わない。プレイヤーにこういった感想を持たせてしまうのは、作品としてはとにかく、ゲームとしては失敗、なのではないかと思います。

 シナリオディレクション・ゲームコンセプトはとてもよくできています。テーマ性については見事の一言です。徹頭徹尾、最後までやりきったと思います。しかし、その代償といってはなんですが、エンタメ性が足りない。ゲーム性はそこそこよかった。さきほど書きましたが、多少の作業感はあったものの、シナリオテーマと深く結びついたゲームシステムには魅力がありました。

 よくないのは、作中で語られる『物語』があまりに平凡すぎて、『物語』そのものの面白さが圧倒的に足りないというところです。それなりに変わった設定はありますが、ゲームの中心にある『物語』があまりにも普通すぎます(これは、作品テーマ上、狙ってそうしたのかもしれませんが……)。かすかに漂う恋愛アドベンチャー要素は、作品の展開上、ほぼ切捨てられてしまいますし、語られる『物語』には惹きつけられるような魅力がなく、ストーリー単体を褒めることができない。とても惜しい作品です。『作品としては』よくできていますが、作中の『物語』が面白くない。つまり、テーマ性とエンタメ性が両立できていません。

 テーマ性だけを求めれば、今作で十分満足できるかもしれませんが、私は両方を求めており、片方だけでは物足りなかった。特に、この作品はもっと先までいけると思えたからこそ、物足りなかった。満足したという気持ちより、残念だという気持ちがかなり強いです。


 以下は余談と推測です。
 
 この作品では執拗に物語とはなんぞや?と述べられます。この作品のテーマは様々な解釈ができますが、一つとしてライターの自分語りが混じってるのではないかと考察できます。

 明確には語られていませんが、恐らくこの作品はライターが過去に発表した『True Color,』のリライトです。『True Color,』とは、ライターが2005年頃に発売を予定していながら、結局発売することができず、事実上無期延期してしまった作品です。HPの情報を見てみればわかりますが、作品情報にセカンドノベルと似通う点がいくつかありますので、今後発売されることもないのではないかと思います。

 作中でのアヤノの物語は、本当はサクラとアヤノの二人で作り上げられたものでした。サクラが作れなかった物語を、綾野に託し、綾野が引き受け、作り足したことで完成しました。つまり、サクラ一人じゃ物語は作れなかった、と。ここでライターは、物語は必ずしも一人で作り上げるものではない、一人で作らなくてもいいのではないかと、多人数での脚本を肯定しているのではないでしょうか。これは、『True Color,』を一人で作り上げることができないままでいたが、テクストを立ち上げて仲間と出会い、ゲームとして作り上げることができたという実感が混じっているのではないかと思います(といったら穿ちすぎかもしれませんが、少なくとも一人では発売できなかったという点だけは間違いないのではないと思ってます。事実深沢氏は何年もかけて『True Color,』を発売できなかったので)。この先、ライターが新しい作品を発表するかわかりませんが、一人で作るということに拘らないつもりなら、きっとこれからもたくさんの場面でライターの名前を見る機会ができることでしょう。

 ただ、だからといって、それを作品のテーマに深く組み込んでしまうのはどうなのかと。

 この作品の要旨を簡単にまとめると、ある女性が作った未完成の『物語』を受け取った女性が『物語』の続きをつくり、さらにそれを主人公(≒ライター)がまとめ直し、女性(≒プレイヤー)に結末を委ねるというものです。『忘れものと落とし物』もそうでしたが、今作でもプレイヤーはゲームの中に含まれてます。このゲームはプレイヤーが参加していることで完成する。これは、ライターとプレイヤーの共同作業だといえます。ある意味、読者を信頼して読者に全てを委ねているんだし、『誰かと一緒に』という考え方は美しいといえないこともない。

 ただ、やはり大事な結論を自分で出さずに投げてしまうのはズルでもあると思います。最後の[『SectionEx2』のあらすじは、あなたが作成しています]という演出はとてもよかった。セカンドノベルというゲームタイトルそのものが、実は大きな意味を持っていて(ここでゲーム内小説の意味もおのずとわかるのではないかと。あれはプロが作ったセカンドノベルです)、プレイヤーに物語の続きを想像/創造してほしいというやり方は面白い。でも、ライターは、自分が説明しなければならない義務があるところまでは、語る必要があったのではないでしょうか。この作品は、最低限やらなければならないところまで、語ることができていないと思います。



 繰り返しになりますが、今作は『作品としては』本当によくできていたと思います。ゲームクリア後も楽しむために、考察する余地を設け、想像/創造させるという可能性を与えるという点で。私が気に入っているゲームにserial experiments lainという作品があり、この作品は現実と空想の境界を取り除いてゲームを現実に持ちこもうとした恐ろしいゲームで、かなり実験的な(タイトルにも含まれていますが)要素の強い作品でしたが、それゆえに強烈な印象を残しました。今作にも、少なからずそういった要因があり、ゲームクリア後にもプレイヤーの現実に影響を与えようとしました。

 こういった挑戦的なコンセプトを含む作品は私の好むところであり、普通に考えればお気に入りになって間違いないのですが、それでも今作がお気に入りだと強くいえないのは、単純に『物語』が面白かったなかったからでしょう。やはり今作の最大の問題は、基礎となる『物語』に魅力が足りなかったことに尽きます。きっと、もっと『物語』が面白ければ、もっと『物語』にプレイヤーをひきつけるような魅力があれば、こうは思わなかったでしょう。重ね重ね、惜しい作品でした。

 以上です。最初はこの作品内に『物語』についても詳しく考察して分析しようと思っていましたが、記憶が失われ始めているのでこの辺りで終えたいと思います。しっかりした考察を書くなら、メモを欠かしてはいけないと痛感しました。
プロフィール

SAIN455

Author:SAIN455
漫画、ラノベ、ゲームなどのネタバレ感想記事を書いています。ネタがあるときはコラムみたいなものも書きます。あとアマゾンアソシエイトに参加してます。以下定型文。「このブログはAmazon.co.jpを宣伝しリンクすることによってサイトが紹介料を獲得できる手段を提供することを目的に設定されたアフィリエイトプログラムである、Amazonアソシエイト・プログラムの参加者です。」

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